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無能と無知の無意味な問答

作者: 枝葉末節

ただ思いついたままに書いた勢いでそのまま投稿。

話の内容は詰まる所、「赤ちゃんはどこから来るの?」と聞かれた時の親の反応みたいなもので、これといった面白みはないです。

 今時、授業を退屈と感じるのは生徒だけでもない。教師もまた、ただ何の問題もなく意見もなく進む授業に、最早大した感慨など持てずにいた。過去に持っていた教育者としての壮大な意気込みは何処へやら、最早ただ与えられた教材と時間の割り振りに沿った職務を全うするだけの人間に成り下がった。

 ようやくその退屈な授業が終わり、教師は教室から廊下に出る。『道徳』の授業など、今となっては誰もが呆けた顔でノートに鉛筆を走らせるだけの時間でしかない。この時間の教師はマニュアル通りの質問をし、生徒に模倣回答を出させる事のみが与えられた職務だった。この時間を全て『体育』に変えればちょっとは世間で嘆かれる運動不足も改善するだろうに、と愚痴りたくなる程無意義にしか感じられない。


 一つ息を吐いて職員室に戻ろうとする教師の耳に、教室のドアがスライドする耳障りな音が聞こえてくる。この立て付けの悪い音は、教壇の反対側、先程教師が出てきたドアの逆側だ。そちらに視線を向けてみれば、そこには授業を受けていた生徒の一人が居る。小学生が着るのには少々違和感が生じる、装飾過多なふりふりのワンピースを着た女の子だった。

 トイレにでも行くのかと思ったが、少女は教師の姿を視認するや直ぐ教師に向かって歩き出す。程なくして教師の前に立つと、「先生」と小声で呼びかけた。


「えっと……莉衣菜(りいな)さん、どうかした?」


 名前を思い出す為に少し逡巡してから教師は返事をする。読みは合っていただろうかとも不安になったが、幸いにも少女、『莉衣菜』は名前に関して特に触れてこなかった。合っていたのか、もしくはどうでも良いと思ってたのか。尤も、その後にされた質問の方が、教師からすれば答えに詰まるものであったが。


「質問があるんですけど……どうして、人を殺しちゃいけないんですか?」


 教師はその内容にぎょっとする。何故この子はそのような疑問を持ったのだろうか。彼女はいじめ等を受けていたか、或いは不良行為をする人物との関わりがあったか。だが教師として見ている限りでは然程問題のない交友しかしてない筈である。

 次いで、その答えに迷った。困ったことに、教科書のマニュアルにはそんな質問をされた時の返答までは記載されてない。飽くまでも『道徳の教科書』に沿った内容しか書かれてないのだ。しかし、自分で考えようにも教師自身確たる信念や知識の元に、『人を殺してはダメな理由』を持っている訳ではない。ただ何となくでそう言った悪行を避けているだけであり、刷り込まれた常識の内の一つでしかない。また、そのような考えを持つ程苛烈な過去を過ごした訳でもなく、今言われてようやくその思考を巡らしている所だった。


 何故、何故か。


 本当であれば"それが常識だから"と言いたい。しかし教師と生徒という立場上、そのような無責任な返答を行い、そしてもしもその生徒が問題行動を起こした場合、世間の矛先は確実に教師に向くだろう。面倒事は出来得る限り避けたいのが人の心だ。故に、もっとマシな、まともな回答をする必要があった。こういう基礎的なものは保護者が身につけさせるべき常識だろ、と愚痴りたい事が増える。まあ、この質問に対して答えに詰まる教師も、その保護者と大して変わりはしないのだろうが。


「えーっとまず、法律で禁止されてるのは知ってるよね?」

「ッ……そのくらい知ってます。だからっ、"何で人を殺すのは悪いこと"なのかが聞きたいんですって言ってるじゃないですか」


 無難なところから言っておこうとした教師の問いかけに、少女はやや不機嫌になりながら即答した。その態度に"こっちこそ不快だ"と教師は内心毒づく。同時に、これは面倒臭そうだと自分の首元を抑えながら頭を傾けた。悩む時に何時もする癖だ。

 チラと廊下に掛けられた時計を見る。いっそこのまま休み時間が終わり質問から逃れられれば良いものを、未だ授業終了から二分程しか経っていない。滞りなく次の授業をする為の準備には二分か三分もあれば十分だが、つまりあと僅か五分の間にこの難問を正しく回答する必要があるのかと教師はげんなりする。

 ああ、そうだ、と教師は"魔法の言葉"を思い出した。子供に言い聞かせる時恐らく最も使われただろう言葉。


「じゃあ、莉衣菜さんは突然知らない人から殺されてもいいの?嫌でしょう?」


 そう、"されたら嫌な事はしちゃダメよ"である。何とも便利だ。子供の悪行全てに万能に使える。これでこの問答から開放される。


「はぁ?別に……理由があるならいいんじゃないですか?」


 そんな教師の期待を裏切るように少女は難なく返した。"畜生"と嘆くよりも先に、「ああ」と教師は気づく。そもそも彼女がこんな質問をしてきた理由を。そして今この答えを返してきた原因を。


「(この子、『死生観』ってものが殆ど育ってないんだ)」


 生物の生死、天国と地獄、感情と規律、それらの中心となる『死生観』が余りにも未熟なのだ。人が死んだらどうなるのかなど考えない。母親が作ってきた料理を口にするのと同じように、"生死"を有り触れた何となく起こる事情の一つとしか捉えてない。鉛筆の元素は知らずとも文字を書ける事や、機械の知識がなくともゲームを出来るようなのと同じだ。魂や感情といったものについての思考を持たないが故に生まれた疑問。

 つまり彼女は、親の躾などによって、"人を傷つけたら怒られる"という事しか知らないのだ。それがどうしてダメなのかが分かっていない。成程そうであれば、彼女の質問は尤もである。訳も知らず理由も分からず禁じられた行動を、何故禁じられたのかと問いかけているのだ。


 ふっと教師は微笑んだ。そしてまたもや"魔法の言葉"を吐いたのであった。


「そういうのはお父さんに聞いた方がきっと詳しく教えてもらえるわよ」

「父さんは居ないんだけど」

「……なら、お母さんに聞いてね。それじゃ私は次の授業の用意があるから!」


 "親に聞け"、そう丸投げして教師は足早に職員室へと向かった。その後ろ姿を見届けた後、少女はため息を吐く。


「母さんに聞いて分からなかったから聞いてるんじゃん……」


 ポツリと呟き、少女は教室へと戻った。次の授業は『社会』。先ほど道徳の授業を行った教師とは別の教師だ。そっちの教師にも聞いてみようと考えながら、少女は社会の教科書を机から引っ張り出して机の上に置いた。

 そうして数分後、授業開始のチャイムが鳴り、また退屈な時間が始まるのだった。

ここまで読了して下さった方、このような作品を最後まで見て頂きありがとうございました。

前書きでも書きましたが、結局話の内容を纏めると「答えづらい質問をされた大人が明確な答えを出さずにその場を流す」というものでしかないんですよね。何でこんなの書いたんだろうかと我ながら不思議。

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