絶望感
「あぁ...あぁ...!!」
私は...私は何て事をしてしまったんだ!!
「うわー!!」
「ちょーーリン! 一回黙ろうか!!」
馬車は走る。サットは耳栓をして馬を走らせていた。何故かと言うと、私がずっと泣いていたからだった。原因は言うまでもない。
「何でぇ...何でぇ強行突破しちゃったのぉ...」
「し、仕方無いだろ...お前あの王子に貞操奪われたいのか?」
サリーはどうやら王子の発言や状況、そして私の話から全てを悟ってくれたのか、水晶玉で見たのかは分からないが、ちゃんと理解してくれる人だった。もの凄く嬉しい。
私はサリーの言葉を聞いて大きく首を横に振った。
「あの王子、見た目に惑わされちゃ駄目だなうん。どれだけリンに執着してるんだ...ま、分からなくもないけどな」
「ご、ごめんなざい...面倒なのに巻き込んじゃっで...」
「ほら泣くんじゃないよ。あたしらは好きでリンについて行くって言ってるんだ。それに、面倒事がないと人生楽しくないからな!」
「サリーさん...」
目の前の女性は、本当に女神か何かにしか見えなかった。
こんな人は初めてだった。普段から人望があった私は、みんなの心のよりどころにもなっていたわけだったが、私にはその心のよりどころが存在しなかった。
おかげで、毎日溜まるのは不安とストレス。全てが吐き出せる所など何処にもなかった。私を心から受け入れてくれる人は、サリーが初めてだった。
私は何時の間にか違う意味で泣いていたようだった。失って気づく事はたくさんあるが、手に入れて初めて気づく事もある。私は後者の方だった。
人に頼られてばかりじゃ何も気づく事は出来ない。逆に、人に頼ってばかりじゃ尚更。でもたまには甘えるのも悪くない。泣いて、喚いて、誰かに悩みを打ち明けるのも悪くないーーと、私は今日初めて知った。
「さて、どうしようかね...」
「とりあえず、逃げよう姉さん」
「逃げる? って事は、罪を認めてるようなもんなんだけどねー」
目が痛い。泣いて、しばらく寝ていたようだった。馬車の小さな窓から日の光が差し込んだ。柔らかいものの上に横たわり、近くではサリーとサットが座り込んでいる。
「あ、リン、起きたね」
「うん...」
サリーに支えられながら、目を擦り起き上がる。若干目が腫れているのが分かった。
「実はな、話したい事があって...その、な?」
「あぁ、リンが『国家反逆罪』として指名手配されている。懸賞金は...100億イェンだ」
「え?! 『国家反逆罪』ってまさか...」
途端、私の顔から血の気が失せた。まさか、王子に逆らったから...罪に? うぅ...将来は警察に入って日本を治安を良くしていきたいって思ってたのに、「国家反逆罪」の前科持ちとか私生きて行けないぃ...。
そんな事を考えると、私の目からはまた涙がこぼれ落ちて来た。
「おいおい...どんだけ良い子ちゃんなんだよ...もしかしてお前、人生なんの無茶もしてねぇだろ」
「え?」
「だってさ、国境を強行突破したくらいで泣くか普通」
「うん。というか、それ論外。犯罪だよ」
「何言ってるんだよ。この世界に生きて行くためには、そんなの気にしてられねぇぜ?」
サットが笑顔で言う。
確かにこの世界は日本の何百倍も物騒で、人を傷つけるのもいたしかない所。でも、私は生徒会長としての一線は超えるつもりはない! えっと...もし誰かが襲って来た時に返り討ちにするのは「正当防衛」だから、法律上では罪に問われない。
よ〜し、必要最低限日本と同じ感覚でいくとしてーー
「そうだ。さっき水晶玉で見たんだけどな? 凄い王子怒ってたぞ? んま、最愛の女性に逃げられたからなぁ...」
「俺も王子の立場だったらきっと同じ事してたろうな」
「うわぁヤンデレ息子が此処に居た」
「だから弟だよ!」
サリーとサットの関係については後々聞くとして...私がキチンと王子の気持ちを受け止めていれば、もしかしたらこんな事にはならなかったのかもしれない。
あぁ...でもそんな事してたら旅に出られない!! ...結局、これで良かったのかな?
「それでリン、一つ問題があってな」
「あぁ。懸賞金目当ての輩がそこらを彷徨いてるんだ。姉さんは占い、俺は剣術しか扱えないからさ。魔法が使えないから姿を隠せないし、かといって倒しながら行っても時間が無駄にかかるしまた王子を呼び寄せかねない」
「懸賞金100億ってのは釣れるねぇ...冒険者もみんなギルドに駆り出されてリン探しさ」
「え、じゃあまさか!」
リンはサリーとサットを見た。すると、彼らはきまりが悪そうな顔をした。
「悪いな。100億あったら何が出来るか、想像出来るか?」
「リン、あたしはお前の事を気の毒だとは思うが、元は赤の他人だからさ。さっさと諦めて王子のとこへ帰りな」
「ヒッ...」
サリーとサットは、よく見ると欲望に満ちた目をし始めていた。私はあまりの恐さに震え、目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。声も出ないーー。お金の為なら世界の平和を握る人間も売るのか。いや、サリーは占い師だから全て視えていたのかもしれない。こうなると分かって嘘をついたのかもしれない。
私は何か重い鈍器で殴られたような感覚に襲われ、気を失った。




