国境
盗賊と戦って、ユニークスキル「魔法作成」の代償を見てみるのも悪くない。そう考えた私は、剣は抜かず、盗賊達に向かってゆっくり歩き始めた。
シルバーのマントをなびかせ、盗賊達を睨む。
「『第1結界発動 トランスーー』」
私がそうつぶやくと、ワンピースに編み込まれた魔法陣の一つが光った。
これは、図書館で見つけた「古代魔法」、現在の魔法と違って詠唱が少し長いがその分の威力を発揮する。使える者は少なく、魔法は魔法陣を通して行われるーーとの事だった。
「『プロテクト』!」
何だか大技っぽいが、サリーとサットの周りに「結界」張っただけ。ちなみに、これは、相当な術の持ち主か「結界」を作った本人しか解く事は出来ない。
「結界」は水色で所々魔法陣が浮かび上がっては消え、浮かび上がっては消えていた。サリーが「結界」に触れると、バチッと弾かれるように手は退けられた。
「な、何だこれは! 息子よ!」
「だから弟だってば!!」
うん、あっちは知らん。とりあえず私は、盗賊を見てため息をついた。
「ええっと...やります」
「精霊...か? お前」
「ちゃ、ちゃいます」
「結界」は精霊族が使う「精霊魔法」の一つでもある。でも、「精霊魔法」は「古代魔法」の分立だから、結界も「精霊魔法」の全ての中心点は「古代魔法」にあるわけだ。
「何?! 精霊とはあたしは聞いてないぞ!!」
「だから精霊じゃないです...」
まぁ、後で事情を説明すれば良いからその点は置いておいて、私は盗賊達に手の平を向けた。
「歴とした人間だって証拠を見せて上げる! ユニークスキル発動!!」
そう唱えると、私の周りには緑色のオーラが立ちこめた。途端に後ろから息を飲む声が聞こえる。
「『竜巻』! 『闇騎士』!」
月夜の照らす夜の森。今宵、そこでは神が現れたという___
噂が立ったんだけど、正直誰が見てたのか分からないし私は人間です。
**
結局、この夜のうちの国境までやってくる事が出来た。ちなみに、盗賊達は縛って馬車の後ろに付けて引きずっている。
「り、リン、案外君って鬼畜か?」
とサリーに言われたが、気にしない気にしない。さて、ようやく国境を抜ける事にする。
「すみません、国境を通りたいのですが...」
サットが兵に話しかける。この世界は、大半の国が国境に兵を設け、犯罪者が出ないようにとか、入らないようにとかする為に働いている。
「分かりました。では、馬車の中を見せてもらって構いませんか?」
「えぇ。良いですよ」
兵達はニッコニコの笑顔。サリーは私を引っ張って「ほら外に出るぞ」と言った。それに従い私はサリーの後に続いて馬車の外に出た。
途端、兵達が驚いたような顔をしていたが、すぐに表情が戻った。
「では、失礼いたします」
兵の一人が入る。そう言えば、さっき兵は五人いたのに、今は四人になっているのは気のせいか。兵は馬車の後ろに括り付けられて気絶している盗賊達を見て驚いた様子を見せたが、すぐに顔を取り繕った。
とまぁ、そんな事を考えていると、サリーが耳元で囁いて来た。
「なぁリン。あのさ、君ってチートなわけ?」
「何で今聞くんですか?」
「だってさ...」
「まぁ、そうですね。チートですね。強いですね」
「ふ〜ん...」
サットは、二人の会話に入れなくてボーッと突っ立っている。検問所は、明るいライトで照らされ、日本のような通さない為の黄色と黒のシマシマの棒が横切っている。
「リンはさ、どうして『精霊魔法』とか使えるんだ?」
「馬車の中でも言いましたけど、あれは『古代魔法』です。この服に編み込まれている魔法陣と共鳴して発動するんです」
「ふ〜ん...」
というか、まだ終わらないのかなぁ...? そろそろ終わっても良い頃だと思うんだけど...。
「貴方方は、これから何処へ行かれるのですか?」
「とりあえず、隣国に行って資源を揃えようかと」
「そうなんですかー」
兵とサットはたわいないお喋りを始めた。私は小声でサリーに聞いた。
「もう資源揃ってませんか?」
「あいつ、中々空気の読める奴じゃないか。あのさ、朝になればもう国境に網張られるのは当然の事。それであたし達の行き先に来られたら困るじゃないか」
「というか、サットも会話聞いてたんですね」
「おうよ。というか、御者席は馬車ん中の会話丸聞こえ」
「へ、へー」
それ良いの? まぁ、サットのおかげで私達がまだ国に追われる事はないのだろうけど...。
「まだ終わらないんですか?」
「す、すみません...もう少々お待ちください」
私の問いかけに兵は笑顔で答える。目が笑っていないのに気がついた。途端、国側の道から砂埃が立って来た。
「風? にしては吹いてないが...」
黒い陰がこちらへ向かって走って来る。声が聞こえる。先頭で突っ走って来たのは...
『リンーー!! 俺から逃げるとは何事だぁ!!!』
あ、あの王子だ。