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こんにちは、豆っ子です✩.*˚
今回のお話は短編になっております!
このお話も覚えていると面白くなるかも…?(*ˊᵕˋ* )
「また喧嘩したの?」
眉尻を下げ、俺の顔を見るなりそう言ってきた女性は音楽の先生であり俺の好きな人だった。
「…あっちから殴ってきたんだよ」
「そういうことじゃないでしょ?喧嘩はよくないっていつも言ってるじゃない。今回も怪我が重くなかったからいいけど…」
俺はどちらかと言えばやんちゃをするような性格で、何度も警察沙汰になったこともあるからか、周りの大人や親からはほとんど呆れられていた。
「もう卒業も近付いてるんだから…あんまりやんちゃしちゃ駄目だよ?」
「分かってる」
「分かってるなら辞めなさい!」
笑いながらそう言う顔が凄く綺麗で、思わず息を飲んだ。
「ほら、もう少ししたら昼休みも終わるから早くするよ。ピアノ教わりに来たんでしょ?」
正直に言うとピアノを教わりたいのではなく、先生に会うためにここに来ている。生徒と教師なんて所詮そんなことでしか接点が持てないほどの関係だ。ましてや俺なんか相手にしていることを知っている先生がいたとすれば、きっと全力で止められているだろうし。
「瀬戸川君は習得が早いよねー。羨ましい。将来は音楽関係に就くの?」
「なんも決まってない」
「せっかくなら就いてみてもいいんじゃない?才能あると思う」
「いや、いい」
「えー。応援するのに」
「他の職業だったら応援してくれねぇの」
「するよ!瀬戸川君は可愛い生徒だもん」
「…俺は先生って思ってないかもよ」
「えー?酷いなあ。ちゃんと先生なのに」
鈍感過ぎて困る。普通なんとなく気付くだろと思うが、こんな風に少し抜けてるところが好きだったりするのかもしれない。
ピアノを教えてもらって掃除時間になってから音楽室を出た。いつも掃除が始まる頃に勝手に帰ることが日課で、今日もそのまま学校を早退して家に帰った。
共働きの両親は夜にしか家にいることがないから、逆に夜に家にいない俺と顔を合わせることなんて、朝学校を行く前くらいしかない。静まり返った家の電気を付けることもせず2階に上がり、自分の部屋に入る。しばらくした後、また帰ってきたばかりの家を出た。
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インターホンを押すとしばらくしてドアが開く。
「入っていいよ」
そう言って中に入れてくれたのは中学のときからの親友だった。正直まともな人間とは言えない奴で、少しの間少年院に入ったこともある。根はいい奴なのだが、薬に手を出すようになって手がかかるようになったのだ。中学のときから一緒に悪さはしていたが、部活の関係で仲が良かった先輩と薬を始め出し、最初はしつこく俺にも誘ってきて関係を切るか考えた時期もあった。こいつがまだ俺に誘ってくるようなら関係を切った方がいいかもしれないが、最近は言ってくることも無くなったし今はいいかと思っている。
「お前寝てないだろ」
「オールでゲームしてたから昼に2時間くらい寝た」
「まだあいつら来ないし、寝れば」
「そうしよっかなー。お前も寝る?」
「ん」
ゲーム三昧で全く寝ていない親友とシンプルに眠たい俺は、他の友人たちが来るまで寝ることにした。
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「おーい、来たぞー」
そんな声で目が覚め、うっすらと重たい瞼を開けると待っていた友人たちが来ていた。
「お前ら2人して寝てたのかよ」
「眠かったんだよ」
「酒買ってきたからみんなで飲もうぜ」
友人が大量にお酒が入った袋をぶら下げているのが目につく。みんなでテキトーに座り、お酒を飲んだりしながらゲームをする。
「俺ちょっと外出てくるわ」
しばらくそうして過ごしていると、少し外の風に当たりたくなり家を出た。夕方の空は辺りを赤く染めていて眩しい夕日に照らされる。カラスの鳴き声や車のエンジン音が響く街中を歩く。アルコールでほんの少し火照った体に涼しい風があたって気持ちがいい。しばらくブラブラしていると親友から電話がかかってきた。
「もしもし」
「俺らも出るからいつものところにいて」
「分かった」
外で集うところは決まっていて、人通りの少ない徒歩用の小さいトンネルが近くにあるところだった。そこに向かい、みんなを待っていると5分程で集合した。
集合して何をするかと言えば特に決まってすることもないのだが、壁にスプレーで落書きをしたり、ボクシング好きの友人が遊び半分でやっている勝負を見てみたり、そんな事だ。友人の中には稀にこの道を通る人に絡んでみる奴もいるが、正直そういうノリは好きじゃない。かと言って注意しても聞かない奴らだから見て見ぬふりをしているのだが。
「てかさ、瀬戸川卒業できんの?留年じゃね?」
「こいつ学校はちゃんと行ってるし、授業出てないくせにテストの成績いいんだぜ」
「少女漫画みてぇな奴だな」
「卒業したら働くとことか決まってんの?」
「何もない」
「もし卒業しても無かったら俺の働いてる鳶職来いよ。今人手不足で探してるからさ」
「考えとく」
外に出ること自体があまり好きではないし、力仕事なんてやってられないので正直考えるも何も却下だ。卒業してもしたいことがないなら鳶職以外の仕事を選んでテキトーにやってのけるつもりだ。今バイトで入っている食堂の店長からこのまま定職にしてくれと頼まれているし、最悪そこで勤めてもいいと思っている。それからもこの調子で過ごし、眠くなってきた頃に家に帰った。
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次の日、学校に着いて教室よりも先に向かった場所は音楽室だった。先生に教えてもらうようになってから1人のときはよくピアノに触れるようになった。趣味とか好きなものというわけではないが、弾くこと自体は少し楽しい。
今日もまた綺麗に黒く輝く大きなピアノを前にし、白い鍵盤に手を降ろした。指を沈めれば綺麗な音が奏でられる。最近弾けるようになってきた曲を弾いているとピアノの音に気付いたのか、先生が入ってきた。
「瀬戸川君。おはよう」
綺麗な笑顔で挨拶をしてくる先生に挨拶をし返す。
「最近よく来るね。ピアノにハマった?」
ここで先生に会いに来ていると言ったら、きっと今見ている笑顔は崩れてしまうのだろう。
「まあ、そこそこ」
そこそこでも嬉しいな、と優しく微笑みながらそう言って、手に持っていた書類を机に置く姿を見つめる。1度だけ聞いたことがある。なぜみんなが嫌がる俺のことを平等に良くしてくれるのか。それが当たり前なはずなのに、当たり前じゃないように感じさせる環境にいるせいか不思議に思ったから。答えは「瀬戸川君も大事な生徒の1人だから」。俺は生徒という立場でしかなくて、1人の男として見てもらえることはない。左手の薬指にはめられているペアリングは彼氏からプレゼントされたのだと嬉しそうに言っていた。もう付き合って4年になるらしい。きっとこのまま結婚するのだろうと、漠然とそう思っている。
「瀬戸川君、昨日もお酒飲んだ?」
「なんで?」
「お酒の匂いがする」
昨日は遅くまで飲んでいたから匂いが残っているみたいだ。
「飲んだ」
「もう。駄目って言ってるのに」
「20歳と17歳ってそんな変わりないし」
「あるよ!3歳も違うでしょ?」
「別に問題起こしてない」
「飲んでることが問題なの!」
そう言いながらもこのまま見逃す人だから本当はそんなこと思っていないのだと思う。
「先生は立場気にしないといけないから大変だね」
「何それ?私が本当は何も思ってないって言いたいのー?」
「だってそうでしょ」
「まあ…口うるさくはないけど」
「ほら」
立場を気にして注意するのに正直な気持ちを言うのだから面白い。
「でも、安崎先生にバレたら注意じゃ済まされないでしょ?」
「安崎って誰」
「生徒指導の先生。よく怒られてるじゃない」
「あー。あの人安崎って言うんだ」
「何度も怒られてるのに名前知らなかったの?3年間ずっと?」
「興味無いし。先生の名前ほとんど覚えてない」
「3年間いてほとんど覚えてない人なんていないでしょ…」
呆れたようにため息をつく。顔を覚えるのは得意だが名前を覚えるのは苦手なのだから仕方がない。似たような名前も多いし。他で覚えてる人と言えば体育科でバスケ部の顧問をしている西田先生くらいだ。
「安崎先生怒ったら怖いのに…懲りないね」
「怖くないよ。うざいけど」
「こら!そんなこと言わないの。ほら、もうすぐ朝礼始まるから行って」
そう言われ時計を見てみれば確かに朝礼が始まる時間だった。立ち上がって鞄を持つと先生が微笑みながら手を振っていた。軽く振り返し、教室に向かった。
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担任が点呼を行っている間、ずっと机に突っ伏し外を眺めていた。残念なことに年中1番前の席だが、不幸中の幸いと言うのか窓側の席だからつまらない授業を受けている間は外を眺めることができる。とは言っても外に面白いものがあるわけではないが、真緑の板に文字が書かれていくだけの風景を眺めるよりはずっとマシだ。朝礼が終わると同時に一気に騒がしくなる教室。俺も席を立ち、教室を出た。階段を上がっている際に俺を見ては小さな声で耳打ちしている生徒が目に入る。よくあることだ。学校側で問題児扱いされているが故にきっと悪口でも囁かれているのだろう。
「あ、あの、先輩!」
声をかけられ後ろを振り向くと俺より頭1つ分背が低い女子がいた。
「今お時間いいですか…?」
少し緊張した面持ちで…もしかしたら怖がっているかもしれない面持ちでそう聞く。
「ん、いいけど」
「ちょっとここは人が多いので移動したいんですけど、」
その場を離れ、移動して着いた場所は人気が無い科学室の前だった。
「すみません、いきなり。私2年の前田莉乃って言います」
いきなり自己紹介されても反応に困るなと思いながらただ黙って聞く。相手は俺のことを知っていて声をかけたのだろうし、別に俺が自己紹介をする必要は無いだろう。
「私、入学して先輩を見たときからずっと先輩のことが好きで…私と付き合ってほしくて…もちろん、最初はお友達からとかでもいいので!」
顔を赤くしながら必死に喋っている様子を見ながらやっぱりかと思った。こんなシチュエーションで告白されたのも初めてではないし、場所を移動したときでなんとなく勘づいていた。
「ごめん。好きな人いるから」
「彼女さん…ですか?」
「いや、俺が片思いしてるだけ」
「…西本先生ですか?」
その名前を口にされて心臓が大きく脈打った。なんでそうだと思ったのだろう。
「噂されてて。先輩がよく音楽室で西本先生と楽しそうに喋ってるって。もしかしたら付き合ってるんじゃないかって」
「…いや、違う。先生はピアノ教えてくれてるだけだから」
「…そうなんですね。すみません、変なこと言って」
まさかそんな噂が出ているとは思っていなかったので少し不安になる。しかも付き合ってるって…大きな問題になったら先生に迷惑がかかるだろう。しばらく音楽室に寄るのは辞めた方が良いだろうか。
「じゃあ」
そう言って足早にその場を離れる。いつも行く立ち入り禁止の屋上。低い鎖を乗り越え、ドアを開ける。本当は通常鍵がかかっていたのだが、1年のとき文化祭で屋上を使うことになり、最後鍵をかけて職員室に持ってこいと何故か俺に先生が頼んだのをいい事に、鍵をかけずに持って行った。それから屋上が使われることはなかったからずっと開いたままなのだ。すぐバレるかと思ったが、あれから2年も経っているのだから驚く。警備の人もまさか屋上が開いているとは思っていないから確かめていないのだろう。眩しい太陽に顔を顰めながらフェンスに寄りかかって座る。先生とのことを勘づかれているとは全く思っていなかった。どうしたらいいだろうか。やはり安全を取って少し距離を置くべきか。それとも逆に今まで通りの方がいいのか。付き合っていないことは事実だし、変に心配することもないはずだ。頭を悩ませながら寄りかかっているフェンスに頭を預けて目を瞑った。
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大きく鳴り響くチャイムの音に驚き、目を開ける。気付かないうちに眠っていたらしい。スマートフォンで時間を確認すると1限目の始まりだった。屋上を後にして教室に戻る。
もう辺りは静まり返っていて先生が授業を進めている声だけが聞こえる。ガラガラと音を立ててドアを開けると、一斉に視線が自分に集まる。
「瀬戸川遅いぞ。もう授業始まってる」
「すいません」
小さくそう言って自分の席に着く。先生が授業を進めだすと視線はやっと無くなった。教科書とノートを取り出し、そのまま机につっぷせる。先生がある程度のところまで書いたら書き始めよう。試験間近だからか、最近は授業中に喋るような生徒も減り、大分静かになった。先生は進めやすくてさぞ嬉しいだろうが、静かな空間に何時間も放り込まれるこちらの身としてはあまり好ましくない。うるさくても静かでも、どちらにせよ暇なことに変わりはないのだが。
いつも通りに授業を受けていると、やっと4限目まで終わった。疲れたというため息をつきながら自動販売機で飲み物を買いに行く。いちごオレを押し、ストローを挿して飲んでいると電話がなった。
「もしもし」
「もしもし。今日20時に〇〇前集合だって」
「おー、分かった」
返事をするとすぐに電話が切れた。どうやら今日遊ぶ予定の報告だったらしい。教室に戻り、鞄を持ってそのまま玄関に向かう。今日はなぜか凄く疲れたからもう帰ろう。
「瀬戸川くん?」
名前を呼ばれて振り返る。
「もう帰るの?」
「うん」
「今日も音楽室に来るかと思ったのに」
そう言って寂しそうな表情を浮かべているのは俺の好きな人だった。そんな表情をされたら期待してしまう。
「今日はいいや」
「体調でも悪いの?」
「なんか疲れた」
「何その理由!あと2限頑張りなさい」
「無理」
「もう。毎日勝手に帰るから職員室で話題になってるんだよ?」
「するだけ無駄って言っておいて」
「直す気ないのね。気を付けて帰るんだよ」
じゃあね、と手を振る先生に手を振り返して学校を後にした。
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アラーム音で目が覚める。家に帰ったあと約束の時間まで眠っていた。少し髪の毛を整えて1階に降りると母が夜ご飯を作っていた。
「ご飯食べる?」
「今から外出るからいい」
「そう。あんまりやんちゃしないようにね」
眉尻を下げながらそう言う母の言葉に小さく返事をしながら靴を履いて外に出た。約束の場所に行くと既に友人は来ていた。
「お、やっと来た。腹減ったからまず飯な」
「お前何がいい?」
そう聞かれて考える。
「なんでもいい」
「お好み焼き決定」
俺がなんでもいいと答えたらお好み焼きを食べに行くつもりだったらしい。お店までの道のりを数人で並んで歩く。
「いい加減彼女欲しいわ。こんな暑苦しい男と毎日一緒は頭おかしくなりそう」
「お前には無理だな」
「は?そんなこと言うお前だって無理だろ」
「この中でいけるの多分こいつ」
そう言って親友が俺を指差す。
「俺?」
「だって、お前は男から見てもかっこいい。芯があるし」
「別に彼女とか要らないんだけど」
「そういうところだよな。要らないって時点で俺らと格が違うもん」
彼女が欲しいと思ったことは1度もない。好きな人がいても、その好きな人が欲しいだけで彼女という存在が欲しい訳ではない。だから正直、自分のところに収まってくれるなら付き合ってなくてもいい。都合のいい関係でも問題ない。けど、両思いだったら当たり前に付き合う空気になるものだからこの考え方は少し難しいかもしれない。そんな話をしていたらお好み焼き屋に着いた。案内された席に座り、早速メニュー表を手に取る。
「何にしよっかなー」
「チーズ…ミックス…肉…」
メニュー表に目を通しながら悩んでいる友人。俺はいつも肉にするからわざわざ見る必要も無い。友人もしばらく悩んだ末決まったようで店員さんを呼び注文する。準備している間はまたくだらない話をしながら待った。店員さんが持ってきた生地を熱々の鉄板の上に広げてくれる。あとはそれを自分たちでひっくり返せばできあがる。
「めっちゃいい匂いしてきた」
「お前ひっくり返すのも切り分けるのも下手くそだな」
「うるせえ。はい、これ瀬戸川の」
「ありがと」
友人が気を利かせてお皿にお好み焼きを乗せて渡してくれる。それを受け取って先に食べさせてもらった。
「上手い?」
「うん」
「考えたら俺、瀬戸川がちゃんと笑ってんの見たことねぇんだけど。お前笑うの?」
言われてみれば大笑いをすることはない気がする。
「俺らといるの楽しくないの?」
「違うよ。こいつは誰といてもこんなん」
「どうやったら笑うの?」
「分かんない」
面白いと思うことはあるし、楽しいと思うことだってある。ただ、お腹を抱えて笑うことができない。理由は分からないけど、そこまでは届かないのだ。
「笑わないけど、みんなといるのは楽しいよ」
俺がそう言うと、みんなして目を大きく見開いてこっちを見る。言葉に詰まっているみたいで体も硬直していた。
「せ、瀬戸川がっ…」
「お前そんなこと言えるキャラなのかよ!」
「俺今恋に落ちたかもしれない…」
「無理」
「即答で振られてんじゃん」
そんなに驚かれるとは思っていなかった。普段どんな風に見られているのだろう。
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お好み焼きを食べ終わり、店を出る。
「コンビニ寄ろ。酒買う」
いつもお酒を買うときに行くコンビニ。ここは年齢確認をされないからお酒を用意するときに助かる。今日も問題なくお酒を購入し、いつもの溜まり場に向かう。地面に座り込むと友人がみんなにお酒を渡してくれる。
「はい、乾杯ー」
ゆるゆるな空気で乾杯をしてお酒を流し込む。
「なんかいつも同じこと繰り返してるから飽きたなー。刺激的なことねぇかな?」
「新しい薬手出す?」
「それもあり」
「瀬戸川もしろよー」
「…いい。逆に辞めてほしいんだけど。最近頻度増えてるだろ、お前ら」
「まあ少し?」
「気おかしくなるから辞めろって」
「辞められねぇんだよ…気持ちよくなるから」
まだ正常の方ではあるから今はいいが、後々が怖くなる。このまま続けていけばいつかは異常な状態になるだろう。
「最悪お前らと縁切るよ」
「そんな悲しいこと言うなよ!俺ら友達じゃん!」
「友達だからだろ。流石に薬は納得してない」
「いいんだよ、瀬戸川は瀬戸川で。やりたくないって思うのが普通じゃね?俺たちがそれで瀬戸川に迷惑かけたときは遠慮なく切れよ」
そう言ったのは俺の親友だった。親友だからこその発言に、親友だからこその胸の痛みが走る。つまり、そうなる可能性があっても薬は辞めないと言っているからだ。完全に依存してしまっているのだから、もう止めたところで…だろう。
「迷惑かけなければ済む話だけどな」
「そのうちポリに見つかって瀬戸川まで疑われるだろ」
「だから辞めろよ」
「でも、瀬戸川がやってないのは事実だし」
「一緒にいる時点でアウトなんだよ」
やはり何を言っても通じない友人に呆れて溜息が出てしまう。
「もうなんでもいいけど、ちゃんとどっかで区切りつけろよ」
投げやりにそう言って手に持っていたお酒を流し込む。なんとなくこいつらとの将来が目に見えてどこか心苦しくなった。きっと友情なんてそんなものだろうと。自分たちが思っているよりずっと薄っぺらいものなのだと。
「待って。あれ」
友人が指さした方向を見ればパトカーが1台目の前で止まった。
「だっる…」
「薬持ってる奴とかいないよな?」
「今日はしてないし持ってない」
ドアの閉まる音がして靴音が近付いてくる。
「やっぱりお前らか」
聞き慣れた声に頭を上げれば何度もお世話になっている警察官だった。
「三島さん!」
「ここにいるのはお前らだろうなって思ってたんだよ」
そう言いながら煙草に火をつける。
「1本頂戴」
そう言うとなんの躊躇いもなく箱を渡してくるので、1本引き抜いてライターで火をつけた。
「今日も飲んでんのか」
「飲まない日とかないよ、俺らは」
「元気だなー。ビールはねえの?」
「1缶残ってるよ」
「やっと飲めるようになったか!」
「なんで嬉しそうなんだよ」
三島さんは中学のときからやたらと世話になっている人で、そのおかげか親しくなって今ではまるで友人のようだった。
「パートナーいないの?」
「いる。だからお前らは署に連れて行きます」
「は!?無理無理、だるすぎ!」
「大丈夫だよ。後輩だから上手いこと言ってあるし、連れて行っても俺が相手だから」
「三島さん1人だったら見逃してもらえたのにー」
「流石にパートナーがいるとそうはいかんなぁ…」
「くそ」
「もう1台来るから、来たら乗れよ」
しばらく喋っていると三島さんのパートナーから場所を聞いたであろう別の警察官がパトカーでやってきた。
「よし、お前ら全員乗れ」
そう言われて嫌々パトカーに乗り込み、署に連れて行かれた。
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「よーし、じゃあ始めるぞー」
「テキトーじゃ駄目?」
「個人情報だけ教えてくれたら他はテキトーに言ってすぐ帰してやるから」
「はーい」
テキトーにやって怒られないのだろうかとは思うが、こちらとしては有難い。早速一人一人名前や生年月日、住所などいろいろな個人情報を伝える。何度目か分からないのでいちいち聞かなくても履歴に残っているとは思うが、必ず聞くようにはなっているらしい。
「ちょっと待っとけ」
やっと全員が個人情報を伝え終わると、そう言って三島さんが部屋の外に出る。
「家帰されるかな?」
「まだ18歳になってない瀬戸川と石山は帰されるかもな」
「帰ったらまた戻って来いよ」
「ダルいしそのまま寝る」
たまには早く寝るのもいいだろう。実際少し眠いし、寝っ転がってダラダラしたい気分ではあるからタイミングはいいかもしれない。
「お前らー、家まで送るから準備しろ」
「え、俺らも?」
「うん。家まで送り届けろって上から言われたから」
「ええー。俺らこのあとまだ遊ぶ予定だったのに」
「1回帰ってまた見つからないように集まればいいだろ」
「みんな帰されるのはだるいってー」
「ほら準備しろ。今日はそのまま帰せないから」
渋々椅子から立ち上がり、いかにもだるそうな雰囲気を漂わせているみんなと部屋を出て、再びパトカーに乗り込んだ。
「瀬戸川はちゃんと学校行ってんのか?」
運転席にいる三島さんがそう聞いてくる。
「うん」
「偉いな。なんか将来の夢でも決まってるのか?」
「ない。したいこともないし」
「お前も警察官になったらどうだ」
「は?無理でしょ」
「そんなことない。むしろお前みたいな警察官がいた方がお前らみたいな問題ばっか起こしてる子供たちの気持ちが汲み取れて救われる奴もいるだろ。瀬戸川は頭も良いし、行こうと思えば大学も行けるだろ」
警察官になることは一切考えたことがなかった。小さい頃ならそんな憧れを抱いたことはあった気がするが。
「俺は必要だと思うよ。正義だけの警察官はそりゃあ大事だけど、俺みたいに仕事放棄して悪ガキと戯れたり、ある程度のことは見逃すのも。どうしてもそこにしか逃げ場がない環境の奴だって沢山いるからな。俺たちは環境までは変えられないし」
三島さんはそういう考えだから俺たちのことを良くしてくれるのか。他の警察官は当然見つかったら面倒くさいことになるし、知ったような口を叩いてくる。三島さんだって、それ以外の仕事はしっかりこなしているから先輩から頼りにされて、後輩から慕われているのだろう。ただ、俺はそんな存在になれるのか、あまり自信はない。
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あの日から数ヶ月が過ぎて俺は高校を卒業した。今はアルバイトをしながら警察官になるという夢を叶えるために大学に通っている。今日は比較的涼しい気温で過ごしやすい。せっかくの休日なので少し気分転換をしようと外に出た。近くのカフェに入り、ブラックコーヒーとキッシュを1つ頼む。気分転換とはいえ、大学のレポートを終わらせないといけないので机の上にレポートを広げた。
「瀬戸川君…?」
しばらくレポートに集中していると頭上から名前を呼ばれる。
「え、先生」
顔を上げれば、そこには西本先生がいた。
「やっぱり瀬戸川君だよね!?久しぶり!元気だった?」
「はい、元気です」
「もう!なんで敬語になってるの?あんなにタメ口だったのに」
面白おかしく笑う西本先生。久しぶりだからか、どこか緊張して敬語になってしまう。いや、本来ならそれが正解なのだが。
「大学のレポート?」
「はい。期限が明後日だから、気分転換がてらに今日は外でしようかなって」
「そっかー。大学、頑張れてるんだね」
よかった、と安心したように微笑むその姿は何も変わっていなかった。
「先生は何してんの?」
「この近くに実家があって久しぶりに帰る予定なの。学生時代ここによく通ってたから久しぶりに寄ろうかなって」
自分の家と先生の実家がさほど離れていないということに少し驚く。大学に近いこともあってこの辺りのアパートで一人暮らしを始めたが、まさかこんな接点が生まれるとは。
「せっかくだから少し話そうよ。一緒にいい?」
「どうぞ」
先生は椅子を引いて俺の前に座った。注文していたブラックコーヒーとキッシュを持ってきた店員さんに新たにカフェラテとショートケーキを頼んだ。
「瀬戸川君ブラック飲めるの?大人だね」
「ブラックくらいは…」
「そっか。お酒もよく飲むし、苦いのは慣れてるのか」
「お酒とコーヒーの苦さは別物だと思いますけど」
「そうかな?私は苦いのは全部苦手」
「にがうりとピーマンは?」
「ピーマンは大丈夫だけど、にがうりは…」
「子供っすね」
「うるさい!私の方が歳上だよ!」
少し拗ねたような表情をするところも、苦いのは苦手だというところも、歳上なのに子供らしさを感じる。
「…あれ」
「ん?どうしたの?」
「あ、いや…」
前まで薬指にはめられていたキラキラ光る指輪が見当たらない。
「あー、指輪?」
「はい。前まではめてたのに」
「別れたの。だから捨てちゃった」
「えっ」
笑顔でそう言っているが、きっと傷は癒えていないだろう。4年間も付き合っていたのだ。そんな簡単に癒えるはずがない。ましてやあんなに幸せそうに話すほど好きだった相手なのだから。
「…なんで別れたんすか」
「すれ違うことが多くなっちゃって。私も相手も仕事が忙しくて離れてる距離にいるわけじゃないのに会えなくなってきて。喧嘩することが増えちゃったの。結婚もする気があるようには見えなかったし、お互い話し合った上で、ね」
「…やっぱり結婚とか考えるんすか」
「そりゃあねー。今じゃなくてもいつかは結婚したいよ。けど、その為にはやっぱり結婚を視野に入れてくれてる人じゃないと」
そう言って届いたカフェラテを口に運ぶ。
「瀬戸川君は大学でもモテモテなんじゃない?彼女とかできた?」
「できてないですよ。告白もされてないし」
「高校生のときはあんなに女の子から騒がれてたのに!」
「あれは多分俺を見て嫌な風に思ってる騒ぎですよ。悪口とか」
「…瀬戸川君は意外と鈍感なんだね」
ふーん、とまた1口カフェラテを口に運ぶ。
「考えてみたら瀬戸川君は女の子の気配感じたことないね」
「そりゃあ付き合ってなかったんで」
「いろんな子から告白されてたでしょ?」
「まあ…」
「付き合ってみようって思う子いなかったの?」
「…好きな人がいるのに他の人と付き合いますか?」
「え、好きな人いるの?」
鈍感なのはどちらだろうか。気付いてなさすぎて呆れてくる。
「告白は!?した!?」
「なんで楽しそうなんですか?」
「だって、瀬戸川君って全くそんな感じないから!ねぇ、したの?」
「…してないですよ」
「どうして?沢山の子からの気持ちをずっと断り続けるくらい好きなのに?」
「…好きな人にはちゃんと相手がいたし、叶うような人じゃなかったから」
「叶うような人じゃないってどういうこと?」
「…生徒と先生の恋愛って禁断ですよね?叶わないじゃないですか」
俺の言葉に口を大きく開けて驚く。やっと気付いただろうか。
「先生の中に好きな人がいたの!?」
前言撤回。心で葛藤して発した言葉を取り消したい。恥をかいただけな気がする。
「どう見たって分かりやすいでしょ…」
「全然分からなかった!誰!誰先生!?」
「…西本先生以外いると思いますか?逆に」
「えっ、、」
やっと意味を理解してくれたようでさっきよりもより一層間抜けな顔をして驚く。
「…俺、先生のこと1年のときから好きでしたよ。もちろん今も」
真っ直ぐ目を見てそう伝えると先生が分かりやすく慌てふためく。
「正直、別れたんだったら俺じゃ駄目かなって思ってるんですけど。もう生徒と先生の関係ではないし」
「それは…そう…だけど…。でも、私はまだ瀬戸川君を男性として見る心の準備ができてないっていうか…」
「心の準備は必要ないでしょ。生徒としてしか見てこなかったとしても俺はずっと男だし、相手がいなくなったなら躊躇する必要もないから俺はどんどんアピールしますよ」
耳まで赤くなっているのが分かるから少しだけ楽しくなる。今、初めて先生が自分を男として見ているのだと。
「私、瀬戸川君が思ってるほど大人な女性じゃないし、きっと思ってたのと違ったってなると思う」
「…まず大人な女性だと思ってないんですけど。むしろ子供っぽいところの方が多い」
「え!?おかしいな…大人な女性に見えてると思ってたんだけど…」
「そういうところが子供っぽいんじゃないですか?」
しまったというような顔をして下を向く。当然大人の女性を感じる瞬間はあるが、今までの姿を想像してもらったら分かる通り子供っぽい。
「…私のどこを好きになったの?」
「簡潔に言ったら俺を否定しないでいてくれるところですかね。今まで否定されるばかりの人生だったから。俺は俺のままでいいって、そう言ってもらえてる気がしました」
「…後悔、しないかな?」
「好きな人と付き合ったことで後悔する奴いるんですか?」
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あれから数年。あの後付き合うことになった俺たちは凄く平和に進んでいると、そう思っていた。
「私たちが付き合って3年経ったよ」
「もう3年か。早いな」
「…瀬戸川君、まだ私のこと好き?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「私は瀬戸川君のこと好きだよ」
「何、急に」
「…別れようか、私たち」
「…は?なんで?」
「…瀬戸川君のことが、全然分からない」
そう言って目に涙を溜めながら切なそうに微笑む君をどうすれば手放さずにいられただろうか。恥ずかしがらずに素直に好きだと、愛していると答えていたらまだ一緒にいられただろうか。さようならと背中を向けた君を引き止めて抱きしめられていたら…
「っ…、」
激しく鳴り響くアラーム音に突然現実の世界へと引き戻される。
午後13時。
「…また長い夢見たな」
END




