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【書籍化】小さな転生貴族、異世界でスローライフをはじめました  作者: 福音希望
第1章 死んだ社畜は異世界に転生する 【幼年編】
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1-11 死んだ社畜はボードゲームをする (改訂版)


「あら、グレイン様。どうかなさいましたか?」


 アレンとの訓練の後、一度自室に戻ってからシリウスの部屋に向かう。

 そして、シリウスの部屋の近くで紅茶の入ったカップをお盆にのせた女性に声をかけられる。

 シリウスとアリスの専属メイドであるサーラだ。

 年齢は18歳──日本で言うならば、大学の1回生といったところである。

 腰のあたりまで伸びた茶色の長い髪とグラマラスな体型が特徴の女性で──優しげで包容力がありそうなところがリュコと比べるとかなり女性的な雰囲気を持っている。

 といっても、別にリュコが女性として劣っているというわけではないが……

 彼女はリュコよりも先にメイドとしてうちの屋敷で雇われており、シリウスとアリスが産まれたときに二人の専属のメイドになったのだ。

 ちなみに、彼女はリュコとは違ってしっかりと両親はご存命である。屋敷の近くの村に住んでいるらしく、休暇を貰えばたまに顔を見せているらしい。

 そんな彼女がどうして部屋にいるのかというと、おそらくシリウスに紅茶を淹れたためだろう。


「やあ、サーラ。シリウス兄さんは部屋にいる?」

「はい、いますよ。おそらく読書中だと思いますよ」

「ありがとう。じゃあ、部屋に向かわせてもらうよ」

「では、グレイン様の分の紅茶も入れてきますね」

「うん、おねがい」


 そんな会話をして、俺たちはその場で分かれる。

 サーラは厨房に、俺はシリウスの部屋に。

 部屋の前に到着した俺はノックをして、声をかける。


「シリウス兄さん、入っていい?」

「……」


 返事がない。

 だが、俺は気にすることなくドアを開ける。

 返事はなかったが、中に誰かいる気配はしっかりと感じたからである。

 おそらくだが、兄さんは読書に集中しているため、俺の声に気付かなかったのだろう。

 こういう場合はいくら外から声をかけても気付かないので、勝手に中に入るわけだ。

 大人だと常識知らずなんて言われそうだが、今の俺はまだ4歳児なので許されるだろう。

 むしろ、ノックして中にお伺いを立てる方がおかしいぐらいだと思う。


「やっぱりいた」

「……」


 部屋の中に入ると、窓際で椅子に座って本を読んでいるシリウスの姿があった。

 華奢な体つきと青色の美しく長い髪が女の子と見間違うほどで、窓辺で本を静かに読んでいる姿なんて【深窓の令嬢】と評してもいいぐらいだと俺は思っている。

 まあ、兄さんというぐらいだから男なんだけど……

 俺はそんなことを思いながらシリウスに近づいていく。

 彼は何を読んでいるのだろうか……


【暗殺術・中級編】


「……」


 読んでいる本の名前を見て、今度は俺が黙ってしまう。

 かつて本棚で読むことすらしなかった本のレベルアップしたものを見たからである。

 いや、初級編があるのだからそれぐらいはあると思ってはいたが、まさかそれをシリウスが読んでいるとは思わなかったからだ。

 なんで彼はそんな本を読んでいるのだろうか?

 シリウスの心にはどんな闇が……


「ん? ……グレインかい?」


 そんなことを考えていたら、ようやくシリウスが俺の存在に気が付いた。

 だが、彼は一切驚いた表情を浮かべず、勝手に入ってきた俺の存在を受け入れていた。


「やあ、兄さん。相変わらず、本が好きみたいだね」

「ああ、そうだよ。本を読んでいると、自分もその本の内容ができるんじゃないかって思えるからね」

「ああ、なるほど……」


 納得しかけたが、それと同時に「その本で?」とも思ってしまう。

 なぜなら、シリウスの読んでいる本は【暗殺術・中級編】だからである。

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。


「それでどうしてグレインは僕の部屋に?」

「いや、兄さんと遊ぼうと思ってね」

「僕と? それだったらアリスとか父さんと遊んだほうが楽しいと思うけど?」


 僕の言葉にシリウスは首を傾げる。

 おそらく体を動かしたりするのが得意ではない自分と遊ぶのは楽しくないと思っているのだろう。

 まあ、あれだけ楽しそうにアリスとアレンが訓練している姿を見ていたのであれば、そっちの方が楽しいと思ってしまうのも仕方がないかもしれない。

 だが、別に俺はそういう遊びをしに来たわけではない。


「あれは遊びじゃなくて、訓練だよ? それに今回は兄さんとこれで遊ぼうと思ってね」

「ん?」


 俺は30センチ四方の板を取り出す。

 その板にはマス目が書いてあり、その数は8×8の64マスある。

 そして、そのほかに黒と白で色が付けられた石もある。

 ココから導き出される答えは……


「これは【リバーシ】っていうゲームさ」

「【リバーシ】?」


 初めて聞く言葉にシリウスは首を傾げる。

 まあ、弟からいきなりそんな言葉が出てきたら、そのような反応も仕方がないだろう。

 俺はリバーシの説明を始める。


「このゲームはまず真ん中に白と黒を二つずつ対角線上に置くんだ。そして、交互にそれぞれの色の石を置いていくんだ」

「うん、なるほど」

「同じ色の石で挟んだら、挟まれた石はその色になるんだ。それで最終的にどちらの色が多いかを競うゲームだね」

「……面白そうだね」


 俺の説明を聞いたシリウスが少し楽しげな表情を浮かべる。

 彼ならばそう言ってくれると思っていた。

 彼は運動ができない代わりに頭を使うことを得意としている。

 つまり、こういう遊びに興味を示してくれると思ったのだ。


「あと、石が置けるのは必ず同じ色で挟める場所にだけ。関係のない場所には置くことはできないよ」

「……そうなのか。あと、【挟む】というのはどこまでが【挟む】なの?」

「その石を挟んで対角線上にあればいいから、縦横斜めは全部行けるね。でも、角の石を囲んだからと言って挟んだことにはならないからね」

「つまり、角に置くことができたらもう取られることはないということだね」

「うん、そういうことだよ」


 流石はシリウス、すぐにリバーシのルールを理解してくれた。

 まあ、これぐらいはリバーシをしていたら、すぐにでも察することができる部分ではあると思うが……


「でも、どうして僕とやろうと? 父さんやアリスとやってもいいと思うんだけど……」

「たぶんだけど、あの二人とやっても面白くないと思うよ? あの二人は体を動かす方が好きだし、頭もあんまりよくないでしょ?」

「……たしかにこのゲームはじっとして、頭を使いそうだね。たしかにあの二人には向かないな」


 俺の説明に納得するシリウス。

 俺が彼にこれを紹介したのは、彼ならば俺の相手になるのにふさわしいと思ったからだ。

 別にアレンたちのことを馬鹿にしているわけではない。

 訓練の時のクリスの言葉ではないが、人には得手不得手というものがあり、あの二人にはこういうゲームは向いていないと思われるのだ。

 クリスやエリザベスならばできないこともないだろうが、彼女たちは彼女たちで忙しいと思われる。

 なんせ領主であるはずのアレンは仕事をサボって訓練をしていることが多いからだ。

 といっても、アレンにとって領主の仕事が不得手の部類でもあるのも理由の一つではあるが……

 本当にこの領地、大丈夫かな?

 まあ、気にしない方向でいこう。


「じゃあ、さっそくやろうか。兄さんからでいいよ」

「いいのかい? ……もしかして、後攻の方が勝ちやすいとか、そういうのがあるのかい?」

「そんなことないよ。どちらかが勝つかは展開次第だし、後攻の方が勝ちやすいなんてことはないと思うよ」

「なら、先にさせてもらうよ」

「うん、どうぞ」


 俺の言葉に納得した兄さんが黒の石を早速置いた。

 俺も兄さんに続いて白の石を置いた。







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