~プロローグ~
老人は何時も海を見ていた。
哀しそうに。そして、懐かしそうに……。
村の子供たちはその老人から昔語りを聞くのが好きだった。
若い頃、諸国を旅して回ったという老人の話は子供たちを喜ばせるには充分過ぎるものだった。
その日も村の子供たちは、老人の話を聞く為に彼の傍に集まっていた。
老人は沖合いを指差した。
「ほら、ごらん。海鳥が沢山集まってる処があるだろう?」
そこは子供たちにとっても不思議な場所だった。
そこは――"海" それ以外何もない――"場所"
だが、そこには何時も無数の海鳥が集まっていた。
「あそこには昔、島があったんだよ」
老人の瞳にキラリと光るものがあった。
――海人の血を継ぐ誇り高き一族が住んでいた――
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
今を去る事、数十年前──
その頃、私は無類の放蕩息子で社会勉強と称しては諸国を彷徨していた。
「へえ~、なかなか良い土地じゃないか」
波打ち際を歩きながら若者はその美しい景色を堪能していた。
「ん、あれは……?」
若者が何気なく目をやると沖合いに小さな島があった。
「おじさん、あの島はこの国の領土かい?」
近くで魚捕りの網を手入れしていた男に若者は話しかけた。
「いいや、あそこは自治領だよ。前の領主様の時は行き来もあったんだが今は全然だ」
「……?」
「ここだけの話だがな……」
男は声をひそめた。
「今の領主様は腹黒い人でな。島の連中と一悶着あったらしい」
「へえ~」
「まあ、あそこの連中も“海人”の血の所為か誇り高くてな」
「海人っ!?」
「単なる噂話だ」
「ふうん」
若者は"海人"という言葉に興味を持った。
「……どうだい、おじさん。俺をあの島まで乗っけてってくれないか?」
「あそこへ行くのか?」
「礼ははずむぜ」
「よしきた! 俺に任せとけ!」
こうして私はその島を訪れる事になった。
そこで己の人生を変える出来事が――出会いが待ち受けている事も知らずに。
この物語は私が学生時代に同人誌に連載していた漫画を挿絵付きの小説としてブログに連載していたものですが、最初の頃は“あらすじ”を紹介する程度だと思っていたので、物語がサクサク進みます。
今回、こちらで連載するにあたって、加筆修正しようかなあ~と思いましたが、当初の雰囲気を壊したくはなかったので、そのままアップさせて頂きます。
ご了承下さいませ。
それから、この作品はシリーズ物で、読者様のご要望にお応えした、作者自身の二次制作もございます。
そちらにはR18も若干含まれます。