6-2 死んだ社畜は化け物扱いを受ける
「はい、では今日は皆さんに魔法についての講義を行います」
「「「「「はぁ……」」」」」
二日後、学院の訓練場で学長がそう宣言した。
休日にもかかわらず多くの生徒がやってきていた。
一学年300人前後の六学年なので2000人近い全校生徒のうち600人程度が来ているようだから、大体3割程度だろうか?
割合で話せば多くは聞こえないが、人数だけならばかなり壮観である。
本来ならば、この訓練場は最大でも200人程度しか同時に使えないようになっている。
そんな広いところにこれだけの数がいるので、一杯になってしまっているわけだ。
「あの~」
「はい、なにかな?」
一番前にいた一人の女生徒が手を上げる。
学長は手を上げた女生徒に指差し、質問を許可する。
「魔法について講義をするのでしたら、別に教室でもいいのでは?」
「うん、なかなか的を射た質問だ。たしかに、講義をするのなら、普通は教室だろう」
「なら、なんで……」
「しかし、今回の講義は君たちにより実践的な魔法を学んでもらうために行うんだ。そのために、実際にやってみようということだ」
「へ?」
学長の説明に女生徒はよくわからないといった表情を浮かべる。
他の生徒たちも同様である。
ほとんどの生徒が学長の言っていることがわからないようだ。
そんな彼らに学長は質問をする。
「君たちは自分たちがどうしてグレイン君に勝てないか、わかっているかい?」
ものすごい直球で質問していた。
人に教える立場の人間が教え子にするような質問の仕方ではないな。
現に、生徒の大半が学長に対して苛立ちを覚えているじゃないか。
というか、苛立ちの視線がこちらにも向いている。
もう少し、配慮して発言しろよ。
「……そこのガキが化け物だからじゃねえの?」
「「「「なっ!?」」」」
男子生徒の一人が俺を指さし、そんなことを言ってきた。
周囲にいた生徒たちは突然の発言に驚きを隠せない。
だが、大勢の生徒の中には同様の考えを持っている者もいるようで、所々に彼の言葉に賛同するものがあった。
「ふむ……確かにその通りだろう」
「おい」
学長の言葉に俺は思わず反応してしまった。
人を化け物扱いすんじゃねえよ、そんな化け物の俺が勝てないあんたは何になるんだよ、と思ってしまった。
「なら、俺たちが勝てなくても当然……」
「それは【逃げ】だな」
「なっ!?」
だが、学長は原因を俺だけに押し付けなかった。
学長の言葉に答えた男子生徒が驚きの声を上げる。
いきなりの言葉に男子生徒が反論しようとする。
「そいつが化け物だということは認めているんだろう? だったら、俺たちが勝てなくてもおかしくはないだろう」
「たしかに、現状ではグレイン君に勝てる者は生徒どころか先生たちもほとんどいないだろうね」
「先生たちに勝てないような化け物に俺たちがどう勝て、と……」
「「自分たちより上の存在が勝てないから、自分たちは勝てない」──そういう考えが【逃げ】だと言っているんだよ」
「くっ!?」
学長の指摘に男子生徒は悔し気に唇を噛む。
ムカついてはいるが、言われていることがもっともだと自分でも感じているのだろう。
そんな彼に学長は説明を続ける。
「たしかに自分の考えの及ばない存在に対して、何もできないと思うのはおかしいことではない。だが、だからといって無抵抗にそれを受け入れるのは問題なんだよ?」
「じゃあ、どうすればいいんだよっ!」
男子生徒が吠えた。
自分のやっていることを否定され、ならどうすればいいのかがわからないのだろう。
彼もまだまだ子供なのだ。
自分の今までやってきたことを否定されてしまえば、次にどうすればいいのかわからなくなるのだ。
それを正しく導くのが大人の役目なのだ。
「そのために今回の魔法の実践を交えた講義だよ」
「「「「「は?」」」」」
「君たちの想像もつかない存在であるグレイン君がどのように魔法を使っているのか、それを教えてもらうための講義を行うんだ」
「「「「「はあ?」」」」」
こっちに丸投げしやがった。
てっきり、学長が教えるのだと思っていたのだが……
抗議の視線を向けると、学長は笑顔で答えてくれる。
「私が教えるのも考えていたんだけど、残念ながら私の使う魔法は君たちの魔法とはまったく異なるものだ。というわけで、君たちの魔法の派生形である、グレイン君の魔法を教えてもらおうというわけだ」
「……まあ、いいか」
学長の言っていることは理解できた。
こちらに丸投げしたことはムカついたが、言っていることは間違っていない。
彼らに教えられるのは、俺の方がふさわしいようだ。
「そんな化け物が使っている魔法が俺たちにも使えるのか?」
「詠唱だってしていないじゃないかっ!」
「しかも、使っている魔法は明らかに私たちより威力が高いわ。そんなの、使えるわけが……」
生徒たちからそんな声が漏れてくる。
どうやら、俺の魔法は完全におかしいもの扱いのようだ。
理解できないようだから、そう思われても仕方のないことかもしれないが……
さて、どうしたものか?──そんなことを思っていると、学長が話しかけてくる。
「グレイン君、なんか初級魔法を使ってみてよ」
「わかりました。……【アクアボール】」
俺は直径30センチほどの水球を右手から出した。
それだけで周囲の生徒たちは驚きの声を上げる。
この程度で声をあげるのか……このレベルで大丈夫なのか?
思わず心配してしまった。
「これは【水属性】の初級魔法である【アクアボール】だ。当然、【水属性】の適性があるものなら最初に覚える魔法だろう」
「ええ、そうですね。この場にいる適性のある者なら、全員が使えるのではなくて? 2回生以降なら、ほとんどが中級魔法も使えるでしょう」
学長の言葉に女生徒の一人が答えた。
あっ、この人は二日前に俺と戦った人だ。
つい最近、出会ったからよく覚えている。
そんな女生徒に学長が提案する。
「では、あの水球を君の魔法で壊してみてくれないか? どんな魔法を使っても構わないよ?」
「えっ!?」
学長の提案に女生徒が驚きの声を上げる。
おそらく、この場にいる全員がそんなことは簡単だと思ったのだろう。
なんせ俺が使っているのは【水属性】の魔法の中でも初歩中の初歩の魔法である【アクアボール】。
おそらく、どんな魔法を使ったとしても簡単に壊せると考えるのが普通だ。
だからこそ、学長の提案に疑問を感じたのだろう。
「壊すことができたら、私が特別に魔法を教えてあげよう」
「えっ!? 本当ですか?」
学長の言葉に女生徒の目が輝く。
学長に教わる魔法に興味があるのだろう。
まあ、学長はエルフ──魔族同様に魔法が得意な種族であるため、彼しか知らない魔法だってあるのかもしれない。
そんな魔法を知ることができるのだ。
せっかくのチャンスを不意にするわけにはいかない。
女生徒はその提案に乗ろうと思ったのだろう。
「じゃあ、やりま……」
「それ、俺がやるよ」
「私がやりますっ!」
「あんな魔法、僕でも簡単に壊せますよっ!」
学長のせいで他の生徒たちに火をつけてしまった。
面倒なことになってきた……
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