5-3 小さな転生貴族は慣れない馬車に酔う
※4月8日に更新しました。
ガタガタと揺れながら馬車は進んでいく。
地球にいたころには体験したことのない揺れだった。
俺は遠くに行くことは初めてだったので、そういう意味ではいい経験である。
だが、問題が一つあり……
「うぷっ……やばい」
俺に馬車の旅が合っていなかった。
まさかこんなに揺れるとは思わなかった。
地球では車酔いやバス酔いなどに無縁だったのは、おそらく日本の道路がきちんと整備されているので揺れがほとんどなかったおかげだろう。
この異世界では当然日本のような整備された道を通ることが珍しく、激しい揺れに俺は吐き気を催しているわけだ。
「グレイン、大丈夫?」
「グレイン様、馬車を止めましょうか?」
「……だ、大丈夫……だ……」
「「全然大丈夫じゃないと思う」」
「……」
心配したティリスとレヴィアは俺の答えにあっさりと反論する。
こんな状態で大丈夫だと言っても信じられなくて当然か。
「グレイン様、水でも飲んでください」
「あ、ああ……ありがとう」
俺はリュコから水の入ったコップを受け取る。
しかし、俺もフラフラに酔っており、目測を誤ってしまった。
(スカッ……バシャッ)
「「「「あっ」」」」
コップは重力に従って落下し、中の水をリュコにかけてしまう。
「ご、ごめん……」
「構いませんよ。馬車の中ですから、仕方のない事です」
「……そういってもらえるとありがたい」
「とりあえず、座った方が良いんじゃないですか?」
「え?」
リュコの指摘に俺は気付く。
馬車の中で立ち上がろうとして、中腰の状態になってしまっており……
(ガタンッ)
「うっ……」
馬車が大きく揺れ、再び吐き気が俺を襲ってきた。
立っているので座っているよりも不安定になり、揺れがさらに大きく感じ、酔いもひどくなってしまった。
リュコはこれを見越して注意してくれたが、少し遅かったようだ。
吐き気だけでなく頭もぐらぐらするので、かなりまずい気がする
(フラッ)
「「「グレイン(様)っ!?」」」
俺がふらついた瞬間、心配げな表情で三人が立ち上がろうとする。
一気に三人が立ち上がると、さらに不安定になってしまう。
さらにまずい状況になりそうだったが……
(シュッ……ガシッ)
「「「えっ!?」」」
馬車の外から太い腕が伸び、俺の服の襟を掴んだ。
普段の俺なら外に誰かが近づいた時点で気付いただろうが、弱っているため対処すらできなかった。
俺はそのまま為すがままの状態で、馬車から引っ張り出されてしまった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふぅ~」
「どうだ、回復したか?」
木の幹に体を預けて落ち着いた俺にリオンさんが話しかけてくる。
先ほどの太い腕は彼だった。
どうやら彼は鍛錬で外を走っており、俺が馬車に酔っているのに気が付いた。
なので、馬車の窓から腕を入れ、俺を引っ張り出してくれた。
「うん、だいぶマシになってきたよ。走れるぐらいにはなったかな?」
「がははっ、それなら十分だ。まさかグレインが馬車に酔うとは思わなかったぞ。てっきり弱点がないと思っていたからな」
「……流石に僕にだって弱点ぐらいあるよ」
笑うリオンさんの言葉に俺は唇を尖らせ反論する。
俺だって普通(?)の人間なので、苦手な事の一つや二つぐらいはある。
なぜそこまで笑われなければいけない。
「まあ、それだけ返事をできるなら十分だろう。そろそろ追いかけた方がいいだろう」
「そうだね」
「どうだ? 俺が抱えていこうか?」
「いや、いい」
「そうか?」
リオンさんが少し驚いたような表情を浮かべる。
心配してくれているようだが、その提案は俺にとってあまり良くない。
リオンさんが抱えて走ってくれた方が早くみんなと合流できるだろうが、彼に抱えられると全身をゆだねており、酔いが回復して間もない状態の俺にはかなりきついはずだ。
ぶり返してしまう可能性が高いので、自分で走った方が良い。
「やりたいことがあるんだよ」
「やりたいこと?」
「うん。今後は馬車で酔わないための方法、かな?」
「ほう」
俺の言葉にリオンさんが興味深げに目を細める。
どうやら面白そうだと思ってくれたようだ。
そんな彼の期待に答えるため、俺は立ち上がって大きく一歩を踏み出した。
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新作始めました。
二度目の悪役令嬢は期待しない
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