~第四章~
セレスは哀しい決断を迫られていた。
幼い頃に母を亡くし、半年前に父も失った。
――シェルがただ故郷を想って帰って来てくれたのであれば……。
そうであるならば!
一族への復讐など考えていないと、そう言ってくれたならっ!――
セレスの心の叫びが聞こえた気がした。
だが──
「シェルが俺に自分の本当の気持ちを話すとはとても思えないが……。会いに行ってると言っても俺はほとんど無視されてるし、あいつが自分の事を喋った事は一度もない……」
「けれど、追い返されはしないのでしょう? シェルはぼくや一族の者が近づく事さえ許してくれません。正直ぼくは、シェルの事はよく知らないし分かりません。でも双子の兄弟だから、同じ血が流れてるから……漠然とですが感じるんです。多分、シェルはぼくたちよりも貴方に好意を持っているんだと……」
「…………」
これは確かに部外者には知られたくない事だろう。
一族の暗黒。
だがそれを曝してまで切実に私の助けを必要としている。
きっと藁にも縋りたいに違いない。
私はセレスの頼みを断る事は出来なかった。
けれど正直、自信はなかった。
シェルが俺に好意を持ってる?
とてもそうは思えなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「君はセレスを憎んでるのか?」
どう切り出そうか悩んだ挙句、口をついて出た言葉はあまりにも単刀直入だった。
これでは芸がなさすぎる!
自分の馬鹿さ加減に腹が立った。
一瞬驚いた顔をした後……
「はっ、ははは……ははははは……」
俯いて、シェルは笑い始めた。
──乾いた笑いだった。
多分その一言でシェルは全てを理解したのだろう。
一しきり笑った後……
「へぇ~。そんな事まで話したんだ。セレスがそこまであんたを信頼してるとはねぇ~」
顔を上げて私を見たシェルの瞳はゾッとするほど冷たかった。
私を……と言うより、この世の全てを憎んでいるような瞳。
だが、その憎悪は直ぐに深い哀しみの色に変わる。
それこそが私がシェルに魅かれた本当の理由だった。
セレスとシェル。
同じ顔、同じ声を持ちながら対極の雰囲気を持つ二人。
セレスは穏やかで優しい物腰だが、族長として一族を護る強い意志と誇りを持っている。
シェルは傍若無人な態度と言葉と。
だが時折見せる深い哀しみ。
多分、シェルの方がセレスより脆い。
……そんな気がした。
この双子は既に私の心の大半を占めている──
「あんたさぁ~、あんたの親父がセレスの父親と交友があるって不思議に思わなかったか? こんな小さな島の族長ごとき、とさ!」
私はシェルが突然何を言い出したのかと思った。
「あんた、セレスのフルネーム知ってるか?」
「えっ? いや……」
「だろうな。セレスの本当の名は“セレスタイト・ジル・ディアン・アクアオーラ”だ!」
「アクアオーラ!?」
私は驚きを隠せなかった。それはつまり……
「そう……セレスはアクアオーラ王家の直系だ。世が世なら……こんな小さな島の族長などではなく、アクアオーラ王になる筈だった。そして俺の名は“シェルタイト・シト・リ・ムーカイト”」
「“ムーカイト”? ……それって、この島の名と同じ!?」
「そうだ! そして“ムーカイト”とは“ノンマルタス一族”の王家の名だ!!」
シェルは遠い目をしていた。
そして、ポツリポツリと、遥かなる古の伝説を語り始めた──