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「はぁ、行くか」
あれからかれこれ10分ほどトイレにこもっていたが、もうそろそろ朝のホームルームが始まってしまう。
僕は決心するとトイレのドアを開けた。顔を出して周りを確認。
よし、水守一輝はいない。
僕はそそくさとトイレから出て教室に向かった。
教室のドアを開ける。
そろ~と顔をのぞかせて中の様子を観察してみる。
水守一輝は林友一(変態)と話をしているぞ。
僕に気づいた様子はない。
僕はそのまま気づかれないように席に向かい座った。
「ふー」
安堵のため息をつく。
このまま先ほど僕が叫んで走り去って行ったという出来事が、相手の記憶から無くなることを願うだけだ。
「みーちゃん、おはよっ」
振り向くとあいちゃんがいた。
「朝どこにいたの?」
笑いながらあいちゃんが話しかけてくる。
「あはは、ちょっとお腹が痛くなっちゃって」
そう返すとガラっという音とともに先生が入ってきた。
それを合図にクラスのみんなが自分の席に向かう。
「みーちゃんまたね」
そう言うとあいちゃんも自分の席に戻って行った。
「またね」
僕もそうあいちゃんに返す。
あいちゃんが去っていくのを見ていると、当然のことながら林友一が隣の席に戻ってきた。
しかも、妙ににやついてる。
ホームルームが終わると、林友一はすかさず僕に話しかけてきた。
「なあなあ。みずきちゃんって一輝のこと嫌いなの?」
「えっ、いや、その嫌いっていうわけじゃないけど……」
いきなりの質問にうろたえていると、林友一はさらに僕をえぐってきた。
「へー、嫌いとかそういうわけじゃないんだ。一輝の奴、みずきちゃんにあいさつしようとしたら、叫びながら逃げられたって嘆いたよ。そーとーショックうけてたぜ」
「あぅ……//」
笑いながら話しかけてくる林友一に対し、僕は水守一輝の印象にかなり残ってしまったらしいことに嘆いていた。
当の本人である水守一輝を見てみる。
おどおどしながら、なんかこっちをチロチロて見てくる。
あっ、目があった。
僕は全力で視線をそらす。
やばい。どうしよう。
そうこうしてると、林友一がまた話しかけてきた。
「なに~。一輝のこと苦手?」
「うん。まぁー。━━そうかもしれない」
「へー、たとえばどんなところ?」
どんなところ?鬼を一瞬にてチリにするようなところだ。
そんなこと普通の人間にはできない。
僕は死ぬのは怖い。
運よく、僕はそれに適した特殊能力を持っている。
僕はいろいろと特殊な鬼なため、LV2なのに特殊能力を発現しているのだ。
しかし、水守一輝のクロスの武器の能力は僕の能力を無に帰すようなものなのである。
ちなみに説明すると鬼にはLV1からLV5まである。
LV1は純粋な身体能力向上、かたく鋭い爪と牙。
そして頭のどこかに小さな角がある。
外見は人間そっくりだ。
Lv2は鬼化することができる。
つまり、よくおとぎ話などで出てくる鬼の姿になれるのである。
その強さはLv1を軽く凌駕する。
もはや生体兵器……らしい。
他にも、鬼火や呪術といったものも使える。
Lv3は鬼化の限界突破と言われている。
LV3になると固有の特殊能力が得られるらしい。
ただ、Lv3の鬼はずっと鬼化した状態。人間の姿に戻れないらしい。
人の姿を捨てた存在だ。
僕はこのLV3で得られる能力をなぜか最初から持っていた。
ちなみに最初から鬼化もできた。
たぶん、僕が人工的につくられた鬼だからだろう。
最強の鬼のできそこない。
そう製作者に言われたわけだが。
そしてLV4とLV5についてはよくわからない。
数はLV1がたくさんいてLV2もそこそこいる。
しかしLv3からは一気に数が少なくなり、LV4とLV5はほとんどいない。
LV5は史上でも確認されているのは5匹だけだ。
これらの知識はすべて、僕が鬼にされる実験中に教え込まれたことだ。
他にも、クロスを殺してクロスが使っていた特殊な武器を使用している鬼もいるなども教えてもらった。
クロスの武器の特殊能力は使えないが、強くなった鬼の腕力に耐久できる武器がそれぐらいしかないらしい。
ちなみに僕が所属しているグループのトップである堕鬼は数少ないLV5であり、僕がひそかに首を狙っている心の害虫NO.1だ。
僕は奴のせいで本当に、それまでの人間関係のすべてを失った。
死んでった人たちへの弔いもある。
僕がこのグループに所属しているのには、すきあらば堕鬼の寝首をかくためでもある。
まあ、鬼の寿命はものすごく長い。
強くなれば強くなるほど長くなるらしい。
平安京時代に生きていた鬼もまだ実在するくらいだ。
そのため、寝首をかく計画は超長期スパンである。
グループの中で地位を得なければ奴に会うことさえもままならない。
長くなったが、僕の能力は身体のセーブ機能。
体をセーブしたところまで再生することができるというものだ。
簡単に言うとRPGでいう冒険の書、身体限定での{続きから始める。}みたいなものだ。
使ってみるとただの高速回復だが、意識を一瞬で刈り取られないかぎりほぼ不死身だ。
しかし、思うまもなく一瞬で殺された場合どうなるのか。
とても怖い。考えるだけでぞっとする。
たぶん死ぬのだろう。
そして同じ鬼を一瞬にしてチリにした水守一輝は僕の天敵であるだろう。
「みずきちゃん?」
つい考え込んでいると、林友一が返事がないのを不思議に思ったのか名前を呼んできた。
僕はその声で思考の海から帰ってきた。
とりあえず返事をしないと__
「うーん。わかんないや。何となくかな」
「へ?何となく苦手なの?一輝がみずきちゃんになんかした、とかではなくて?」
「ううん。なんとなく苦手なんだよね~」
「チビだからだとか、容姿が気に入らないとかか?」
背が低いっていっても僕より少し高いし、容姿はむしろかっこいい部類に入る。
「いやいや、そんなことじゃないよ!ただなんとなく、何となくなんだ」
ぶんぶんと首を横に振ってこたえると、林友一はフムフムとひとりでうなずきだした。
「つまり、みずきちゃんの食わず嫌いって奴だなっ」
そう言って会話は終了した。
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帰り道、僕はひとりでとぼとぼ通学路を歩いていた。
今日は何もなく学校を終われてよかったと安堵する半面、果たして本当に何もなく終われたのかが気になる。
今日がいつもと違ったところ、それは水守一輝にチロチロとみられたことである。
正直いらいらしつつも、目を合わせてしまうと、今度は逆に相手が眼をそらす。
そして、なんかもじもじしていてキモイ。
「はぁ」
なんか思い出したらいらいらしてきた。
そんな水守一輝に、あいちゃんといったら、何か近づく方法はないかなって相談してくるし。
「ああー!もうっ」
何かを壊したい。メタメタにした。
そう思って急に自分に返った。
危ない、危ない。
鬼特有の破壊衝動が出てきてた。
半分人間である僕はほかの鬼と比べて破壊衝動は少ないがそれでもある。
物を破壊すると気持ちいのである。
ちょうど通りすがる公園でちっちゃい子が遊んでいる。
--ああ。ぷちってつぶしたら気持ちいだろうな。どんな反応するのかな。
そこまで考えて、また正気にかえる。
だめだ、ストレスがたまりすぎていらいらしてる。
破壊衝動が抑えきれない。
今日はだめだ、早く寝よう。
そうきめて僕は帰路を急いだ。