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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第五章 小さな転生貴族は王都に行く 【少年編4】
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5-25 死んだ社畜は憐れむ


「それでは、私たちはこれから公爵家の屋敷に向かいます。王都まで一緒に来てくださって、ありがとうございます」

「いえいえ、乗り掛かった舟ですから、気にしないでください」


 イリアさんの言葉にアレンが笑顔で答える。

 普通の貴族ならばこういう会話の中にもいろいろと建前などが入ってくるものではあるが、今回は二人とも本心からの言葉であろう。

 二人の表情から、裏の考えがあるように見えないからだ。

 といっても、確実にわかるのは裏表がほとんどないアレンの方だけではあるが……

 イリアさんはそういう腹芸は得意だろうから、本気で隠されてしまえば俺にも判断できないだろう。

 今回に関してはあくまで俺の推測である。


「グレイン君もまたね」

「ああ」


 アレンとの挨拶を終え、イリアさんがこちらに意識を向ける。

 そんな彼女の言葉に俺はあっさりと答える。

 もう少し何か言うべきだと思うが、こういう場面での言葉について俺はあまり得意ではない。

 そのせいで言葉が少なくなってしまうわけだ。

 だが、そんな俺の対応にモイリアさんは気にした様子もなかった。


「とりあえず、帰ったらグレイン君のことをお父様に話してくるわ」

「……公爵様に?」

「ええ。グレイン君がいかにすごい人かどうかを伝えるわ。楽しみにしててね」

「……お手柔らかに伝えてください」


 イリアさんの言葉に俺はげんなりとした表情で答える。

 普通は公爵と交流が持てるということで貴族としてうれしい限りのことなのだろうが、残念なことに俺には出世欲というものがない。

 「働きたくない、スローライフがしたい」が信条の俺としては、こういう他者から妬まれそうな案件については避けたいのだ。

 まあ、イリアさんが絡んできた時点でそれは避けられない事態ではあるが……


「ふふふっ」


 そんな俺の言葉にイリアさんは嬉しそうに微笑むだけだ。

 彼女の表情から俺の悪い情報が伝えられるとは思えないので、俺の命は保証されたと思われる。

 面倒ごとに巻き込まれる可能性は高いであろうが……


「「む~」」

「おいおい、何をそんなに膨れているんだ?」


 そんな彼女の様子に何やら怒っている様子のティリスとレヴィア。

 てっきり仲が良くなったと思っていたのだが、それは勘違いだったのか?

 そんな二人に気付いたイリアさんが口を開く。


「ふふふっ、待ってなさい。お父様を説得して、すぐに参戦してあげるわ」

「説得なんかしなくていい」

「……そんなことしなくても引く手数多じゃない」


 なんか意味の分からない会話をしている三人。

 一体どういうことなのだろうか?

 俺は思わず首を傾げてしまう。

 そんな俺たちの様子を微笑ましそうに見ている家族たち。

 一体、なんなんだよ……


 こうして最後に女の子三人が睨み合っていたが、おおむね問題なくイリアさんたちと別れた。

 イリアさんたちの乗った馬車が見えなくなった後、アレンが全員に声をかける。


「よし、じゃあ俺たちも行くことにしよう」

「どこに?」


 アレンの言葉にアリスが首を傾げる。

 彼女は本気でわかっていないようだ。

 ティリスやレヴィアも同様で、彼女たちもこれから向かう場所をわかっていないようだ。

 それ以外の人たちはきちんとわかっている。

 もちろん、俺もだ。


「バランタイン伯爵家の屋敷だよ。王都にいる間はお世話になるんだから、まずは挨拶に行かないと……」

「ああ、おじいちゃんの家ね」


 俺の説明にアリスがようやく納得する。

 ティリスもレヴィアも理解してくれたようだ。

 カルヴァドス男爵家は貴族の中では大した権力もなく、領地が王都から遠いためほとんど王都に行くことはないので王都に屋敷を持っていない。

 そういう下級の貴族の場合には王都で宿を借りるのが常であるのだが、今回は二週間も滞在するためそれなりの金額がかかってしまう。

 うちの場合はかなりの金額を儲けているのであまり問題ではないのだが、下級の貴族にとってはかなり痛い出費になっているのだ。

 そのため、こういう下級の貴族はあまり王都に立ち寄らず、どうしても必要な場合にはできる限りお供の人数を減らしてやってくるわけだ。

 だが、カルヴァドス男爵家には王都に屋敷を持っている貴族──バランタイン伯爵との交流があるので、王都にいる間はその伝手で宿代を浮かすことができる。

 ちなみになぜそんな人物と交流があるのかというと、アレンの第一夫人──クリスの実家であるからだ。

 クリシア=バランタイン──それが彼女の旧姓である。


「そういえば、お義父さんに孫を見せるのはこれで二回目か」

「ええ、そうね。シリウスとアリスが産まれたときに一度だけ会わせてあげたけど、それ以降はほったらかしにしていたわ」

「えっ!?」


 アレンとクリスの言葉に俺は思わず驚いてしまう。

よくよく考えれば、俺は現在のバランタイン伯爵家の人間に会ったことがなかった。

 いや、カルヴァドス男爵領と王都がかなりの距離があるためおいそれと向かうことができないし、俺自身があまり領地から出たくなかったので会うことがなかったのは事実だ。

 しかし、二人の今の言葉を聞いて、俺はバランタイン伯爵がかわいそうだと思ってしまった。

 なんせ、バランタイン伯爵というのは家族を愛しすぎているという噂があるほど有名な貴族だ。

 おそらくクリスのこともかなり心配しているはずだ。

 それなのに、クリスの子供に一度しか会っていないというのは彼にとってかなりの苦痛ではないだろうか?

 それについてエリザベスの方はどう思っているのかというと……


「まあ、私の子供を会わせても、ね?」

「……」


 エリザベスの話を聞いて、俺は少し納得することができた。

 バランタイン伯爵にとってクリスの子供であるシリウスやアリスは孫にあたるが、エリザベスの子供である俺については孫ではない。

 血のつながりがないからだ。

 たしかに、そんな子供が生まれたという報告をされても、向こうが困ってしまうと考えても仕方のない事なのかもしれない。

 といっても、一度しか会わせないのはどうかと思うが……

 そんな俺の気持ちと同じなのか、リオンとルシフェルも若干引き気味である。

 おそらくバランタイン伯爵に同情しているのだろう。


「と、とりあえず元気なことはしっかりと報告しないと……」

「そ、そうね」

「……久しぶりだから、楽しみ」


 そんな俺たちの視線に居心地が悪くなったのか、三人は視線を逸らしながら出発しようとした。

 いや、後ろめたいんだったら、きちんとしてあげようよ。

 いくら出不精でも、おじいちゃんのためだったら孫はある程度頑張るよ、たぶん……







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