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結局、お化け屋敷は何事もなく終わった。
お化け屋敷自体は、そんなに怖くはなかった。
まぁ、何度も目の前でスプラッタを見たことがあるからな~。
いまさら、お化けのコスプレごときに、何もビビるものはなかった。
それでも、急にワッと出てきた時は少しだけ驚いたが。
「なんか、あんまり怖くなかったよね~」
「あ、ああ。うん。そうだねっ」
そう答える水守一輝も大してビビっていなかったようだ。
てか、お化け屋敷の中では僕ばっかを見ていたし。
僕を見るな、お化けを見ろよ。バカヤロー
そして、妙に挙動不審な態度をとっていたが、全部スルーしてやった。
そうこうしてるうちに、僕たちの後にお化け屋敷に入っていったあいちゃん、林友一ペアが出てきた。
「うー。怖かったよ~~」
少し涙目のあいちゃんに、それを、よしよし、となだめる林友一。
むぅ。なんかいい雰囲気だ。
よし、邪魔してやろう。
「あいちゃん、気分転換にアイスたべよっ」
僕はあいちゃんの手を引っ張って、アイスクリームを売ってる屋台に向かう。
「いいね、いいね。一輝、アイス食いに行こうぜ」
林友一と水守一輝も後ろからついてきた。
なぜか後ろで水守が林友一に頭をたたかれていたが。
この後も、四人でアイスを食べ、僕達はジェットコースターなど他のアトラクションを楽しんだ。
僕は意外にも、この四人で遊ぶのって楽しいな、と感じはじめていることに気がついた。
可愛いあいちゃんに、ちょっと面白くてお兄さん役な林友一、そして、なんだかいろんなとこで馬鹿な行動をとる水守一輝。
僕は昔のように心の底から笑っていた。
遊園地も結構久しぶりだ。
すべてが楽しい。
ここに連れてきてくれた林友一達に、少しは感謝してやってもいいかなと思う。
「次はあれ!観覧車に乗ろうぜ!」
林友一が観覧車を指差す。
いいね、いいね、と僕が同意すると、また林友一はクジを出してきた。
「はい!今回も男女二人にわかれましょう~」
あはは、と笑い、僕はクジを引く。
今回は僕は林友一とペアになった。
観覧車にのりで僕は外の景色をみる。
わぁ。
さっきまであそこ歩いて行ったんだな~。
で、そこがおばけ屋敷でーーー
楽しんでいるとーー
「なぁ、みずきちゃん。 どう? 楽しい?」
林友一が話しかけてきた。
「うん!こんなに楽しいの久しぶりだよ!」
「そっか、そっか! 楽しんでもらえて何よりだぜ、……あっ、ちょっと話変わるけど、みずきちゃん、まだ一輝のこと苦手?」
聞かれてみて、改めて思い返してみる。
うーん。水守のことか~。
敵だってわかってるんだけどなっ。
なんか一日一緒に過ごしてみて、悪い奴ではないってわかったし、むしろ友達になってあげてもいいぐらいだ。
どうやらクロスってだけで、まともに僕は水守のことを見ていなかったようだ。
クロスは敵だ。
でも、水守は敵ではない。
そんな気がする。
これからはクラスメイトの一人として見てあげよう。
一緒にいて楽しいし、何となくまじめな奴だ。
それに、あいちゃんが水守と一緒にいることで、とても幸せそうにしている。
こいつなら、あいちゃんをくれてやってもいいかもしれない。
「……苦手?じゃないいよ。案外いい奴だった」
「それはよかった、やっぱり食わず嫌いだったね。」
「そうかもしれないっ」
ふふふ、と僕たちは笑う。
すると、林友一がまた話題を変えてきた。
「ねえ、みずきちゃんって彼氏とかいないの?」
「へ? いないよ??」
彼氏なんてつくる気はない。
そもそも僕は男だ。
「ふーん。じゃあ、気になってる人とかは?」
「えー。気になってる人もいないって」
「そうなんだ~。みずきちゃん、可愛いのに。もったいないな~。」
ブーン、ブーンと鳴る林友一の携帯電話。
「うん??」
林友一が話しを区切る。
「メールかな? みずきちゃん、ちょっといい??」
そういって林友一は携帯をチェックする。
すると、急に顔が青ざめた。
「くっ」
そうもらすと、また林友一の携帯が鳴った。
すぐに林友一は電話に出る。
「ああっ!一輝か……、……ああ、もう見た」
真剣な顔で話している。
相手は水守だろう。
「……わかってる! まずは落ち着け! お前が取り乱してたらどうにもなんないだろっ、まずやれることをしろっ」
そこまで言うと、林友一は携帯から顔を話して、僕に語りかけてきた。
真剣にゆっくりと、丁寧に言葉を紡ぎだす。
「みずきちゃん、落ち着いて聞いてほしい、大丈夫、俺と一緒にいれば大丈夫だから」
何のことだと思い、林友一の目をみる。
すると、林友一は言いにくそうに僕に告げた。
「この遊園地にクライムがあらわれた」
ふと、さっき見ていた景色が眼に映る。
何事もないように見える。
ただ少し、騒がしい気がした。