5-26 死んだ社畜は土地について説明する
今回は経営についての説明をしていますが、これはあくまで個人的な見解です。
作者は特に経済や経営関係の勉強などをしたわけではないので、今回書かれていることはほぼ素人の言葉です。
気になる人はいるかもしれませんが、質問されても答えられませんので悪しからず……
「「「「「……」」」」」
俺以外の子供たちが全員、言葉を発することができていなかった。
俺たちは今、バランタイン伯爵の屋敷の前──正確に言うと、門の前までやってきていた。
ここからでも大体の敷地の広さや屋敷の大きさを把握することができる。
それを踏まえて、子供たちはこう思っているに違いない。
(((((思ったより小さいな)))))
貴族としてはうちよりも格段に高い爵位を持っているバランタイン伯爵の屋敷はひところで言うならばうちの屋敷に比べて7割程度の大きさしかないのだ。
うちの屋敷になれている場合、小さく感じてしまうのも仕方のないことかもしれない。
「はははっ、屋敷が小さいと思うかい?」
「「「「「っ!?」」」」」
心の声を読まれたと思ったか、アレンの質問に子供たちが驚いてしまう。
完全に図星のようだ。
まあ、子供だからこそ見たままの光景を素直に受け取ってしまうものだ。
それをアレンも理解しているだろう。
「確かにこの屋敷はうちより小さいのは事実だね」
「お父さんっ!」
アレンのあけすけな言葉にシリウスが驚いてしまう。
いくら親戚に分類されるとはいえ、男爵のアレンがバランタイン伯爵の屋敷を馬鹿にしたのだから、驚いて当然である。
しかし、そんなシリウスの様子にもアレンは気にした様子もなく、言葉を続ける。
「これぐらいのことでは気にしないさ、バランタイン伯爵はね。それに俺はあくまで事実を述べただけだよ」
「それでも、言っていい事と悪い事があると思うんだけど……」
「言わんとすることはわかるが、別に王都でうちの屋敷より小さな屋敷で住んでいることは別におかしい事じゃないぞ?」
「「「「「えっ!?」」」」」
アレンの言葉に今度は全員が驚いた。
まあ、当然だろう。
しかし、それぐらいはすぐに思い至って欲しいものではあるが……
「王都で屋敷を持つのと、自分の領地で屋敷を持つ難しさの違いだよ」
「「「「「?」」」」」
アレンの言葉に子供たちは首を傾げる。
子供には難しい話だっただろうか?
いや、正確に言うと、レヴィアとシリウスはなんとなくではあるが理解しているみたいだ。
アリス、ティリス、ハクア、クロネの四人はまったく理解できていないようだが……
とりあえず、アレンの説明だけでは情報が足りないと思ったので、俺が補足しておくことにする。
「カルヴァドス男爵領は辺境の地だから人がやってこない、よって土地が余っている……だからこそ、簡単に大きな屋敷を建てることができる……これはわかる?」
「「「「うん」」」」
俺の説明に四人は頷く。
なら、次の説明ができる。
「逆に、王都というのはリクール王国の中で最大都市だから人がやってくる。人がたくさんいるということは、土地はどうなると思う?」
「「「「余らない」」」」
「うん、そうだね。余らないということは足りないということ……つまり、欲しいと思っても、買うことができないんだ」
「「「「うん」」」」
俺の説明に頷いてくれる。
この説明では分からないかと心配していたが、意外と理解できるようだ。
「じゃあ、土地を売る側からすれば、どうするべきだと思う?」
「? そんなのわからないわ」
俺の質問に少し考えるそぶりを見せるが、すぐに匙を投げるアリス。
先ほどまではしっかりと理解していたのに、簡単に諦めすぎではないだろうか?
まあ、彼女には少し難しかったのかもしれない。
仕方がない、説明するか……と思ったのだが、その前にクロネが言葉を発する。
「土地の値段を上げるの?」
「おっ!? その通りだよ、クロネ。流石だ!」
「えへへ」
答えが出るとは思わなかったので、手放しでクロネのことを褒めてしまった。
俺が頭を撫でると、彼女は嬉しそうにはにかんでいた。
こういう反応をされると、頭の撫でがいがある。
「「「「「む~」」」」」
そんな俺たちの様子をアリスとハクア、婚約者たちがジト目で見てくる。
いや、なんでそんな目を?
まあ、これは気にしない方向にしよう。
「売り手側からすればより多くの利益を得るため、値段によって買い手の競争率を下げるために値段を上げるのさ」
「競争率を下げる?」
俺の言葉にティリスが首を傾げる。
リオンの娘だから、彼女がわからないことは理解できていた。
ちなみにアレンの娘であるアリスが理解できないのも想定の範囲内である。
「ああ。値段が安かったら、たくさんの人が買おうとするのはわかるよね?」
「うん」
「つまり、競争率が高いというわけだ。そして、王都にある土地は有限だから、その全員が買うことができるわけじゃないんだ」
「まあ、そうよね」
「値段が安い場合は競争率が高くなってしまい、それが客同士の争いになったり、権力などを使って無理矢理購入しようとする問題になってくるわけだよ」
「う~ん……わかるような、わからないような?」
俺の説明にティリスは悩んだようなそぶりを見せる。
まあ、10歳の少女には難しい話だろうから、仕方のない事だろう。
逆に理解しているシリウスやレヴィアが凄いのだと考えよう。
「とりあえず、値段が安いせいで客が増えて何か問題が起こってしまうから、値段を高くして客を減らすことで問題を減らそうとしたわけだ」
「……」
「そして、値段が高くなったということで、伯爵みたいな貴族として権力のある家でもうちより小さい屋敷でもおかしくはない、というわけだよ」
「……なるほど。理解できたわ」
ティリスが俺の説明に納得してくれた。
アリスも同様で、うんうん頷いていた。
本当にわかっているのだろうか?
ちなみにハクアは俺の長い話のせいでうとうとしていた。
案外、彼女はこういう話は向いていないのかもしれない。
このままではアリスやティリスのような女の子まっしぐらな気がするので、少し教育方針は考えた方が良いかもしれない。
今度、両親に進言しておこう。
そんなことを考えていると、話を聞いていたアレンが再び会話に入ってくる。
「まあ、グレインの言っていることはあくまで考え方の一つだよ? 間違いではないけど、他にもいろんな理由があるんだよ」
「えっ!? そうなの?」
アレンの言葉にアリスが驚きの声を出す。
俺の言っていることがすべて正しいと思っていたのだろう。
彼女らしいことである。
ちなみにティリスも同様の表情だった。
そんな二人は自信満々に話していた俺に向かって、何とも言えない表情を向けていた。
まるで俺が悪い、といった表情だ。
しかし、流石にそんな表情を向けられるのは心外である。
別に俺だって、先ほど話した原因だけでこの状況になったわけではないことぐらいわかっている。
「僕は一番わかりやすい理由を説明しただけだからね? というか、他の理由とかもいろいろと話して、理解できていた?」
「「うっ!?」」
俺の指摘に二人は苦し気に声を漏らす。
図星だったのだろう。
先ほどの説明ですら十全に納得できていなかったのに、他の説明を聞いて納得することなどできるはずがない。
頭がこんがらがって、思考を放棄する結果になるだけだ。
「がははっ、こりゃ一本取られたな」
「ああ、そうだね。とりあえず、二人はグレインみたいにはならなくていいから、もう少し勉強をしようね」
娘たちの反応に父親たちは苦笑を浮かべながら慰める。
その姿は父親らしいと言えるが……
「それは二人にも言えることよ?」
「……もう少し領地経営とかその他諸々の勉強をすべき」
「「ええ~」」
父親たちはエリザベスとクリスに指摘をされ、嫌そうな表情を浮かべていた。
娘たちに勉強を頑張らせるには、まず自分たちが頑張らないといけないということだ。
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