未来へ!?
ツモォッッッッッー!!!4000・8000は4100・8100っっっ!これで俺があんたを捲ってトップだぜ。
1953年9月、ここは新宿。とある雀荘での何の変哲もない出来事である。毎日麻雀に明け暮れて生活している祐は今年の7月で18歳になった。職は無い。小学生の頃に覚えた麻雀とイカサマの技術を使って金を稼いでいるようだ。
「さて、もうあの雀荘で目立ったイカサマはできないし、次の賭場を探そうか…」
祐は先程の雀荘で稼いだ5000円を手に次の雀荘を探して新宿の街を歩く。そろそろ夕飯時だろうか、あちこちから良い香りが漂ってくる。
「えーっと、この辺だと思うんだげど…あー、あったあった!「雀荘たいよう」か…ここ初めてなんだよね、この前同卓した変な客に教えてもらった賭場だけど…まあいいや!行くかっっ!」
祐は気合いを入れて小綺麗な階段を駆け上がった。ドアノブを握る手に力が入る。キィという音を立てて扉が開く。
「いらっしゃい…」
優しくはなさそうな男が迎えてくれた。ここの店主だろうか。
「初めてなんだけど、打てるかい?」
「そりゃ打てるさ、こんな若造が一人で来るのを見るのは初めてだけどね…」
店主はとりあえず座って待っときなと言って祐を吸殻で一杯になった灰皿が置いてあるテーブルへと案内した。裕は古びた丸椅子に腰掛け、とりあえず店主が持ってきた熱いお茶を飲み干して卓が空くのを待つ。店内を見回すと意外に綺麗な店内であることに気が付いた、大半の雀荘は煙草のヤニで壁が黄色くなっていることが多く、照明も少ない。珍しく店だと感じながら裕は15分程待った。やけに長い15分だった。
「待たせたな、一人欠けたんで兄ちゃんの番が来たぜ。まず場代をもらおうか、一回百円だよ。」
「よしきた!勝たせてもらうぜ!」
裕は無造作に金を払って卓へ向かった。祐の興奮はピークであったが、同卓者に小さく会釈し、よろしくと言った。
「兄ちゃん若けーなー、金はあるのかい?まあ、俺らは兄ちゃんに勝てねえから大丈夫だと思うけどなあ!」
下家の男はそう言ってガハハと高笑いした。裕にはこれが酷い煽りに聞こえた。
「おっちゃん、そんなこと言ってると本当に負けるぜ」
「とにかく打って見れば分かることだ、ごちゃごちゃ言ってねえでさっさと始めるぞ!」
対面の男はかなり苛立っている、負けが込んでいるのだろう。対面の男に急かされて四人は洗牌を開始する。広くない店内に客は四人、ガチャガチャと牌と牌のぶつかり合う音が広がる。裕はいつも、洗牌をしている時点で積み込みの準備を始める。手の平に自分が必要としている牌を隠し持ち、山を積み上げる。
(とりあえず千鳥積みだ…様子を見よう…)
山を積み上げる指先に力が入る。いつもと同じことをやっているはずなのだが今日は何か落ち着かない。祐はやっとの思いで千鳥積みの済んだ山を積み上げた。対局開始である。対面の男が起家、祐は西家スタート。対面の男がサイコロを投げる。出た目は9。四人は配牌を取り始めた。祐の配牌はまずまずの三向聴。当然、和了に向かう。10順は経っただろうか、ここで六萬をツモった祐に聴牌が入る。
(ここは九萬を切って五、八萬の聴牌に!)
「ロン…12000、親満だ」
祐の九萬切りが対面の男の平和一盃口三色に刺さってしまった。
「くそっっ!東発から!」
裕は渋々点棒を受け渡す。残り13000点。
(さっき対面の男は握り込みで牌をすり替えていたっ!ギリ師と対局することになるとは…)
山を崩してもう一度、洗牌に入る。裕は山を積む際にとりあえず千鳥積みを仕込んでおいた。
「さーて、一本場だ。サイを振るぜ…」
出た目は5。四人は配牌を取り始める。
(またあいつの自山だっ!!積み込みをやってやがるなっ…どうしたらいい…)
裕は自分の配牌すら見ていない、それ程この状況は切迫詰まったものなのだろう。裕はひたすら対面の男の現物を切っていった。このままでは祐の手牌は和了に向かえない。13順程経った頃、裕は対面の男の現物である、5ピンを切ったのだが…。
「ロン!!ピンフ、タテホン、満貫!8000は8300…」