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プロローグ

 心地よい朝日に包まれ、プリントの束を持った私はふとその場に立ち止まり、窓の外を見た。広大な土地を占領したこの「新稲中学校」に、黒い門から赤い車が入ってくるのが見えた。

 暖かいこの空気から抜け出したくなくて、私は目を瞑って黙っていた。車のエンジン音が消えた途端、空気が一瞬にして冷たくなったのを感じた。私が驚いて目を開けると、訝し気な顔をした、一人の少年が目の前にいた。



「何してんの?」

「...日向ぼっこ」



 私は再び窓の外を見ようとしたのだが、それはどうにも叶わなかった。冷たい視線をこちらに向ける彼によって、カーテンが閉じられてしまったのだ。



「今日は早いね、徳永くん」

「ん? まぁ、学級委員だからな。早く来なきゃ」

「今日早いね、徳永くん」



 同じクラスの学級委員、徳永 則道とくなが・のりみち...だっけ。基本的に寝坊で遅刻気味だけど、何で今日は早いんだろう。



「早くに学校に行くと吉、だって言われたから」

「占いね...」



 私は踵を返し、自分のクラスへと向かった。徳永くんもそれについてきた。同じクラスだから当然だが、何だか鬱陶しい気がした。重い足を持ち上げ、高い階段を一段一段上がっていく。カバンが10キログラム近くあるんじゃないかと思うほど重量なので、どうしても背筋が曲がってしまう。

 階段の途中の踊り場には大きな窓があり、そこからお日様の光が入り込んでいた。しかし、また徳永くんに邪魔されそうなので、日向ぼっこはやめておこう。


 階段を全て上りきり、廊下を歩いた。音楽室から、ピアノの「月光」が聞こえてきた。残念ながら、今は月でなく太陽が欲しい。

 2−1の看板がぶら下がる、古い教室に私は足を踏み入れた。途端に床が軋む音がしたが、私の体重が重いわけではない。学校自体が古いのだ。



「おはよう学級委員! ん、デート?」

「違うよ」



 きっと、徳永くんと私の事なのだろうなと考えながら、自分の席に荷物を降ろす。肩の重みがスーッと消えた。肩こりの原因の一つがこれ。

 私はさっき声をかけてきた渡辺さんに目を向けた。茶髪にショートカットと、スポーツやってますという印象を与えられる。事実、ソフトボール部のエースだ。しかし、中学に入って二ヶ月しか経っていないが、此処まで焼けるモノなのだろうか。小麦色の肌は、健康的に火照っていた。

 ちなみにだが、私は「新稲中学校」の生徒会長である。



 学校に、朝のチャイムが鳴り響いた。教室にはもう既に、2−1のメンバーが揃っていた。数名まだ準備ができていない人もいるが、教室に入っていればそれで良い。先生はまだ来ていない。生徒会長という立場上、私は徳永くんとプリントを配ったりしていた。

 退屈だ。またいつもの日々が始まるのか。そういえば、此の頃ネットでファンタジーの世界にはまり始めた。異世界、魔法ーーその不可思議でありえない全てが、私を虜にしたのだ。



「あぁぁ、逸そ、異世界に行けたら良いのに...」



 プリントを配る手を止め、私はボソッとつぶやいた。途端、教室の中心から大きい魔法陣が広がった。床上数センチで浮かんでいて、怪しく光っている。教室中にざわめきが走った。

 声を上げる間もなく、この世界から私達が姿を消した。



 気がつくと、私は冷たい床に横たわっていた。急いで目を開けて起き上がり、私は辺りを見回した。丸い大きな部屋。私の周りには、気絶した同級生達。そして部屋のドア付近には、分厚い本を持った白いローブを着た青年と同じく白ローブの女達。青年は私を見ると、お辞儀をした。



「ようこそいらっしゃいました。勇者様」

「勇者...様?」



 私のつぶやきと同時、同級生のみんなも意識を取り戻し始めた。驚きの声が上がる。恐怖の声が上がる。何時の間にか全員起き上がり、部屋の中は声でまみれた。青年と女達は急いで鎮めようとしたが、みんな静かになる事はない。私は仕方無く超えは張り上げた。



「みんな! 落ち着いて!! 私は此処が何処なのか知ってる!! だから...落ち着いて座って!!」



 私の言葉に安心したのか、同級生達はざわめきながらも素直に黙って座ってくれた。目を輝かせている者も居るし、涙目の者も居る。



「(あの少女、一体何者だ? この大人数を一声で収めるとは...)」



 青年と女達は私をジッと見つめていた。すると、男子学級委員の徳永くんが立ち上がった。



「一体どういう事? 此処は何処?」

「まぁ...あってるかは分からないけど...私達は魔王を倒すために召喚された勇者...でしょ?」



 私は青年に問いた。すると彼は驚いたような顔をしたが、すぐにこう言った。



「そ、その通りだ。この世界では、人間と、魔族を率いる魔王とが戦争を行っている。全てを終わらせるために、お前達を此処によびだした」

「え...一体どういう事?!」

「だから、私達は魔王を倒すために呼ばれた勇者。私達は魔王を倒さないと帰れない。でしょ?」

「...そうだ」



 青年の一声を最後に、同級生達には再び騒ぎ声が戻った。そりゃあそうだ。訳の分からない所に居て、魔王を倒せとか言われる。普通は同様するだろう。だが、藤野くんはそんな同様もせずに全てを理解している私をマジメな目で見ていた。



「何かな?」

「会長...此処は何処なの?」

「うーん...俗で言う『異世界』かな。剣と魔法のファンタジーの世界」

「どうしてそんなに詳しいの?」

「私はそっち系のに精通してる。だから、此処の常識や魔物ーーそして勇者の事だって分かってる」

「...だってさみんな!」



 誰かが叫んだ。



「じゃあ、生徒会長はこの世界の事詳しいってわけか!」

「やっぱ頼りになるねぇ」

「セイトカイチョウとは...一番の権力の高い人間の事を指すのか?」



 青年は聞いて来た。私は頷いた。



「まぁ...少なからず」

「では、お前がリーダーというわけだ」

「い、いえ、もう一人居てーー」

「居ない! 俺はリーダーじゃないから!!」



 おい君は学級委員だろ徳永くん...。職務放棄ですか?

 まぁ構わない。



「『ステータス』」



 とっさに、頭に思い浮かんだ言葉を口にする。こういう世界では、「ステータス」が表示されるはずだ。ピコンという音がしたかと思うと、目の前にはガラス板のような綺麗な画面が現れ、「ステータス」が表示された。

 出せる事は確認出来たので、後でゆっくり見ようと、私はすぐにそれを閉じた。すると、次々と他のクラスメイトが私の真似をして「ステータス」を開いた。



「皆をまとめ、この状況を理解し、『ステータス』の存在まで知る。...お前は何者だ」

「...蛇名へびな リン。ただのしがない人間だよ」




主人公の役職とクラスを変更。

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