王族特務の鍛冶屋
乙女は怖い
そう思ったのは扉を開けた瞬間だった。
アルが戻った部屋は2つの世界が広がっていて、クリアが創り出す、ダークテリトリー。
(雰囲気だけでこんなものは無いのだが)そしてスミアが創る、セイントテリトリーだった。(やはりこんなものは無い)彼女達は無言のまま目で語り合っているようだが、アルには付け入る隙がない。二人ともアルが帰ってきたことを知り休戦に入ったらしい。
先に気付いたスミアが
「お帰り、アルくん!その制服とっても似合ってるね。今日からお仕事頑張ろうね。まずお仕事だけど...」と説明を始める。
クリアはとてつもない視線をあるに送っているがあえて気づかないふりをした。
「.....とまあ王様から言われたんだけど、要するに一週間平原でサバイバルだよ!まあ私も付き合うから大丈夫だし、その間の天災はどうにかなるよ。一緒に頑張ろうね?」
.......。え?
「ちょ、待ってください。どうして王族特務の初仕事がサバイバルなんですか!?てか、そもそもサバイバルって仕事じゃないですよね!そう思わない、クリア!」
「そ、そうよ!なんでサバイバルよ。別に他の事でもいいじゃない!」
二人は反論を返す。
同時に言われて少し困っているスミアだが
「えっとね?王様の見立てだとアルくんはまだ力の行使を完璧にできてるわけじゃないでしょう?だから基礎をしっかり作ろうと言う事なの。だからね、それには1番サバイバルよが適してるから...まあみんな王族特務に入ったらやらされるんだけど。」
あんの王様は...
アルは肩を落としていたが今回、クリアは珍しく賛同していた。
「そうね。私とアルくんはまだ出会って日が浅いわ。だからもっともっと力の使い方や強さを求めなければならないわ。」
「分かりました。スミアさんとクリアがそう言うならあってるんでしょうから。準備はどうするんですか?」
前向きに話を進めるアル。
スミアがアルの青銅の剣を指差し
「うん。そうだね。行く前に準備をしなくちゃね。それだけじゃ心細いから。城下町に行こうか!」
アル達は城下町に向けて出発した。
城下町はとても広い。中央に広場があり、周りはとても広いマーケットとなっている。果物や食材、防具や武器。売っているものは様々だ。見たことのないものに胸が踊る。
「うーーん、そうだなぁー。アルくんはその剣が扱いやすいの?」スミアは問う。
「そうですかね。やっぱりこんぐらいのが丁度良いです。使い慣れてますし。あれ、でもなんでだろ、ヒビが入ってる...」
アルが腰に付けている青銅の剣を見るといたってシンプルな両刃のものだが。縦に亀裂が入っていた。
「アルくん!あーそれは多分私の精霊術を使ったからよ。アルくんはあのヒドラショックの時、剣と自身の体に力を付与したわよね?私の精霊術は底力を上げる感じだから付与する対象に大きな負荷が掛かるのよ。身体みたいに自己修復機能があるものは大丈夫だけど、剣みたいな耐久があるものは通常より早く壊れちゃうのよ。次の獲物は耐久性に優れたのにしておきなさい。」
クリアがホロウストーンから飛び出し説明をしてくれた。王都に着くまでこの剣は欠けることなどなかったので名残惜しいがここでこの剣とはお別れだ。
クリアの説明を聞いたスミアは何か思いついたように「じゃあ、ついてきて!アルくん♪」手を引っ張ってアルを連れて行った。
スミアの手は暖かく温もりを感じる。心拍数が上がって行き、バレるんじゃないかというところで目的の場所についた。
どこについたかというと〈魔防武具サミット〉というところだった。アルが看板の隣を見ると「王族特務お墨付き!」と書いてあり中々高価な物ばかり置いてあった。
「サミットさ〜ん。良い武器ありますか?」
スミアが気軽に声をかけると野太い声で店の奥から返事が返ってきた。
「おう。久しいな、嬢ちゃん。王族特務絡みの厄介ごとは中々好きだぜ。で、今日はどんな要件なんだ?」
「そう!それでね、今日はこの子の剣を造って欲しいんだ。どんな剣がいいかはこのアルくんとクリアちゃんに聞いて欲しいんだけど...」
「なんだぁ、あの王様はまた特務を増やしたのかい...まあ儲かるからえぇけどのぉ。お前さんたちのリクエストは毎回特殊だからなぁ...で、どんなんがいいんだい?」
あ、なんかすいません...
「は、はい、えーと、どんな剣がいいのクリア?」
そういうことには疎いので中々知っていそうなクリアに振る、すると...
「やっぱり素材はミスリルかしら。私達の空間エネルギーの媒体になる物だからしっかりしてないといけないし。かつ、取り込みにくい素材だと反発してすぐに割れてしまうと思うわ。」
武器オタクっぽい知識でクリアは流暢に話しを続けていく。
そんな会話を流しつつ店の周りを見ていると国王と並んでいる絵やとても綺麗に輝いている勲章がいくつも並べられている。どうやらとてもすごい人の様だが、そんなことは構わずに上から目線でクリアは提案する。
「まあ素材はミスリル、剣の型は青銅の剣と同じのがいいかしら。おじさん、どう?」
「〜〜〜〜ッ!!またミスリルとは...王族特務の連中は鍛治殺しとまで思う、扱いにくいミスリルで剣を打てとな…ミスリルって本当は装飾品とかに使うもんだぞぃ?」
あらまあ...クリアさんはまたそんな事をお願いしたんですか...でもこれから使う武器だからしっかりしてないといけないな!よし!
「サミットさん、僕からもお願いします。」
「あ、私からもお願いするね!サミットさん」
「アルくんが使うからしっかりとね?おじさん」
3人のお願い(1人は危ういが)を聞き若干諦めつつも
「しゃぁない、このサミット!また王族特務の為に腕を振るうか!それはそうとも、アルとやらは金はどうするんか?ミスリルとなれば相当の値段になるぞい?」
場が静まり返った…
やっぱりお金入りますよね〜
そう思うアルは恐る恐る金額を聞く
「ち、ちなみにおいくらでしょうか…」
「そうだな、50万リッツでどうだ?」
50万...ちなみにリッツって言うのはお金の単位で、5リッツで安いパンが買えるくらいだ。
つまり、剣で家が買える。
「お母さん、お父さん、僕はここで破綻します。どうか、僕をそちらの世界で受け入れてください...」
走馬灯をみつつも馬鹿げてることを口にしてるアルにスミアは声をかけ
「アルくん?そんなにお金に困らなくても大丈夫だよ。サミットさん、その額全部、王国の経費で落としといて下さい!」
あー、成る程ね。その手があったか...
そっか、僕も王族特務になったわけだからある程度の特権があるわけか。
そんな事を考えていると後ろから
「まあそんぐらい払ってもらわないと割に合わないからね、あのクズ王。」
うわー。やっぱり乙女って怖い...
茶番が進んでいるところを止めるかの様にサミットが「おっしゃ!分かった。お代はオウサマに付けとくわ。1時間くらいかかるからそこらでまっときぃ!そこの机と椅子使ってええから。」
アル達3人はそこで待つことにした。
その言葉を聞きクリアがなにかと興奮気味に
「アルくん、少しお勉強しましょうか!」
そう言って勉強会は始まった。
〜クリア先生の魔術、精霊術講座〜
C=Clear A=Alu S=Sumia
C「はい!アルくんはそもそも魔術や精霊術はどこから発祥したと思う?」
A「えーと......どこなの?」
S「はいはーい、元は神聖術って言って宗教的な目的で使われていたんだと思いまーす!」
C「だまらっしゃい小娘!ま、まあ正解よ。最初は魔術も精霊術も1つのところからできているの。でも技術が進むにつれ神聖術で精霊を召喚して魔術を使わなくても、生命体には精神力があると分かり2つの術に分かれていったの。だから今も宗教的場所では魔術、精霊術って呼ばれてたりするわ。ここまでは大丈夫?」
A「うん、でもねクリア。同じところから派生したなら精霊術も魔術も同じエネルギーを使ってるべきじゃないの?」
C「うん、うん!アルくん、良いところに目をつけたね。でねそのエネルギーはなんで、2つに変わっていったかというと行使する人間が空間エネルギーを使うことができなかったからなの。精霊は自然界のものと直接的な結びつきがあるから空間エネルギーを自由に使うことができるけれど人間は違った、だから他のエネルギーはないか考えたの。でね人間は己の中に存在するエネルギー、精神力に目をつけた。精神力はいくら使っても寝たり、食べたりすると回復するから使い勝手がいい。他のものを介さないから発動までの時間も速いしね。そこにいる小娘は武器に対して私と同じように術をかけて使う戦闘スタイルと見たけどどうなのかしら?」
S「えっ...どっどうしてわかったのっ?ま、まあそうなのクリアちゃんが言ったとうり私は魔術をそのまま使うんじゃなくて武器にまとって使うの。アルくんと似てるところもあるけれど系統が違うし、アルくんの方が使いやすいと思うな!」
A「ふーん、そういうもんですかね...」
S「まあそんなもんだよ。クリアちゃん、続きどうぞ」
C「ちゃん付けやめろ!子供じゃ無いし!ま、そういう感じで魔術や精霊術は前も言ったけれど<媒体>、<音>、<エネルギー>からできていてただただ術を放つだけでも空気を媒体にしてるから、この3つの1つでも欠けることはないわ。で、今回おじさんに頼んだミスリルはエネルギーを吸収しやすく、なおかつ耐久のある素材つまりミスリルは私とアルくんの精霊術と相性がとてもいいの」
A「ふむふむ、なるほどね。ちょっとお高いのはそういう理由だったのね」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おぉーい、できたぞー。見に来てみろ!」
サミットの声が響く。どうやら剣が出来上がったらしい。
剣を受け取ったらサバイバルの始まりだ。
そんな気持ちでアルは工房の扉を開けた。
前の投稿からだいぶ経ってしまいました
週1のペースでこれからは上げていけたらいいなと思っています。