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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第六章 小さな転生貴族は王立学院に入学する 【学院編1】
201/618

6-1 死んだ社畜は見世物のように戦う


「試合開始」


 審判の先生が高らかに宣言する。

 その瞬間、会場中の人間が目の前の光景に集中し始める。


((ザッ))


 二人の男子生徒が地面を思いっ切り蹴って、勢いよく駆けだした。

 二人は真逆に、ちょうど線対称になるように走っていた。

 その速さはかなり速いと言わざるを得ない。

 ある程度訓練していたとしても、目で追いかけるのがやっとだと思われるからだ。

 まあ、俺は視認できているわけだが……

 しかし、まず対処するのはこいつらではない。


「水の礫よ 彼の者を貫け 【アクアバレット】」

「ふんっ!」

「なっ!?」


 開始地点にいた女子生徒が魔法を放ってきた。

 これは【水属性】の初級魔法だろう。

 しっかりと魔力は練られており、威力も申し分ない。

 だが、俺に気付かれている状態で放つにはまだまだ実力が足りなさすぎる。


「「はっ!」」


 俺が水の礫を受け止めた瞬間を狙って、先ほど駆けだした男子生徒がダガーで斬りつけてくる。

 もちろん、刃は潰してある。

 多少の痛みがあるだろうが、大怪我を負わないようにするための配慮だ。

 そのため、男子生徒たちは鋭く振り抜こうとする。


((ガッ……ブンッ))

「「なにっ!?」」


 振り抜いた腕を掴み、俺は男子生徒たち開始地点に向かって思いっきり投げ飛ばした。

 もちろん、そちらに投げ飛ばしたのには理由がある。


「ブオウッ」

「ふんっ!?」


 なぜなら、すでにもう一人の男子生徒が近づいていたからだ。

 身長は180センチぐらいだろうか、学生にしてはかなりの巨体の持ち主が同じぐらいのハンマーを振り下ろしてきたのだ。

 俺は其のハンマーに合わせて、拳を振り上げた。

 ガンッ、と鈍い音が鳴り響いた。

 巨体の男子生徒がニヤリと笑みを浮かべる。

 普通なら、これで倒したと思ったのだろう。

 だが、あいにくと俺は普通ではない。


「おらあっ!」

「ぶもうっ!?」


 俺は【身体強化】で巨体の男子生徒を開始地点までぶん投げる。

 もちろん、彼のハンマーも一緒だ。

 その光景に会場中から落胆の声が漏れ聞こえてきた。

 おい、戦っている途中だぞ?

 失礼だと思わないのか?

 まあ、戦っている最中の俺はそれを注意することはできない。

 俺は右手を掲げて、魔力を集中させる。


「【アクアウェーブ】」

「「「「うわあああああああああああああっ!?」」」」


 俺が発生させた波に生徒たちは巻き込まれた。

 そして、波が引いた後には気絶した生徒たちが倒れていた。

 そんな彼らのもとに審判の先生が近づく。

 そして、気絶しているのを確認し……


「試合終了、勝者グレイン=カルヴァドス」

(((((パチ、パチ、パチ……)))))


 審判の先生が高らかに宣言するが、会場からはまばらな拍手しか返ってこなかった。



◆ ◇  ◆  ◇  ◆


「流石グレインね。四回生が複数人相手でも勝てないなんて……」

「あの人たち、冒険者ギルドで依頼とか受けているんですよね? だから、あんなに連携がとれていたんですかね?」

「でも、グレインの方が上手だったみたいね。まあ、何人集まってもグレインに勝てるとは思わないけどね?」


 試合後、カフェテリアではささやかな祝勝会でアリス、レヴィア、ティリスが俺のことを褒めてくれた。

 ここにいるのは俺、アリス、シリウス、ティリス、レヴィア、リュコ──あと、なぜかイリアさんとシャルロット王女がいた。

 なんでこんなメンツで?


「……素直には喜べねえな」

「なんで?」


 俺の言葉にアリスが首を傾げる。

 そんな彼女にシリウスが説明する。


「だんだん会場中の雰囲気が悪くなっているからね。今日の人たちが相当の実力者だったのも原因かな?」

「どういうこと?」

「入学してから1ヶ月、今まで四回もグレインとの【特別試験】が行われてきた。四回の合計で50試合以上、合計で150人近く戦ったはずだね」

「たしかにそうね。最初のころは多かったけど、だんだん挑戦者が減っているように感じたわ。まあ、そのおかげで実力者だけが挑戦するように感じたけど?」

「それが問題なんだよ」

「そうなの?」


 シリウスの説明にアリスは首を傾げる。

 ティリスもわかっていないようだった。

 そんな彼女たちにイリアさんが分かりやすく説明する。


「最初の方はグレインのことを舐めてかかった生徒たちも試験に参加していたの。それで無理だと分かった生徒たちはやめ、実力のある生徒たちが挑戦するようになったの。それはわかるわね」

「「うん」」

「だけど、その実力者たちがグレイン相手に負けてしまった。しかも、完膚なきまでに……そのせいで見ていた生徒たちはどんなことを思うかしら?」

「……グレインが強すぎる?」

「……誰も勝てない?」

「そういうことね。まあ、学長もグレイン君には誰も勝てないことをわかったうえでこんな試験を作ったわけだけど、このままだと生徒たちのやる気を奪いかねないわね」


 流石はイリアさん。

 現状をよく理解している。

 この試験は生徒たちに世界の広さを認識してもらうために行っているものだ。

 当然、勝てるとは最初から考えていない。

 元々、負けるために行われているものではあるのだが、このまま生徒たちのやる気が無くなってしまうのはまずいのだ。

 生徒たちのやる気が削がれてしまうということは、生徒の実力の低下にもつながってしまうわけだ。


「でも、どうしたらいいの? だからといって、グレインが手加減するわけにもいかないし……」


 シャルが会話に入ってくる。

 こういう風に会話に入ってこれるぐらいにまで仲良くなれたのはよかった。

 そんな彼女の質問に俺は悩みながら答える。


「とりあえず、生徒たちの実力を上げないと話にならないと思うな。けど、一朝一夕でどうにかなるものでは……」


 俺の言っていることが一番の解決方法ではあるが、そう簡単にいくものではないことはこの場にいる全員が理解していた。

 そして、解決方法を考えようと頭を悩ませていると……


「ふははははっ、そういうときは私の出番だよっ!」

「「「「「学長っ!」」」」」


 なぜか会話に学長が入ってきた。

 いつから聞いていたんだ、この野郎……


「予定は次の休みがいいかな? そうしたら、参加者も増えるはずだ……」

「おい、何を考えているんだ?」


 なにやら不穏なことを考えているようだったので、俺は学長を止めようとする。

 しかし、そんな俺の手をひらりと回避し、学長は立ち去ろうとした。


「では、他の先生たちの意見を聞いてくるよ。楽しみに待っていてくれ」

「「「「「……」」」」


 嵐のように立ち去った学長を俺たちはただただ見送ることしかできなかった。

 さて、一体何をやらかすのやら……






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