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 今日はとてもいい天気だ。

 まさに快晴。


 窓から強い日差しがさしてくる。

 うう。眩しい。


 これは絶好のお出かけ日和だろう。

 こんな日は外に出るに限る。

 気分がよくつい鼻歌を歌ってしまいそうだ。


━━今日が土曜日でなければ。


 むなしくも、力を発揮できなかった逆テルテル坊主をみる。

 窓辺にかかっているそれも、しかめっ面をしているように見える。


 まさに今の僕の気持を代弁してくれているかのようだ。


 正直、雨が降ってほしかった。


 降水確率10%に願いを託してみたが無駄であったようだ。


 今は朝の8時。


 集合時間は10時だ。

 あと1時間後位に家を出れば余裕である。


 昨日は夜の12時にこの林瑞希の姿になった。 

 つまり今日の夜12時までは鬼化する心配はない。


 僕は朝ごはんを作ることにした。


 「何もないといいけどな」


 それだけだ。

 何らかの間違いで僕が鬼であるとばれなければいい。

 奴らは僕を殺すために遊園地に誘ってきたのではないかと何度も何度も考えた。


 そんな気もするし、あいちゃんも一緒だから本当にただ遊ぶだけなのかもしれない。

 

 考えても、考えても答えなんて出ない。


 後はなるようになれ。

 

 今はそんな心境だ。




 朝ごはんを食べて、準備を始める。

 

 服は━━

 

 Tシャツとジーパンでいっか。

 何かあったときのために動き回りたいし。


 あとは鞄に防衛用のナイフを入れてっと。


 あっ、でもナイフ持ってたら遊園地の中に入れないか。


 なんか今から命のやり取りが行われるかもしれないと思うと、このナイフがないのはなんか不安だな。


 このナイフ、実は特別なナイフで鬼の体より硬くて鋭いし、刃こぼれもしない。

 あの五年前の僕からすべてを奪っていった事件を僕とともに駆け抜けた相棒である。


 持っていきたいけど、持っていけない。


 たぶん大丈夫だろうと判断し、僕はナイフを鞄から出した。


 あれっ、持っていくものが他に思い浮かばない。

 

 じゃあ、鞄じゃなくてウェストポーチでいいかな。


 すると、あとは髪型くらいか。

 めんどくさいし、簡単に後ろに縛っていこう。


 そうやって準備してると気づいたら家を出る予定の時間になっていた。


 結局、Tシャツにジーパン、ウェストポーチの簡単なスタイルだ。


 かわいさの欠片もないが機能性を重視したからしょうがない。


 靴はもちろんスニーカーだ。


 「いってきまーす」

 

 僕は家を出た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 予定の時間よりも10分も早く着いた。


 ここは集合場所の遊園地入口。


 一番乗りかなって思っているとすでに他の3人は来ていて、僕が最後だった。


 「おはよう」


 「「「おはようっ」」」


 三人とも息がピッたしで僕は驚いた。


 三人も声が揃ったことが意外だったようで笑いが起きる。


 仲がいいことだ。


 「じゃあ、すこし早いけどみんな集まったことだし、入ろうか!」


 林友一が仕切る。


 それにたいして『おー!!』と腕を高らかに挙げるあいちゃん。


 「ふふっ」


 思わず笑ってしまった。


 水守一輝はというと顔を少し赤くしてうつむいている。

 なんだこいつ。変な奴。


 見つめていると目があった。


 すると急にあわてだして━━


「さ、さあ!いこう!」


 と言って、勝手に一人で入口へと向かっていってしまった。


 『ダメな奴……』とつぶやきながら林友一はしょうがないな~っていう顔でそれを眺めている。


 水守一輝に続いてあいちゃんも入口へ向かっていったので、僕もそのあとを追うことにした。






 遊園地は正直楽しい。

 気づいたら敵と一緒だというのに、思いっきり楽しんでしまった。


 時間はもう12時を過ぎ、僕たちはいい感じでお昼の時間に入った。


 さてさて、昼ごはん何にしようかな~


 あっ、これおいしそう!

 

 早速注文することにする。


 「おばちゃん!!Bランチで!!」


 「俺もBランチ!」


 注文していると、気づいたら水守一輝が隣にいて、同じメニューを注文していた。


 「林さん、楽しい?」


 「うん、まあ、楽しいよ!」


 「良かったぁ!」


 確かに楽しかったので正直にそのことを述べると、水守一輝の顔がパァっと明るくなった。


 なんか、こいつもかわいい所あるんだなっとしみじみしてると食堂のおばちゃんが━━


 「はいっ、Bランチ二つお待ちどう様!二人ともデートかい?熱いね~」


 ガハガハっ笑ってとBランチを出してくれた。

 

 僕はそれを受け取る。


 それにしても、こいつとデート?

 クロスとなら、死へのランデブーができそうだが冗談じゃない。

 

 あっ、でも傍から見るとそう見えるかなっと思っていると隣の水守一輝が取り乱し始めた。


 「いや、いやっ、そのこれはデートとか、えーと━━」


 よくわからん奴だ。


 「ちがうよねっ」


 そういうと、水守一輝はなぜか落ち込んだ。


 「がんばんなっ!今日は楽しんでおくれよ!」


 水守一輝は食堂のおばちゃんにバンっと背中をたたかれていた。


 僕は次の客が来ているのでサッサとトレイを持って会計に行くことにする。


 「お会計お願いしま~す」


 『はーい』


 「あっ、ちょっと待って!俺、出すよ!

  Bランチ二つ、まとめてお願いしますっ」


 『かしこまりました』


 ちょっ。


 僕が何も言えないうちに水守一輝は会計を済ませてしまった。


 会計が終わり、二人ともトレイを持ってテーブルへと向かう。


 正直お昼ご飯代を出してもらうのは気が引けた。


 「水守君、さっきのお金なんだけど悪いから出すよ」


 『ハイっ』っていいながか僕は財布を出す。


 「いや、いいよ。そんなの気にしなくたって」


 それでも払おうとする僕に対し水守一輝は━━


 「大丈夫。俺、お金はたくさんあるから。ねっ」


 と言って財布をしまうように言ってきた。


 どんな成金発言だと心の中で突っ込みながらも、自分のお財布事情と相談し、せっかくだからおごってもらうことにした。


 僕はそんなにお金を持っていない。

 一人暮らしもさることながら、収入源がほんとに少ない。


 たまに鬼になって気づかれないようにチョロっと空き家からちょろまかしたり、街の不良集団達をぼこぼこにして巻き上げたりするぐらいなどである。


 はい。きれいに犯罪者予備軍です。ありがとうございます。


 お金はいくらあっても足りないのだ。

 

 「ありがとう!」


 今僕はたぶん、すごくいい笑顔をしている気がする。





 僕たちは四人が座れるのテーブルをさがし、座った。


 あいちゃんと林友一も無事お昼ご飯が買えたようで、僕たちが座っている席に来た。


 『いただきます』といって僕はご飯を食べ始める。


 他の三人もそれに続いて食べはじめた。


 「にしても、楽しいね~」

 

 あいちゃんがしゃべりはじめる。


 「だよね~。でも、まだまだ行くところがたくさんあるぜ。お化け屋敷に観覧車。ジェットコースターとかもな!」


 林友一の言葉にあいちゃんが眼を輝かせた。


 ほんとに楽しそうだ。

 ああ可愛いな。抱きしめたい。


 「楽しみっ!あっ、そういえばなんかこの遊園地ところどころに『鬼に注意!』ってポスターが貼ってあるよね~」


 そして急に話題を変えたあいちゃんの言葉に、僕は思わず噴き出しそうになった。


 誰か耐えた僕をほめてほしい。


 「ああ、あの『クライムはあなたの身近にいます。出会ったときは連絡を』っていう日本クロイツクロス社のポスターね。

 最近クライムが活発化してきてるからね。

 てか立川さん、そのポスター、この遊園地だけじゃなくて街中に貼ってあるよ」


 それに答える水守一輝。


 へー、最近活発化してるんだ。知らなかった。


 「き、気づかなかった~。でもクライムなんていないよね~」


 ふふっと笑うあいちゃん。


 いやいや、あなたの隣にいつもいますよ。

 てか、目の前に今いますよ。


 林友一が話しに乗り込んできた。


 「いやいや、クライムって実は結構いるんだぜ」


 「えー、林君ってクライム信者?」


 「いや、いやマジで。実はかなり近くにいることが多いんだぜ。なっ、一輝!

 みずきちゃんはどう思う?」

 

 僕に鬼関係で話を振らないでほしい。

 ボロが出たらどうしてくれるんだ。


 「わたし?うーん。いないんじゃないかな~。あは、あはは」

 

 「みずきちゃんもそう思う?でも、そもそもクライムがいなかったら日本クロイツクロス社なんて、でっかい企業ができるわけないだろ?」


 林友一の言葉にあいちゃんがうんうんとうなずく。


 「そうかもねっ~、でも私たちにはたぶん関係ないよねっ?」

 

 だからあいちゃん、君はその関係者に囲まれてご飯を食べているんだよ。

 

 僕はそう心の中で突っ込んだ。



 「そうだね。なにも関わらずにいけるのが一番だね」


 「その通りだ。でも、もし万が一クライムとあったら逃げるんだぜ。普通の人間じゃまず勝てないからな」


 水守一輝の言葉に続き、林友一が忠告してくる。


 「えー、なんだかこわいな~。でもクライムってどんな姿しているのかな~」


 うーんと考えるあいちゃん。その愛くるしい姿に70萌えポイント。


 思わず僕は教えてあげたくなった。


 「あいちゃん。それはね、人っぽいのと鬼っぽいのがいるんだよ」

 

 すると水守一輝がビックリしたように目を丸くした。


 「えっ、林さん、詳しいね」


 さっきクライムはいないんじゃないかなって言ってなかったっけ?と首をかしげる水守一輝に僕は焦る。

 

 しまった!あいちゃんマジックにやられていた!


 とりあえず笑ってごまかすことにする。


 「あははは、ちょっと昔気になって調べたことがあるんだ~。ほら~襲われた時のためにとかね~。まあ、結局クライムとなんてまったく会わなかったけどねっ」


 「お、みずきちゃん、いい心がけじゃん!」


 林友一が感心したようにうなずく。


 ご、ごまかせたのかなっ?


 「もうそろそろ次のアトラクション行こうよ!」


 話をそらすために僕は別の話題をもってくることにした。


 するとあいちゃんもそれに乗ってきた。


 「ごちそうさまっ!うんうん!次はお化け屋敷いこうよ~!」


 「いいね~いいね~。はやくいこっ」


 僕もごちそうさまをして他の二人を促した。





 お化け屋敷の前で林友一がビックリするようなことを提案してきた。


 曰く、男女二人づつでペアをつくってお化け屋敷に入ろうというものだ。


 林友一がつくったくじでペアは決まり、僕は水守一輝と一緒になった。


 このお化け屋敷、怖いことで有名なのだが、僕はそんなことよりも暗闇で水守一輝と二人っきりになる方が怖い。


 この数時間で案外いい奴だということはわかったが、さすがに二人っきりというのは不安を覚える。


 ここで僕を襲い、始末する可能性があるからだ。



 待っていると、何か林友一につぶやかれて顔を赤くした水守一輝が隣にやってきた。


 むぅ、怪しい。


 「襲わないよね?」


 そう念を押してみる。


 「お、襲わないよ!!」


 水守一輝は顔を真っ赤にして、首をぶんぶんと横に振った。


 こうして僕たち二人はお化け屋敷の中に入っていった。


 


 


 


 


 

 

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