彼女...否、彼の病気
私達三人は、アリスのいた部屋に入った。どうやら、執務室のようで、書類が山積みになったデスクに、床にはボロボロになった羽ペンが乱雑に散らばっていた。
壁には本棚で、埃を被った分厚い本が何冊も入っている。
アリスは、ため息をつくと、書類の置かれたデスクの後ろにあるカーテンをバッと開け、一瞬で窓をも解放した。
「ふぅ、空気の入れ替えくらいは、してほしいモノね...」
「そっか...レサさんは当主様でしたね。にしては...仕事やってないような...」
デスクを見てみると、明らかに手をつけていない書類の方が多い気がする。
きっと、当主様も大変なのだと思う。
「...そう言えばアーレイ」
執務室の中に、一気に新鮮な空気が流れ込んだ。
「何だ?」
「何でこの屋敷には使用人がいないの?」
「え...あぁ。それはだな、カミーユが襲われるのを防ぐためだ。基本的には、レサが門以外を管理している」
「凄いんだねレサさん...」
当主様をしてるだけではなく、こんな大きな屋敷の管理もしているレサさんは、きっともの凄く処理能力や責任感があるのだと私は思う。
ただ、この書類を見る限りそうでもない場面もあるようだが...
「あとさ...アーレイ、カミーユの事病気って言ってたよね? どういう事なの?」
「...あぁ、彼奴は『不治の病』にかかってるんだ」
「え...?」
「そう、アレはまだ俺が幼く、マギやカミーユと一緒に森の中で『冒険ごっこ』と称した遊びをしていた時の事だ」
アーレイは語り始めた。
**
そう、あの日は乾いた空気の日だったな。
丁度、今日みたいに燦々に晴れて、もの凄く冒険日和だったんだ。
俺等は、「幻夢の森」という、オンディールから少し離れた所に三人で冒険に出掛けたんだ。剣や地図や食料を持って。
まだ其の時、カミーユは本当に元気だった。
実は、「幻夢の森」は上級の冒険者でも扱えない程の魔物がいるわけだが...俺等はそんな事を知らずに行ってしまった。「幻夢の森」は、幻や想像を利用して入って来た者を追い返す魔物が多いんだ(「何で調べずに行ってんの...」「仕方無いだろ? まだ子供だったんだから」)。
それで、行ったわけだ。
まぁ勿論その日のうちには戻るつもりだった。だが、予想外の事が起きたんだ。
「アーレイ、何か聞こえない?」
カミーユが、唐突にそんな事を聞いて来た。だが別に何も聞こえない。耳に入るのは、風でざわめく木の音のみだった。
「え、何も聞こえないが?」
「空耳じゃないですか? でも、魔物って可能性もありますね」
「そうだな...一応警戒はしておくか」
だが、そんな軽い気分は間違っていた。今思えば、何でキチンと話を聞いていなかったんだろうと思う。本当、後悔してる。
とりあえず俺等は、ある程度そこらにいる魔物も狩って、家に帰ろうとしていた。しかし、そんな俺等の前に立ちはだかった魔物がいた。
キュオォォォォォ!!
俺等の目の前に現れたのは、黒いユニコーンだった。
リンは「ナイトメア」って知ってるか? 取り憑いた人間に悪夢を見せる、黒い馬だ。俺等の前に現れたのは、その上位版。「ナイトモア」だ。
そいつは、取り憑いたら永久的であり、悪夢を見せ、そして恐ろしい幻も見せる。しかもその幻は、見る人間の五感をも騙し、まるで本物のように感じさせる(「怖いね...」「あぁ」)。
勿論俺等は逃げ出そうとした。それが何か、分かっていたからだ。
「逃げろっ!」
だが、そんな事も意味を成さなかった。俺等の周りは、ナイトモアによって創り出された結界によって遮られた。流石上位版と言った所だろうか。結界も雑作しないとは(「そうだね、でも、精大陸の魔物は結界使えるのも結構多いよ?」「...うん、言うな」「ごめん」)。
ユニコーンは、汚れないモノを好む。故にか、一番純粋で女に近いカミーユに取り憑いた。
取り憑かれた事に、しばらく気づかなかった俺達は、結界がなくなるとすぐに家に逃げ帰った。
後々、カミーユの様子がおかしくなってきて、ヒーラーを呼んだ所、ナイトモアにに取り憑かれた事が判明した。
しかし、それだけではなく「体力低下」「栄養不十分」「寝不足」「貧血」「魔力低下」ーーなどのデザート付きだ。そのため、彼奴は俺の弟のように引きこもりになり、人との関わりを拒むようになった。
**
「リンとの決闘をしたがったのは、久しぶりにまともな人間に会えたのが嬉しかったからか、相当外に出て体を動かしたかったかの何方かだろう。しかし、体力と魔力が低下しているし、貧血まで起こしているため、決闘は無理だ。というか、俺が許さない」
「アーレイ、カミーユの事大好きなんだね」
「あぁ、親友だからな」
アーレイは優しく微笑んだ。
「でも、カミーユが取り憑かれたって事は、アーレイはそこまで純粋無垢じゃないって事だね!」
「っ! ...うぅ」
「え、ちょーーごめんって!」
もう...ごめんねアーレイ。いやいや、気にしてるとは思わなくって...
「じゃあ...許すからカミーユとは絶対に決闘はするな。良いな!」
「う、うん...じゃあ、アーレイからもちゃんと言ってね。一応、受けちゃったわけだし...」
「分かった」




