1-1 死んだ社畜は天国に? (改訂版)
※主人公の一人称が「俺」と「僕」が入り混じっていますが、誤字ではありません。(間違っている部分はある可能性がありますが……)
基本的には「俺」が一人称で、心の中や親しい人相手にはこちらの一人称を使います。
「僕」については、目上の人や礼儀に厳しい人の前でこちらを使うことになります。
こちらについては、あくまでも子供が使っているため「僕」となっております。
社会人としては「私」とかが適切なのでしょうが、(見た目)男の子が使うのは周囲から見てもおかしいと思う可能性があるからです。
普通の男の子なら、大人と会話をするときには自分のことを「僕」と言いそうですし……
まあ、使う子もいるかもしれませんが……
大人の目から見て、自分や知り合いの子供が「私は~だと思うので、~だと考えます。いかがでしょうか?」などと堅苦しい表現をするのは明らかにおかしいでしょう。
少なくとも作者は子供には子供らしく過ごしてほしいと思うタイプなので、このような表記となっております。
あと、たまに子供らしさの仮面が外れ、「俺」という表現に戻ります。
※今作の主人公のコンセプトは「断れない性格のせいで社畜になってしまった主人公は異世界転生してもいろいろと巻き込まれる」です。実際にいる社畜の方についてはわかりませんが、別にいない可能性はないと思っています。ちなみに作者はアルバイト経験しかありませんので、実際の社畜がどのような人なのかは知らないので、想像で考えています。
社畜要素については、あくまでも「元社畜」という点だけです。メインは「巻き込まれ体質のせいで結果的に事件に巻き込まれる」というテーマですので、異世界転生してからの社畜要素はあまりないと思ってください。子供として転生しているので、子供が社会人のような振る舞いをするのは奇妙ですしね。
「ん……ここは、どこだ?」
目を開くと、まず視界に入ってきたのは見知らぬ天井だった。
俺──吉田 歩はいきなり視界に映った光景に思わずそんなことを言ってしまった。
少なくとも目の前にあるのは俺の記憶にはない天井だった。
「……よっこいしょ」
俺はゆっくりと体を起こし、周囲を見渡してみる。
360度すべてを見たのだが、やはりこの場所の記憶が俺にはなかった。
そこは一言でいうなら【白】──設置されている家具などもすべて【白】で統一された空間だった。
大体8畳ほどのスペースだろう、一人暮らしをする分にはちょうどいい広さではあるが、全体が真っ白であるという異常な空間のせいで正直かなり居心地が悪い。
こんな変な場所に住む奴の気が知れな……
「変な場所でわるかったわね。私はこの何もない空間が一番落ち着くのよ」
「っ!?」
いきなり背後から声が聞こえてきたので、俺は驚いておもわず身構えてしまう。
左半身を前にした状態で両手を口元まで上げる──ボクシングで言うピーカブー(覗き見)スタイルである。まあ、ボクシングなんてしたことはないのでこの体勢で何かできるわけではないのだが……
とりあえず、相手がいつ仕掛けてきてもいいように意識を声の主に向けた。
「そんなに警戒しなくていいわよ。流石に自分の部屋で暴れたくはないからね?」
「……」
そこにいたのは金髪の美女だった。
いや、そんな生易しい言葉で表現できるような存在ではないな。
腰のあたりまであるウェーブした金髪、ボンキュッボンという表現が似合うグラマラスな体型、光を反射しそうなほど真っ白な肌──簡単に言うとそれらのすべての条件を兼ね揃えた、まさに【絶世の美女】と呼ぶに値する存在だった。
それぞれの条件を持っている女性は多くいるだろうし、世の中には先ほどの条件をすべて兼ねそろえた美女もどこかにいるかもしれない。
だが、それでも俺は確信を持って言える──「目の前の美女より美しい女性はいない」、と。
正直なところ、そんなレベルのルックスは自然に手に入るものではないだろうし、おそらく整形か何かをして……
「失礼ね。これはすべて天然ものよ」
「っ!? ああ、すみません」
目の前の女性がジト目で文句を言ってきたので、俺は思わず謝罪の言葉を告げる。
相手が怒っていることをすぐに察して謝罪する──三流の大学を卒業してから今の会社で働いている4年の間に身に付けた悲しい習性である。
怒られていることを察したら即座に謝罪し、とりあえずこちらのペースに持ち込むのだ。
といっても、今回の場合は俺の方に非があるのを理解していたので、ちゃんとそういう気持ちは込めている。
「まったく……どうして私の姿を見て、そんなことを思うのかしら?」
「……(美人だが、残念な感じだな)」
「……誰が残念な女よ」
「えっ!? 口に出てたのか?」
心の中で考えていたことを指摘され、俺は驚きの声を出してしまう。
いや、先ほどの考えは口に出していなかったはずだ。
自分の思っていることが即座に口に出てしまうようなら社会人としてはあまりよろしくないので、そういうのは注意しているのだ。
ならば、どうして彼女は俺の言ったことが分かったんだろうか?
驚く俺は女性の方に視線を向けると、彼女は呆れたような表情で睨みながら口を開く。
「あんたの表情を見れば、そんなことを考えているのはわかるわよ」
「……そうですか」
「それに私は【女神】よ? 相手の考えていることぐらい読めるわよ」
「……(やっぱり頭がおかしいのか?)」
「誰の頭がおかしい、ですって?」
「すみません」
彼女は般若のような表情になったので、即座に頭を下げた。
絶世の美女の綺麗な顔が怒りの表情を浮かべると、美しいのに恐怖を感じるという何とも言い難い感覚を覚えてしまったのだ。
見ていると何かが削れる──そう思ったので、視線を逸らすという意味を込めて頭を下げたわけである。
しかし、先ほどの問答で一つ分かったことがある。
「俺の考えていることがわかるというのは本当の事なんですね?」
「ええ、そうよ。だって、私は【女神】なんだから」
「……わかりました。とりあえず、どうして俺の目の前に【女神】様がいらっしゃるんでしょうか?」
彼女が女神かどうかについては今はどうでもいい。
それよりも今のこの状況について何らかの情報を得る方が先である。
そんな俺の質問に【女神(?)】様は答える。
「それはあんたがここに来たからよ? 元々、ここは私のいる場所なんだから」
「? どういうことですか?」
彼女の言っている意味が分からなかった。
俺が彼女のいる場所に現れたこと自体は理解できたのだが、どうしてそんなことになっているのかがわからない。
日本の三流企業であくせくと働く社畜の俺は【女神(?)】様の前に行くことができるような生活を送っているわけではなかった。
まあ、どのような生活をすればそんなことになるのかはわからないのだが……
だが、そんなことを考えている俺に彼女はとんでもない事実を突きつけてきた。
「だって、あんた死んだわよ?」
「なるほど、俺は死んだんですね……って、えぇっ!?」
あっさりと言われたので受け入れてしまいそうになったのだが、すぐにとんでもないことを言われたことに気付いたので驚いてしまう。
流石に自分が死んだことを突きつけられて、驚かない人間はいないだろう。
……死んだ後にそれを突きつけられること自体あるはずはないのだが。
そんなことを考えていると、頭の中にある記憶が呼び起こされる。
勢いよく迫ってくるトラック。
甲高い少女の悲鳴。
まさに目の前にあるライトと直後にホワイトアウトした視界。
「これは……」
「あんたが死んだときの記憶よ。どうやら交通事故のショックで記憶があやふやだったようだから、私が思い出させてあげたのよ」
「……そうですか」
正直余計なことはしないでほしかった。
自分が死んだこと自体は思い出すことはできたのだが、流石に死んだ時の光景を見せられるのは精神的にきつかった。
その時の痛みなんかを思い出すことはなかったが、正直夢に出てきそうなぐらいのトラウマになりそうだった。
まあ、死んだ後に夢を見るどころか寝るなんてことがあるかはわからないが……
だが、記憶を思い出して、少し気になることが出てきた。
「そういえば、あの助けた少女はどうなりましたか?」
「それはあんたのおかげで助かったわよ。まあ、助けてよかったかどうかはわからないけどね?」
「どうしてですか?」
彼女の言葉に俺は疑問に感じてしまう。
俺が命を懸けて助けた命なのに、どうして助けてよかったかどうかはわからないのだろうか?
そんな俺の疑問に彼女は答える。
「あの女の子はね、今日自殺しようとしていたのよ。だからこそ、あんなに考えこんでいたわけよ。といっても、自殺をする前に交通事故に遭ってしまうわけだけどね?」
「なっ!? なんで、そんな……」
「年頃の女の子──いや、男の子もかもしれないけど、そんな子供たちが自殺を考える理由なんて一つしかないじゃない?」
「もしかして、【いじめ】ですか?」
「ええ、そうよ。正直、最近の子供は本当に残虐なことを考えるわよね? 正直、女神として長い歴史を見てきた私でも引いてしまうぐらいとんでもないいじめがあるわよね? 現代日本ってそんなに荒んだ世界なのかしら?」
「……」
彼女の言葉を否定することはできなかった。
俺はそんないじめをするような人間ではないことは自負できるが、それはあくまで俺だけの話だ。
いや、現代日本のほとんどの人々はそんなことを考えないだろう。
いじめをするような一部の人間だけの特殊な考えのはずだ。
だが、彼らも一応俺たちと同じ日本人であるため、違う考え方を持っているというだけで爪弾きできない。
「まあ、とりあえずあんたの助けた女の子は自殺をすることはないんじゃないかしら?」
「……どうしてそんなことを言えるんです?」
「そりゃ、命がけで助けてもらったのよ? 自分の命を粗末にするような馬鹿はそうはいないでしょう?」
「まあ、そうですけど……自殺をするほど追い詰められていたんですよね? そう簡単に考えは変えられないような……」
彼女の言うことを否定はできないが、素直に受け入れることはできない。
いや、そうなって欲しいとは思うが、それはあくまで俺の気持ちだ。
現実が必ずしもそのように動くとは思えない。
現に俺が仕事をしたくないと思っていても俺の周りに仕事がどんどん集まっていくのが現実だったのだから……
「まあ、実はもう立ち直っているのよ、彼女。ある出来事をきっかけに、ね?」
「え? 何があったんですか?」
「それは言えないわ。今のあんたに伝えることはできないの」
「……そうですか」
「とりあえず、あんたの助けた少女が前向きになったんだから、それでいいじゃない。自分の命を懸けて一人の少女を助けたなんて、なかなかいい話じゃない」
「……それもそうですね」
彼女の言葉に俺は少し気が晴れた。
たしかに、今さらそんな理由を聞いても仕方がない事だ。
俺の命で一人の少女の心を助けた──その事実だけで十分だ。
俺は心の中で満足することにした。
「さて、あんたにはこれから二つの選択肢があるわ」
「二つ、ですか?」
俺が満足していると、彼女はそんなことを言ってきた。
その言葉に僕は首を傾げてしまう。
いや、二つということはもはやわかり切っていることかもしれない。
天国か地獄か、ということだろう。
「違うわよ」
「えっ、違うんですか?」
どうやら天国か地獄の選択肢ではないようだ。
まあ、その二つだった場合は俺の生前の行動をもとに向こうが勝手に決めることだろうから、俺が決めることではないだろう。
問答無用でどちらかにぶち込まれているはずだ。
では、一体どういう選択肢なんだろうか?
「一つはこのまま天国に行くことね。あんたは特段悪い事はしていないようだし、最後に人助けをしていた。そのおかげで天国の中でも上位の場所に行くことができるわ」
「……なるほど」
「もう一つは剣と魔法の存在する異世界で転生することね。記憶をそのままにチートとかももらえる──まさに強くてニューゲームということね」
「……」
よくある異世界転生みたいな選択肢だ。
小説とかでよく見たことがある選択肢ではあるが、まさか自分がそんな選択を迫られるとは思わなかった。
おそらく彼女は異世界転生の方を推しているのだろう。
明らかにそちらの説明をしている方が生き生きとしている。
まあ、俺が選ぶ選択肢は最初から決まっている。
「じゃあ、天国で」
「なんでよっ!?」
即決で天国を選んだら、なぜか彼女は叫んだ。
いや、普通はこっちを選ぶものではないのだろうか?
「だって、その異世界転生をしたら、何かしないといけないんじゃないですか? 魔王を倒す、とか?」
「流石にそんなことは強制しないわよ。まあ、自己判断で悪の化身を倒したりすることは止めはしないけどね?」
「……そういう存在がいることは否定しないんですね?」
「ええ、もちろんよ。というか、普通の日本人は剣と魔法のある異世界に行けるなんて話を持ち掛けられたら、即決するものじゃないの?」
俺の反応に彼女は首を傾げる。
彼女の中では日本人は中二病真っ盛りのおかしな人間だと思われているのだろうか?
まあ、サブカルチャーが発達して、そういう作品が世にたくさん送り出されている時点で否定はできないのかもしれないが……
けれど、俺は違う。
「前世では死にたいと思っていたぐらい働かされていたんです。流石に異世界に転生してまで働きたくはないですよ」
「……ああ、書類にそんな感じのことが書いてあったわね。たしか毎日終電間際まで働かされて、休日出勤のおかげで休日なんてあってないような生活。しかも、ときどき次の日が昇るまで仕事をさせられることがある。趣味といえば、近所にある大型書店で立ち読みすることだったかしら? うわ、こんな生活楽しいの?」
「……楽しいわけないでしょう」
彼女が何やら書かれてある紙を読み上げたのだが、どうやら俺の生前について書かれているようだった。
まさかそんな情報まであるとは……これは彼女が【女神】であるということは信じないといけないのかもしれないな。
「仕方がないわね。だったら、そういう危険がないような異世界に転生させてあげるわ。貴族の次男坊とかだったら、そうそう危険にさらされることとかないでしょう」
「……それだったら天国でよくないですか? 天国だったら確実に危険にさらされることはないと思うんですけど」
「お断りよ」
「なんでっ!?」
まさかの拒否に俺は驚いてしまう。
どうして天国を希望するのを断られないといけないんだろうか?
「天国を希望するやつらが多すぎて、キャパオーバーなのよ。そのせいで私たちには天国じゃなくて異世界転生を選ばせるように言われてるのよ。しかも、ノルマ付きで……」
「うわぁ……」
「今月はあと一人なの。あんたさえ頷いてくれれば、私は上司に頭を下げなくて済むのよ」
「……」
神様の世界も大変なんだな、と思ってしまった。
てっきり何でもできるから楽な生活をしているのかと思っていたのだが、人間とさして変わらないのかもしれない。
そんな彼女の姿に同情してしまったのだろうか、俺は思わず首を縦に振ってしまった。
「はぁ……わかりましたよ。異世界に転生しますよ」
「本当っ!?」
俺の言葉に彼女は満面の笑みを浮かべる。
やはり美人は怒った表情より笑顔の方がいいな、関係はないがそんなことを思ってしまった。
こうして俺の異世界転生は決まったのだった。
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