第36話 竜王請願賽 第2の試練 極楽鳥(1)
休む間もなく――
次の闘技者が現れる。
運動場の中央に立つ勇人の肩は、上下にすら動いていなかった。
息も乱れず、汗もない。
まるで――
最初から、ここに立つ運命だったかのように。
司会の声が、再び地下運動場を震わせる。
「――二人目の審議官!!
一年生・学年主任!!」
一瞬の“間”。
「竜王学園・**三凶死**の一角――
極楽鳥先生!!」
その瞬間――
バサァァァァッ!!
突風。
観客が、思わず空を仰ぐ。
ドーム型天井、その最上部――
光の中から、一つの影が舞い降りてくる。
優雅に。
美しく。
残酷なほど、ゆっくりと。
それは――鳥人。
色とりどりの翼を広げ、旋回し、音もなく着地する。
「……極楽鳥先生だ……」
「なんて……綺麗……」
紫のボブカット。
端正な顔立ち。
人間体でありながら、背には宝石のような翼。
脚は、猛禽を思わせる鳥の足。
シックなパンツスーツが、その異形をより知的に、より危険に見せていた。
「私の名は――極楽鳥」
澄んだ声。
しかし、その瞳は獲物を見るそれだ。
「あなた……」
勇人を値踏みするように眺め、
「いいわね。気に入ったわ」
口角が、ゆっくりと上がる。
「……殺すのが惜しいわ」
勇人は、短く答えた。
「……そうか」
余計な言葉は、ない。
極楽鳥は楽しそうに笑う。
「もし、生きていたら……」
翼をすぼめ、
「写真部に入れてあげる」
――地獄丸と同じ台詞。
だが、意味するところは、まるで違う。
二人は、静かに睨み合う。
極楽鳥は、腰の後ろから――
双剣を抜く。
細く、長く、空を切るためだけに存在する刃。
対する勇人は――
再び、手刀のみ。
司会が、解説席にマイクを向けた。
「理事長!
この勝負、どうなると思いますか!?」
麗香は腕を組み、興味深そうに言う。
「うむ……
極楽鳥先生の空中殺法が、どう出るかだな」
司会が頷く。
「そうですね……
人間は、基本的に飛べませんが……」
その瞬間。
「――いえ」
なぜか当然のように、葵が口を挟む。
「我が夫なら、大丈夫です」
観客席、一瞬の沈黙。
「……夫?」
「今、夫って言った?」
理事長が、にやり。
「ほう?」
だが――
観客席の一角。
翠の額に、ピキッと血管が浮かんだ。
「……龍神のやつ……」
低く、地を這うような声。
「後で、シメるからな……
覚えとけよ……」
完全に、殺意。
――その頃、運動場。
「――ではぁぁ!!
はじめッ!!」
司会の叫びが響いた瞬間――
キィン!!
極楽鳥が、地を蹴った。
双剣が、光を引いて勇人に迫る。
上段。
下段。
斜め。
空と地を繋ぐ、流れるような連撃。
だが――
「……遅い」
勇人は、半歩ずらすだけでそれを躱し、次の瞬間、手刀で剣の腹を叩き落とす。
ガキィン!!
双剣が、土に突き刺さる。
極楽鳥が、目を細めた。
「……ふん」
口角が、わずかに上がる。
「地獄丸先生を倒したのは……
マグレじゃなさそうね」
次の瞬間。
「――これでも、喰らいなさい!!」
極楽鳥は、両腕を縮め――翼を、全開に広げた。
バサァァァァッ!!
光を受け、虹色に輝く翼。
そこから――
無数の羽根。
一枚一枚が、刃。
一枚一枚が、凶器。
手裏剣の嵐となって、勇人に襲いかかる。
「――むっ!」
勇人は、大きく横に跳ぶ。
ドン!!
紙一重。
だが――
ズブッ。
ズブズブッ。
数枚の羽根が、身体に突き刺さる。
肩。
脇腹。
太腿。
「…………」
勇人は、呻かない。
そこへ――
ヒュッ!!
極楽鳥の蹴り。
空中からの、鋭い一撃。
「――っ!」
躱し切れず、頬が裂け、朱に染まる。
極楽鳥は、愉しそうに笑った。
「……ふっ」
「これも躱すのね」
目を細める。
「初めてよ」
勇人の膝が――がくりと落ちる。
手が、震え始める。
「……そろそろ、効く頃だわ」
極楽鳥は、爪を見せる。
「極楽毒翼爪」
「爪と翼に仕込んであるの」
くすり、と笑う。
「……もう少ししたら、目が見えなくなるわ」
――その時。
観客席の一角。
エリンが、立ち上がった。
「……そんな……」
声が、震える。
「極楽毒翼爪……実在したの!?」
☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。
評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。




