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第40話 竜王請願賽 第3の試練 獅堂 疫魔(2)

 勇人は、一本の刀を構えたまま、静かに呼吸を整えていた。


 その視線の先――


 獅堂疫魔の周囲に、異変が起きる。


 ふわり。


 ふわり。


 灰色の空気を裂いて、蛾が集まり始めた。


 いや、蛾というには――あまりにも巨大だ。


 羽を広げれば一匹で一メートル近い。


 それが――百匹。


 ざわ……と、観客席がざわめく。



 疫魔は、それらを見上げ、

 まるで可愛いペットを見るかのように、柔らかな声で語りかけた。


「……ふふ……

 みんな……お願いね……


 全部……食べちゃ……だめだよ……

 残して……おいてね……」


(何言ってんの!?)

 

 勇人の脳裏を、嫌な予感が駆け抜ける。


 疫魔は、もじもじと指を組みながら、勇人を見た。


「……こ、この子……た、たちが……

 あ、あいて……するから……」


 男性慣れしていないのか、声は震えている。


「……なるべく……

 痛く……しないように……

 食べて……くれると……思うよ……

 わ、わたしも……解剖……し、したいし……」


(えええええ!?この蛾、肉食なの!?)


 その瞬間。


 蛾の群れが、一斉に舞い上がった。


 空中で整列――


 一列縦隊。


 次の瞬間、急降下。



「――っ!!」

 勇人は、間一髪で転がるように回避する。


 風圧が、皮膚を裂く。


 だが――


 蛾たちは、再び上空へ。


 今度は、二列に分かれた。


「っ……まずい……!」


 時間差攻撃。


 一列目を避ける。


 先頭の一匹を、刀で叩き落とす。



 だが――

 

 列は崩れない。


 その直後。

 背後から、二列目。


「――ぐはっ!!」

 衝撃。


 勇人は地面に叩きつけられた。


 観客席がどよめく。


 勇人は歯を食いしばり、立ち上がる。


 だが――身体が、震え始めていた。


「……これは……」


 疫魔が、少し申し訳なさそうに告げる。


「……そ、そう……毒……

 でも……死ぬほどでは……ない……と……思う……」


 一拍。


「……**巍殺羅蛾ぎやらが**の……毒は……」



 観客席。


 エリンが、青ざめて立ち上がる。


巍殺羅蛾ぎやらが!?

 そ、そんな……遥か昔に絶滅したはずよ!!」


「えっ……ギャ……?」

 ニーヴが首を傾げる。


「わーーーーーー!!

 カタカナに直さないで!!いい!!」

 エリン、必死。


「う、うん……よくわからないけど……」


 


 ――地下ドーム。


 雷鳴の余韻と毒の気配が、まだ空気に溶け残っている。


「……そ、そうか」

 勇人は、ゆっくりと立ち上がった。


 震えは、まだ完全には消えていない。だが、眼だけは――澄んでいた。


 彼は一本の“刀”――


 **聖剣《雷神》**を、両手で握りしめる。


 しばし、見つめる。


「……俺はな」

 低く、しかしはっきりとした声。


「誰かに助けを頼んだことがない。

 弱いって思われるのが、嫌だったからだ」


 一拍。


「……でも、今は違う。

 頼む。力を貸してくれ」


 その瞬間だった。



 ――カッ。


 聖剣《雷神》が、内側から光を放った。


 淡い白光ではない。雷そのものの色だ。


「こ、これは……!!」

 勇人の目が見開かれる。


 解説席で、理事長・竜崎麗香が、愉快そうに口角を上げた。

「……ほう」


 葵は、思わず身を乗り出す。

「まさか……!

 本当に、聖剣が……選んだのか!?」


 観客席が、ざわ……ざわ……と波打つ。


 疑念が、期待へ。


 期待が、熱狂へ。


 勇人は、一歩踏み出した。



 ――縦一閃。


 空を裂くような動き。


 次の瞬間。


 ドォン!!


 雷鳴。


 雷光。


 天井にまで反響する轟音とともに、

 光の刃が、蛾の群れを呑み込んだ。


 真っ二つ。


 断ち裂かれた巍殺羅蛾たちは、火に包まれ、

 ゆっくり、ゆっくりと、灰になりながら落ちていく。


 まるで――


 処刑だ。


 勇人は、剣先を下げない。


 そのまま、獅堂疫魔へ向ける。


「……まだ、やるのか?」


 疫魔は、一歩、後ずさった。


「……こ、降参……で、できるの……?」


 勇人は、視線を解説席へ向ける。


「……どうなんだ。戦意のない相手に、まだやるのか?」


 理事長は、くくっと笑った。


「まあ、いいだろう。」


 一拍。



「……ご、ごめんなさい……」


 疫魔は、しゅんと肩を落とし、

 鉄兜を外し、ガスマスクを外した。


 現れたのは――



 青髪ショート。


 ボーイッシュで可憐な顔立ち。


 そして――


 勇人を見る目は、完全にとろんとしている。


「あ……姉から……勇人くんのこと……聞いて……

 ……会いたくて……」


 顔を真っ赤にして、俯く。



 勇人の背筋に、嫌な予感が走る。


「……姉?」


 疫魔――いや、少女は、もじもじと名乗った。


「……い、医術の悪魔……

 ペスティア・アルミケラ……で、です……」



(やっぱりーーーーーーーー!!)


 ――その瞬間。


 司会の声が、運動場全体に叩きつけられた。


「――勝者ぁぁぁ!!

 戸川勇人ーーーーーーーー!!」


 ドームが、揺れる。


 歓声。


 怒号。


 喝采。


 そして、理事長の低い独白が、解説席で響いた。


「……なるほど。

 剣に選ばれ、

 悪魔に惚れられ、

 運命に追われる男か」



 竜王請願賽――終了。


☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。



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