人は命を賭してこそ 3
兄弟、か...と俺は小さく笑う。俺にも弟が二人いるが、全く俺には関心を示さないし、俺も何とも思っていない。確かこの間、ラギンスが弟共がリンにプロポーズの計画を立てていると聞いた。リンがあいつらの申し込みに了承するわけないが、やっぱり不安な俺がこの場所にいた。
そんな事を考えると、ただひたすらに俺の幸せを想ってくれるラギンスこそが、本当の兄弟だ。
「じゃあラギンス...兄弟だと言うのなら、俺の相談に乗ってくれるか?」
「何なりと」
「俺って...女心が分からなーー」
「はいそうですね。全く分かっていないですね」
ラギンスは爽やかな笑顔を浮かべながら、俺を全否定する。こいつめ。
「じゃ、じゃあ、お前は分かっているのか? 例えば、リンの気持ちとか...」
「当たり前じゃないですか。紳士たるモノ、女性の気持ちは分かっておかなければなりませんよ。しかしぃ...女性の扱いを知らない殿下には難しいですなぁ」
「ニヤニヤするなラギンス、気持ち悪いぞ...じゃあ、女心を考えるとして...好きでもない奴に好かれたら、迷惑か?」
「うーん...人にもよるでしょうがしかし、殿下の想い人は...何も感じないかもしれませんね。鈍感、ですから」
呆れたような表情をして、やれやれと首を横に振るラギンスを見ていると、無性に殴りたくなる。まぁこれは今日に限らずいつもの事だ。
リンは何も感じない...本当にそうなのか? ラギンスの言う事は信じたいが信じたくなかった。嫌なら嫌が良かった嬉しいなら嬉しいが良かった。意識されない事ほど、悲しいモノはないというのに。しかし、鈍感だからという理由もあるかもしれない。
「で、でも...リンは俺の事少しは意識してる...と思う」
「声がだんだん小さくなっていきますよ。何故そうお思いで?」
「俺が倒れた日だって、リンはずっと一緒にいて涙目で心配してくれたし...どんな時でも笑顔でいてくれた」
「私の対応もそんなもんでしたよ。彼女は、中々人に勘違いをさせる人種のようで。でもまぁ、可愛いから良いんですが...あ、いや、何でもないです」
リンの事を可愛いと言って良いのは俺だけだ。そんな意味合いも込めて、俺はラギンスを睨んだ。こいつは男も女も見境無いからな。放っておくとこいつも危ないかもしれない。
「でもまぁ、彼女は殿下の事嫌いじゃないですよ。そこは大丈夫。きっとね」
「何処からその自信が湧いてくるんだか...お前らしいぞ、ラギンス」
「ありがとうございます、殿下。しかし、殿下とこうやって面と向かって二人きりで話すのは、中々久しぶりですね。今までそんな余裕ありませんでしたから」
「そうだな。久しぶりだ」
この頃、訓練訓練訓練で、ラギンスともあまり会えていなかった。しかし、今思うとこういった休養も必要だ。身体中が痛い。ラギンスはいつも以上にニヤニヤ笑っていた。
「殿下、私とずっと一緒にいていただけますか?」
「プロポーズか?」
「違いますよ〜、殿下は放っておくと危ないからですよ。でも、ずっと一緒にいてほしくても、そうはいかないですよね...殿下は、魔王を倒しに...」
「違う。俺は魔王なんか倒す気はない。俺はリンに会いに行くんだ」
「そう、ですか...」
少し悲しそうな顔をして、俺を見つめるラギンス。俺だって、一緒に生まれ育ったラギンスと離れるのは嫌だ。もしかすると、俺は魔王に殺されるかもしれない。でもそれでもーー俺はリンに会いたいから。仕方ないんだ。
「お前は、城で執務に務めろ。もうサボる事なんて、できないぞ?」
「わかっていますよ、殿下。...まぁ、私がサボった事はないですがね」
「よく言えたな」
「...そうですね」
*
そろそろ、旅に出るべきではないかと考え始める。このまま城に留まっていても、リンは離れていくし魔王だって倒せない。
近々、再び人間側が魔族に攻撃をしかけると聞いた。此処何十年に渡って、我々人間と魔族は争い続けた。魔族は人間を支配しようとしているというのが常識的だが、実際の所はよく知らない。そして、何度も我々は戦場を作り上げてきた。半年の一度の割合で、海上、陸地が戦場に早変わり。それらは全て、魔族からではなく人間がしかけてきたモノだった。もう、勇者の役割も必要性も分からなくなってきた。
「おい勇者、いつ城を出る予定だ」
「俺ですか? まぁ、いくつもグループを作ったので、それぞれ各自で出発するかと。殿下は...俺の所に来てもらいます」
「...そうか」
俺らは再び剣を交わっていた。周りには観衆、女の勇者達が黄色い悲鳴をあげる。それがリンだったら少しカッコつけて勇者を倒す所だが、ただのメス豚共は耳障りにしかならない。本来なら、誰もいない静かな場所で訓練を行うのが好きだ。しかし、ラギンスが時々は勇者に混じってこいと言われた。執務を無理矢理奪われ、剣を突きつけられた。別に俺にデメリットは存在しないので、勿論やってきた。
「何で俺の所か聞かないんですね」
「そこまで頭が回らないわけじゃない。俺がいた方が、魔王を倒す確率が格段に飛躍する」
「えぇ。うちのクラスは優秀ですからみんな強いですが、俺の所は特に強い人を集めてます。友達とかそんなのは関係なく、人選ですよ。こういうのは」
「それは、尤もだ!」
勇者に隙が見えたので、俺は躊躇せず突き飛ばし、バランスが崩れた所に剣を突きつけた。尻餅をつき、首に剣を突きつけられる勇者の姿は、実に滑稽なモノだった。皆、歓声を上げて良いのかそうでないのか若干迷っているようだった。
この勇者は何だか気に食わない。リンは基本的に人に無頓着だが、こいつはそんな事も気にせずに特別な感情を抱いていると聞いた。それが何なのかは分からないが、一緒に旅をする事になった以上、我慢しなければならない。
「勇者、立て」
でも今は、ただ只管に剣を振ろう。




