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婚約者には私より優先する従妹がいる。お望み通り幼馴染とお幸せに

作者: リーシャ
掲載日:2026/09/22

 婚約者には病弱な従妹がいる。定番みたいにそちらを優先して、蔑ろにされたこちら側。何度もこのままではいられないとミシャヘールは何度か注意したのだが、盲目的に言うばかり。


 多分、自分の行動に酔っているのだろう。こちらには全く関係ないけど。これは恋愛というわけではない。例えるのならば、二人で大きなテーマの課題を大人から出されてしまっていて、片方が課題を自分に押し付けてサボっているのだ。


 文句の一つや二つ余裕で言いたくもなる。恋だの愛だのと、勘違いされるままに振る舞ってしまい。

 訂正しない状態で相手へ負んぶに抱っこを許すから、相手は認識を変えずにこちらが惚れていると勘違いするのだ。


 我が婚約者もミシャヘールが自分を好いていると勘違いしたまま、押し付けたりするからどれだけ言っても嫉妬に変換されてしまうのは困った。

 何度も好きじゃない、好意はない、恋愛の相手てして見れないから違うと言い募っても、全て照れ隠しにされる。夢を見過ぎだ。婚約者を自分に恋する人形とでも思っているのかもしれない。


 そんなわけがないだろうとフォークを突き立てたいが、我慢して我慢して。辿り着いたのは幼馴染への恋が理由で発症した、鱗吐き病による男側のトラブルだった。


 いい加減にしろと思いつつ、しかたなく最後の面会として、見舞いに行った。この世界では未知の病だと言われている、鱗吐き病。

 正式名称も治し方も知っているけど、到底付き合う義理はなし。恋している相手が自分ではない時点で赤の他人以上でも何でもない彼へ付き添うのも嫌だというのに。


「来てくれたのか」


「まあ、はい」


 一応数日後までは正式な婚約者だから、義理のお世辞みたいなものだ。どんなに相手が嫌いでも縁を持った相手が病に倒れたとなれば一度は行くしかあるまい。カーテンが揺れる室内で青白い顔が項垂れる。


「君は来てくれるのに、彼女は来てくれないんだ。きっと僕のことを聞いて寝込んだんだ」


「はあ、そうですか」


 なんとも男にだけ都合の良い夢をみる。その割には病弱幼馴染は、本当の病になった彼へのお見舞いにも行かずに、嘘のように夜会などに出ていると友達経由で聞いている。


「この病は知られていないと、助からないと」


 彼が病になって嫁に行くのは無理と悟った浮気女が、鞍替えするために相手を見繕おうとしているのだろう。


「そうですか」


「ああ。それで、君と」


「私たちの婚約は白紙にされるので、今後ここへ来ることはありません」


「えっ、何を言うかと思えば」


 冗談だと思われたのか目を何度も瞬かせる相手。病になってしまった相手といつまでも婚約できる家は無いと思う。詰んでしまうではないか、貴族の未来が。


「見捨てるのか!?ゴホゴホっ」


 咳をし始めて汚らしいので離れた。サッと我が家のメイドも前に出る。不潔だと二人して元婚約者になる男に目を向けた。


「見捨てるのかという言葉は医学を持つ人に問いかけてみる言葉なのですが。私にできることもありそうにないですし」


 薄々病弱幼馴染は仮病だったのだと理解してしまったのだろう。彼女を長く見て来て、実際男本人が病になったことで差が浮き彫りになったと。

 彼は常に咳をしていて、誰かとまともに話す気力がなさそうだ。例の彼女とはいつも会話していたのだろう。


 ミシャヘールは何を話すかなんて知らないが、毎回どうでもいいことを語らってたのだろう。

 ご飯を食べていたとしたら、今の彼はまともにご飯を食べられないみたいだ。彼女は笑いながら食べていたとしたらあれはなんなんだと、疑うのも無理ない。


 婚約者を蔑ろにまでして看病した日々は、認めて仕舞えばなかったことになってしまう。それが嫌で、唯一あった自分との婚約関係が今になって惜しくなっただけのこと。

 殆ど取り零したのだろう、目が落ち窪んだ顔色は病弱そのもの。どこも見てない。叫んでいるこちらも。


「あなたの幼馴染に頼んでは?夜会に出るほど元気になったみたいじゃないですか。あなたのお見舞いを忘れるほど話しかけているとか。大変お元気そうでですよ」


「なっ……彼女は、たまたま来れないだけだ」


「発症して何ヶ月も経過しているのに?呼んだらすぐ来てくれた幼馴染なのに?」


「それは」


 何度も彼女へ手紙を送ったのかもしれない。来て欲しいと頼んで、断られて来たのだろう。闇雲に送っても、誰も見舞いに来てくれなかったのだ。元婚約者が最後に来る見舞い人になるなど、彼のやってきたことの薄っぺらさが浮き彫りになるというもの。


「今は、そ、そんなことはどうでもいい、じゃないかっ」


 鱗が吐かれて、ばさりとバケツに入れられる。誰も触りたがらなくて自分で入れているみたい。


「すでにこの家とうちの家の話し合いは終わって円満解消なのです」


「ぼ、僕は聞いてないぞっ。そんなの何かの間違いだ!」


 喉がやられているのにさらに叫ぶなんて元気ではないのかとふと思ったが、本人が盛り上がって勝手に叫んでいるだけ。


「あなたは貴族の爵位を持つわけではないんだから婚約の話し合いに参加するかどうかは、あなたの父親が決めることでしょ。病で寝てる息子を話し合いに参加させられるわけもないでしょうし」


 どこの世界に病で歩けもしないのに話し合いに同席させるというのだ。おまけに病が進行していて婚約どころでは無い。

 勝手にというが親心だ。今後もう会うことはないから最後の面会となる。様子をちょっと見に行くか、程度のものだったが予想より遥かに弱っていた。


 今までこちらをたくさん軽んじてはエスコートや茶会をサボタージュしてきたことを棚に上げて、見捨てるのかは逆に面白くもある。

 幼馴染が弱っていると聞けば、何を置いても駆けつけて行った過去を忘れたとは言わせない。

 睨みつけるように目を細めて首を傾げると、責められていると気付いたのかビクッと揺れる男。


「私たちはもう何の関係もないのです。怒鳴られる謂れはありません。弁えなさい」


 弁えろ、我慢してくれ、君は冷たい女なんだな、などと引き止めるたびに言われた言葉たちが頭に浮かぶ。


「だ、だから、婚約者じゃなくなったなんて聞いてない。知らなかったんだからまだ婚約者みたいなものだろうっ?」


 焦って次々縋る言葉を吐き出す、なんと醜い光景か。


「部屋から出られない人にどうやって仕事を任せられるんですか?私に全部やらせるから続けられるとでも?やりませんし、婚約はなくなったのでやる義理もないのですけどね」


「ち、がう」


 指摘すると喉に詰まったような否定が来る。大方図星を突き立てたみたい。彼の考える甘すぎる現実は、総じて貴族子息らしい思考だ。

 好きでもない相手のために身を粉にして働く気は毛頭ない。こちらが好意を持ってないことに、よもやまだ気付かないなんて。


「私があなたを好きだから、なんて言葉は聞く気がありません。ずっと好きでもない、嫉妬でもないと否定してきたんですから」


「は?僕のことを愛していると」


「口から出たこともない言葉を偽造するのはやめてください。名誉毀損で訴えます」


「は、な、なんで」


 鳥肌が全身に出そうだ。腕をさすって後ずさる姿に男は漸く嫌われている、気持ち悪がられていることをたった今になって知った顔を浮かべた。

 鱗の甘い香りが充満する部屋にはもう一秒も居たくない。ただの鱗なら気にならないが、男の口から出た鱗。嫌悪感でハンカチで口を覆う。


「それでは」


「嫌だ、ま、ま、待ってくれ!ゴホゴホ!」


 魚の鱗を吐き出し続ける光景を最後に扉は閉められた。


 馬車に乗ると静かに進み出す。やっと甘ったるい部屋から出られた。あそこにいると呪われそうだ。

 鱗吐きは想い人がいると発症して、両思いにならないと衰弱してしまうものだ。泡になることと重なる。

 見た感じ、彼の好きな人というのが蔑ろにされるきっかけになった、例の病弱幼馴染の女の子。


 その子は男を好きなのではなく、婚約者より優先されるのがよかったのだ。肝心のその子は元婚約者を好きなわけじゃない。

 仮に好きでも、死にかけてしまったらあっさり見捨てる。そういった噂をうちの父が流したので良縁は来ない。家族が婚約を壊したような卑怯な娘の家を許すわけがないのだ。


 案の定パーティに出たが、幼馴染の見舞いに行かないのかと聞かれて引き攣った顔を浮かべているらしい。友人から聞いた情報だし、信頼できる。


「次の婚約者はあなたなんだ」


 幼馴染の子を見やればニコッと笑う。


「よろしく」


「婚約者はいなかったの?」


「うん。四男だから後回し」


 友人の一人である彼が選ばれた。釣書を送ったら婚約者になったと説明されて目を丸くする。送ったことは知らされておらず初耳だ。

 一つ年下の彼はアーチェリー部に所属していて、魔力の扱いが上手い。大会に出て準優勝をしていたりとかなりの実力者だ。


「釣書を送るなんて大丈夫?私とキスできるの?」


 いつものように友人との距離で砕けた口調をしてしまう。


「できる。好きだったから」


「へ」


「気付かないんだから、君って人は」


 クスクスと楽しげに笑う。でも、婚約者がいたのだから目を向けることはできなかった。今言われてホッとする。


「でも、私は」


「男として見れないかもって?別にいい」


 彼は指を手に触れさせて、そうっとミシャヘールの手ごと包み込む。


「ゆっくり夫婦になっていけばいい。焦ることはない」


 ホワイトブルーの髪色と同じ瞳が、迷うミシャヘールの目を射抜く。不覚にもときめいたのは、友人の距離らしからぬ温度のせいだ。


 婚約してももう無関係なのに元婚約者が手紙を送って来たが、ぱたりと途絶えた。遂に書くこともできなくなったのかもしれないし、諦めたのかも。

 興味がなくて毎回適当な入れ物にしまっていたけれど、年末の大掃除に纏めて捨てることにしよう。

 病弱幼馴染の女は結局小さめの商人の妻に収まったと、女友達が伝えて来る。妻になれただけよかった、と感慨深くもなく浮かんだ。


「ねえ、もし私が病弱になったらどうする?」


「子供と毎日お見舞いに行く」


 まだ生まれていないのに居る前提の言葉にフッと頬が緩む。例え来なくとも構わなかったけれど、言ってくれることが大切なのだ。


「私も。シーグラスは……縁起が悪いから押し花にしようかな」


「今から作ろうよ」


「今から?」


 まだ婚約したばかりだけれど、こうしてミシャヘールのなんてことのない言葉を受け止めて、共に何かをしてくれる。


「思い出になるしね」


 彼は水が一雫落ちるように目尻を下げて、押し花に使う花を買いに行こうと腕を上げてエスコートの動作に入る。

 遠慮がちが無くなり、ほんの少しドキドキするようになった胸を知られまいか気になる心を込めて、腕を柔らかく通した。

最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。見舞いに来ないのは近付きたくないからです

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― 新着の感想 ―
蔑ろにしていた男が病になって目をそら親し真実が見えてくるパターンは新しいと思いました。 たぶん治癒することはこの男は無さそう。
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