~第六章~
カイとアリア姫の恋が“許されざる恋”だったのは、二人が敵同士だったから……という理由だけではない。
二人は父親の違う兄と妹。
血の繋がった“異父兄妹”だったからだ。
ノンマルタスの女王はその玉座に着く前、陸の人間と愛し合い男の子を儲けた。
しかし先代の女王の死によって彼女は、ノンマルタスの王となる為に愛する夫と息子を陸に残し海に帰らなければならなくなった。
それがカイの母ルピア。ノンマルタスの現女王であり、アリア姫の母だった。
カイの父、ケイトはおそらく全てを知っていた。
だが、その事実を胸に秘め“妻は海の事故で死んだ”と皆に告げた。
或いはカイが大きくなった時、カイにだけは真実を伝えるつもりだったのかもしれない。
……が、ケイトは戦士の長であったが為に真っ先にノンマルタスに暗殺され、カイに真実は知らされなかった。
それ故にカイはそうとは知らぬまま、自らの血の繋がった者たちと戦わなければならなかったのだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ルピアは病がちだった。
自分の命が消えるのもそう遠くない事を悟っていた。
ノンマルタス一族の悲願は、かつて自分たちの先祖がそうであったように太陽の光り輝く地上で生きる事。
でもそれ以上にもルピアには地上に憧れる理由があった。
其処には愛する者たちが居たからだ。
──もう一度逢いたい──
しかし、それはルピアと亡き先代の女王しか知らない真実だった。
ノンマルタス一族の執政であるスピネルもまた、ルピアの命の灯がわずかである事を知っていた。
そしてどれほど地上に憧れているのかも。
スピネルはルピアに、臣下が主君に寄せる以上の想いを抱いていた。
せめて最期の時を焦がれた地上で安らかに……そう願った。
けれど、争いを嫌うルピアが陸の人間との戦いを承諾する筈がない事もスピネルは承知していた。
この戦いは執政スピネルの独断だったのだ。
母ルピアの地上への憧れを知っていた王女アリアもまた、母の為にこの戦いに加担した。
けれどカイを愛したアリアは、これ以上戦いを続ける事は出来なくなった。
悩んだ末、アリアは女王に全てを打ち明けた。
そしてルピアは知ったのだ。人間とノンマルタスの戦いを!
愛する息子と娘の、許されざる恋を……っ!!
女王ルピアが知った事で戦いは終焉を迎えた。
ルピアはスピネルが自分の野心の為に戦いを始めたのではない事に気づいていたが、彼を処罰しない訳にはいかなった。
スピネルの失脚によって戦いは終結する。
平和の訪れ――
それは即ち、カイとアリアの恋の終わりだった。