6*
*は主人公以外の人の視点で書きます。
この6話は読まなくてもたぶん大丈夫です。すぐにストーリーの続きが読みたい人は7話へどうぞ。
あと、あとがきに主人公の挿絵を載せました。
汚い絵ですがこんなイメージで作者は制作しています。よろしければ見てください。
視点ーーーー林友一
転校した俺の隣の席の女の子はちょっと変わった子だった。
外見はまあ可愛い。
個人的にかなりレベルは高いと思う。
だから、席が決まった初日は俺のテンションは高かった。
眼副、眼副~。
どうやら名字も同じ林らしいし、これでつかみも完ぺきだ。
仲良くなれそうだぜ。
そう思いながら昼休みに話しかけてみると、反応が思ってたのよりだいぶ違った。
「俺、林友一。よろしくね」
「……よろしく」
あれ、なんかすごくテンション低いな。
大人しめな子なんだろうか。
とりあえず名前が同じなことをアピールしてみよっかな。
「名前なんていうの?」
「……林瑞希」
「おっ、名字おんなじじゃん!これから仲良くしような。みずきちゃん」
そういうと無言でじっと見詰められた。
うっ、空気が重いっ!
みずきちゃんは、『いや、まさか。さすがに違うよね……』とかブツブツつぶやいてるし、一体どうしたんだろう?
「ど、どうした?」
聞いてみると、意を決したようにみずきちゃんが口を開いた。
「ねぇ、ねぇ。林君って一緒に転校してきた水守一輝君と何か関係あったりする?」
なんだ。一輝の話か。
あいつに気でもあるのかな。
まあ、一輝と俺ってクロイツクロスでのパートナーみたいなもんだし、今回もこの任務であいつと同じ班になってる。
昔から一緒にいるし、もはや親友といっても過言はないくらいだ。
それにしても、一輝あいつモテるな~。ちびのくせに。
「まあ、昔から一緒にいるし親友かなっ」
「…………。そうなんだ~。じゃあ、水守一輝君のど~んなことでも知ってるの?」
「あたりまえだ。もう、あいつが俺に隠せてることなんてこの世にな~ンにもないぜっ」
そうだろう。
俺は一輝のことも小さい時から面倒見てる。
もうあいつは弟のような存在だ。
ほんとに一輝が俺に隠せてることなんてないだろう。
あっ、ちなみに俺今年で20才ね。
年齢詐称でこの学校に転入している。
詳しくは知らされていないが、今回はこの学校で大々的な作戦があるらしく、そのために日本クロイツクロス社からそれなりの数の対クライム(鬼)用戦闘員が派遣され潜伏しているのだ。
まあ、動きがあるまでは待機なので、今は久しぶりの学園生活を一輝とともに過ごすことになってるが。
「あはははは……。そ、そっか~……」
なぜか引き気味のみずきちゃん。
えっ、一輝のこと知りたいんじゃないの?
なぜそこで距離をとる?
しかも物理的な距離を。今イス一個分俺から離れたよね!?
「まっ、一輝のこと知りたくなったら言ってね。なんでも答えてやるぜ」
「あはは……。う、うん……。その時がもしきたらね」
一体この子は何が言いたいんだろう。
変わった子だな。
「まっ、そういうわけでよろしくっ」
「うん。よ、よろしくね」
そう言って前を向くみずきちゃん。
なんか前から女の子が走ってきた。
「みーちゃぁん!」
みずきちゃんがパァと笑う。
「あいちゃん!!ねえ、ねえご飯たべよっ!屋上いこう!!!!」
だれだっけ、この子?
みずきちゃんにあいちゃんと呼ばれた女の子を見てみる。
ショートカットに少し茶色がかった髪の毛。
活発で元気あふれる子だ。
名前はうーん。わかんないや。
まっ、後々覚えていけばいいかな。
にしてもみずきちゃん、テンション高っ。
急にテンション高くなって、お兄さんとてもビックリだよ。
あいちゃんって子の手を引きずって、ダッシュでこの教室から出ていくのを見て、大人しいイメージはなくなった。
……男慣れをしていなくて緊張でもしてたのかな?
それならこれからほぐしてゆこうかな。
一人になったので一輝の元へ行く。
一輝は今まで任務ばかりで、まともに学校に通ったことなんてほとんどない。
あいつにはこの平穏なひと時で、思い出をたくさんつくって欲しいと思っている。
「よっ、一輝、飯でも食いに行こうぜ」
「ああ」
一輝を誘って食堂に向かうことにする。
あれっ、なんか妙に話したそうにしているな。こいつ。
「うん?どうかしたのか?」
「あ、あのさっ。えーと、さっきさ、林さんと話してたよね。な、なに話してたの?」
なんか妙にもじもじとしている一輝を見てびっくりした。
まさかこいつみずきちゃんに気でもあるのか?
「な~に?もしかして気になる?気になるのか?」
「いや、まーそ、その何を話していたのかな~って、ただそれだけだからっ!」
「ふっふーん」
ビンゴだ!間違えない!この反応!
一輝の奴みずきちゃんに一目ぼれでもしたのか。
とりあえずにやつきが、と、ま、ら、な、い。
「なっ、なんだよその目は~」
「うりゃ、うりゃ」
もうかわいい奴だな~。
一輝の髪をわしゃわしゃとなでる。
「なにするんだよ!!」
「うっせ。おりゃ」
「わっわっ。やめろ!髪の毛のセットが崩れる!!」
「すまん、すまん」
たくっ、と言いながら隣で髪の毛を整え始める一輝。
「で、どこが好きなの?おにーさんに言ってごらん」
「すきじゃねーよ」
「じゃあ嫌い?」
「嫌いってわけでもないけどさっ」
素直じゃない一輝が面白くて、軽くからかってみる。
「そっか、そっかぁ。まー、みずきちゃんかわいいしなー。俺狙っちゃおうかなー」
「えっ!!??」
目も見開いて驚く一輝。
いやいや、ちょっと驚きすぎでしょ。
うわぁ。おもしれー。
ちなみに高2は狙わないよ。
俺ロリコンじゃないし。
「冗談だよ。それにしても良い反応をどうもありがとう。で、本当にどうなの?
てか、お前わかり易すぎなんだよ。それにずっとお前のことを見てきた俺だぜ。ごまかしても無駄無駄。一輝にプライバシーはありませんっ」
「なんでだよっ!?…………。まぁ……、ちょっとかわいいかなって。気にならないって言ったらウソになるかな」
「ふーん、ちょっとなの?」
「……。ごめんなさい。ドタイプです」
「良く言えましたっ。でっどうしたいの?彼女にしたいとか?」
そこまで言うと一輝は固まった。
あれっ?なんで??
ーーーーあっ、そういえば一輝が恋したとかそういうのこれがはじめてじゃね?
うん。
初めてな気がする。
ずっとクライムの相手ばかりしてたからな~。
初恋か。
青いなぁ~
「そのっ、彼女とかしたいけど……。でも、ほら俺たちこの学校にいつまで入れるかわからないし……」
あいかわらず、まじめな奴だな。
なんか、世の中のために必死に戦っていて、まともにこういう青春がおくれていない一輝が少し不憫に思えるぜ。
俺みたいな戦闘補佐員はともかく、こいつのようなクロスは数が少なく戦い詰めなんだ。
少しくらい羽を広げさせてあげたっていいじゃないか。
俺はこいつの初恋を全力で応援することにした。
「ま、少なくとも仲良くなる分にはいいだろっ!ほら、せっかくこんな風に学園生活をおくれるんだからさ!精一杯楽しめよ!思い出とかたくさんつくってさっ。俺は全然いいと思うぜ!」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。おにーさんの言うことを信じなさい」
不安そうに聞いてくる一輝に俺はうなずく。
みずきちゃんも一輝のことを意識していたし、もしかしたら両思いかもしれない。
願わくば二人に幸せな甘ずっぱい青春をおくって欲しいものだ。
それからというものも、俺は一輝に、みずきちゃんに話しかけて来いって言ってるのに、この数日間、あいつはチキッてチラチラと見ているばかりだ。
あれっ?
俺の相棒ってこんなにヘタレだったっけ??
クライムは勇ましく狩ってゆくくせに。
少し情けなくなってきた。
そしてみずきちゃんの方だが、なぜか俺に微妙に冷たい。
俺が話しかけるとあからさまにテンションが落ちる。
とりあえず、みずきちゃんって呼んでいたら、下の名前で呼ばれると恥ずかしいから名字で呼んでほしいって言われた。
でも考えてみてほしい。
林さん、林君って呼び合っていたらなんか変な感じするし、いらつくだろ。
それに名字とかで呼んでいたら心の距離がいっそう開きそうだ。
一輝の様子を見ている限り、俺が二人の懸け橋にならない限り二人がくっつくことは、まず、ない、と思う。
ここだけは譲れないなと思い、俺は無理やり名前で呼び続けている。
あとわかったことだが、みずきちゃん、これがまたなかなかの天然少女だった。
発言がたまにぶっ飛んでいるが、かわいいから許す。
げた箱での上目使いとかやばかった。
その時は一瞬不覚にもグラッときてしまった。
それに最近少しずつ仲が良くなってきた?気がする。
いいことだ。
俺はみずきちゃんの事で一輝をからかうことが最近の日課となっている。
みずきちゃんのことを教えて一輝の反応を見るだけなのだが、これがまた本当に面白い。
一輝が『猫って何考えてるのかなぁ』とかつぶやいていた時とか、俺は噴き出すのをこらえるので必死だった。
あのまじめな一輝が、まさかそんなセリフを吐くなんて恋の力は素晴らしいなと思った。
他にも一輝が勇気出して声をかけたら、叫びながら逃げられたって半泣きで報告してきた時も、青春してるなぁと感じた。
ほんとこの二人の関係は見ていて飽きない。
そろそろ、迷える一輝君に手を差し伸べてあげる時かなと思い俺はみずきちゃんを遊びに誘うことにした。
一輝の奴は『心の準備がっ』とかほざいていたが、そんなものは知らん。
今週の土曜日が楽しみだ。