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最終章 生きる理由

 戦争が終わって、五年。


 首都の最終防衛ラインが突破され、数日後には王国の勝利で幕を閉じた――はずの戦争は、いまだ燻っていた。


 魔導連合の首都は陥落し、政権は崩壊した。

 だが、部族ごとに自治してきた土地は、王国の旗を容易には受け入れない。


 各地で蜂起。

 小競り合い。

 報復。


 終戦は、紙の上だけの話だった。


 レオンは馬を止め、丘の上から村を見下ろす。


 煙が上がっている。


 嫌な煙だ。

 焼け落ちた家の匂いと、血の匂いが混ざった煙。


 俺は王国軍の斥候として巡回している――それが表向きの任務だ。

 だが、それだけじゃない。


 魔導研究所の地下書庫で見つけた、カルディアの最新研究資料。

 そこに記されていた禁忌魔法の仮説理論。


 魂位相転写コンティニュアイ


 魂を一度きりの現象ではなく、“流れ”として捉える理論。

 生命は断絶ではなく連続だという前提のもと、特定の魂を別の肉体へ転写する可能性を示唆していた。


 肉体も記憶も失われる。

 だが、性格や資質、魂の傾向は似通う。


 まだ実験段階。

 だが理論としては完成に近い――王国の魔法士はそう評していた。


 カルディアの最期。


 あの光。


 あれが、ただの死だったとは、どうしても思えなかった。


 だから俺は、信じることにした。


 彼女はどこかで、生きていると。


 軍を辞め、探しに出ようとした。

 だが英雄を手放すわけにはいかないと、軍の上層部は首を縦に振らなかった。


 その妥協が、今の立場だ。


 軍に籍を残したまま各地を巡察し、報告を行う。

 その代わり、単独行動の自由を得る。


「足手まといはいらない」


 交渉の席でそう言ったのは、建前だ。


 本当は――


 一人で探したかった。


 誰にも知られず。

 誰にも笑われず。


 カルディアがどこかで生きているかもしれない。

 その希望だけが、俺を五年間、生かしてきた。


 煙が濃くなる。


 辺境の村は、すぐに野盗の餌場になる。

 俺は馬腹を蹴った。


 村に入った瞬間、手遅れの匂いがした。


 倒れた家屋。

 焼け落ちた梁。

 飛び散った血。


 野盗の気配は、まだ新しい。


「……いるな」


 瓦礫の奥、物資を漁る影。


 五人。


 統率は甘い。

 刃の手入れも粗い。

 素人に毛が生えた程度。


 だが、村人にとっては十分すぎる脅威だ。


 俺は剣を抜いた。


 剣を収めるまで、そう時間はかからなかった。


 一人目は振り向いた瞬間に斬り伏せ、

 二人目は叫ぶ前に喉を断ち、

 三人目の斧を受け流して腹を裂く。


 最後の二人は逃げようとした。


 逃がさない。


 ここを“また戻ってこられる場所”にさせるわけにはいかない。


 剣を振るい終えたとき、村は静まり返っていた。


 風の音だけが耳に残る。


「……終わった」


 呟く。


 返事はない。


 だが、気配がある。


 倒れた井戸の陰。


 俺はゆっくりと歩み寄る。


「もう大丈夫だ」


 声を落とす。

 剣は鞘に戻す。


 瓦礫の向こうから、そっと顔が出る。


 四歳か、五歳。


 痩せている。

 だが、目は強い。


 その目を見た瞬間、胸が掴まれた。


 凛とした眼差し。

 涙で濡れているのに、折れていない芯。


 黒髪が風に揺れる。

 小さな身体。

 それでも立ち姿は、まっすぐだ。


 息が詰まる。


「……おにいさん」


 かすれた声。


「わるいひと、いなくなった?」


 その声音まで、似ている気がした。


「いなくなった」


 俺は膝をつき、目線を合わせる。


「もう、怖くない」


 少女は数秒、じっと俺を見つめる。


 観察するように。


 それから、ぺこりと頭を下げた。


「ありがとう、ございます」


 敬語。


 その瞬間、喉が震えた。


 ――どうか、生きてくださいね。


 あの日の声が蘇る。


「……家族は?」


 少女は首を横に振る。


 泣かない。

 ただ、握った拳だけが白い。


 俺は手を伸ばす。


 迷う。


 ただ似ているだけかもしれない。

 思い込みかもしれない。


 それでも。


「……ひとりか」


 少女は小さくうなずく。


 その仕草が、あまりにも。


 もう耐えられなかった。


 そっと、抱きしめる。


 一瞬、身体が強張る。


 だが、拒まない。


 細い身体。

 温かい。


 確かに、生きている。


 涙が落ちる。


 今度は、止めない。


挿絵(By みてみん)


「……やっと、見つけたのかもしれない」


 少女は戸惑いながらも、俺の外套を握る。


「……おにいさん、泣いてる?」


「ちょっとな」


 情けない声で笑う。


「助けてくれて、ありがとう」


 まっすぐな目。


 その奥に、懐かしい光を見る。


 記憶はない。

 彼女はカルディアではない。


 それでも――


 彼女の中のにあった何かは、この少女のなかで確かに息づいている気がする。


 生命は、途切れていない。


 俺は少女を抱いたまま、空を見上げる。


 五年前と同じ朝日。


 今度は、奪わせない。


 守る。


 何があっても。


「……今度こそ」


 少女の髪に額を押し当てる。


「離さない」


 少女は小さく息を吐き、俺の胸に身を預けた。


 風が吹く。


 焼け跡の匂いが、少しだけ薄れる。


 戦争はまだ終わらない。

 内戦も続く。


 それでも。


 この腕の中の命だけは、守り抜く。


 それが――俺の、生きる理由だ。


 朝日が、静かに村を照らしていた。

以上で、ふたりの物語はおしまいです。

アンパンマンに登場する、しょくぱんまんとドキンちゃんから着想を得て始まった、敵同士の恋愛という私の妄想劇でしたが、なんとか物語の形にまとめることができて一安心です。


趣味として始めた執筆活動で、中編作品としてはこれが二作目の投稿になるんですが、どちらも悲恋展開というワンパターンぶりです。

命を投げ出してでも大切な人を守りたいという行動に現れる想いーーそういうものが、私は大好きなんだと思います。

基本的にはハッピーエンドが好きなので、これからはそういう方向の物語も作ってみたいと思っています。


ここまで物語を読んでくださった方、また、後書きまで目を通していただいた方、本当にありがとうございました。

大変稚拙な作品ではありますが、感想などのコメントをいただけますと非常にありがたいです。

そして、次のお話でもお会いできましたら幸いです。

それでは、また。

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