第34話 竜王請願賽 第1の試練 地獄丸(1)
次の日。
天を衝くかのごとき巨大なドーム型天井――
その内壁という内壁に、眩い照明が一斉に灯される。
ゴォォォォ……ン……!!
低く、腹の底を揺さぶるような共鳴音。
観客席はすでに――全校生徒で埋め尽くされていた。
いや、正確には「生徒だけ」ではない。
授業? そんなものは、とうの昔に放棄された。
竜王学園のあらゆる種族、あらゆる派閥、あらゆる好事家が、この瞬間を待っていたのだ。
「すげえ……マジで伝説だぜ……」
「人間だろ? まあ、すぐ死んで終わりだ」
「いや、精霊王の加護持ちって話も……」
「関係ねえよ。ここは地下運動場だ」
ざわ……
ざわざわざわ……!!
ここは――
竜王学園地下深層部・巨大ドーム型グラウンド。
分厚い岩盤をくり抜いて造られた、土敷きの運動空間。
正式名称――地下運動場。
血と誇りと、時に命すら飲み込む場所。
その中央に、スポットライトが落ちる。
現れたのは、スーツ姿の猫獣人の女性司会。
長い尻尾を揺らし、マイクを掲げた。
「――では、只今より!
竜王請願賽を開始いたします!!」
ドワァァァン!!
観客席が揺れる。
「その前に――」
司会は一拍置き、
「理事長より、ご挨拶をいただきます」
――次の瞬間。
ズドォォォォン!!
解説席が爆ぜるように開き、
そこに立ったのは――
「――私が!!」
ロリータドレスに金髪縦ロール。
見た目は小学生、しかし放つ覇気は竜王級。
「竜王学園・理事長!!
竜崎 麗香だ!!」
ドォォォォン!!
ゴォォォォォ!!
なぜか背後で雷鳴。
なぜか観客の数名が気絶。
「以上!!」
――沈黙。
あまりにも短い。
あまりにも濃い。
だが司会は、スルーで即座に進行を再開した。
「では、ルールを説明いたします!」
空気を切り裂く声。
「請願者は、この運動場にて――
三人の選ばれし審議者と戦い、すべてに勝利すれば願いが聞き届けられます!」
「時間無制限!
生死は問わず!
勝敗は――相手が動けなくなるまで!!」
観客席、どよめき。
「なお、請願者の棄権・試合放棄は――
一切、認められません!!」
ズシン……と重たい沈黙。
「解説は、理事長・竜崎麗香様と!
生徒会長・龍神様でお送りします!」
理事長はすでに満足そうに腕組み。
龍神は、腕を組んだまま一言も発さない。
「では――
請願者、入場!!」
ゴォォォン!!
入場口が開く。
現れたのは――
学校指定ジャージ姿の少年。
――勇人。
一歩。
また一歩。
土を踏みしめるたび、心臓が軋む。
見渡せば、ドーム級の観客席。
しかも明らかに生徒じゃない人外も混じっている。
(……四万五千人くらい、いるよな……)
喉が引きつる。
(逃げちゃだめだ……逃げちゃだめだ……)
どこかで聞いたようなフレーズが、脳内を木霊する。
(今なら、君の気持ちがわかる……)
視界がチカチカする。
泡を吹きそうになる、その瞬間。
『まあ、試合が始まる前に変わってやる。安心しろ』
頭の中で響く、オーブの声。
「……ほんと、君だけが頼りだから」
誰に聞かせるでもなく、勇人は呟いた。
そして――
運動場の中心に立つ。
司会の声が響く。
「――では!
一人目の審議者、登場!!」
入場口から、ゆっくりと人影が現れる。
近づくにつれ、異様な気配が膨れ上がる。
中央に立ったその男は――
坊主頭。
額には、焼き付けたような戒疤。
ノースリーブから覗く、岩のような筋骨隆々の肉体。
そして――額には、堂々と刻まれた一文字。
『漢』
手には、年季の入った棍。
勇人の前に、仁王立ちで立ち塞がる。
司会が叫ぶ。
「一人目の審議者!
請願者の担任にして、三年生学年主任!」
「竜王学園・**三凶死**の一角――
地獄丸先生!!」
――静寂。
(……え?)
勇人の思考が止まる。
(この人……先生!?
しかも……担任!?)
観客席が一斉にざわつく。
「うそだろ……」
「初手・三凶死!?」
「もう死ぬの確定じゃん……」
解説席で、龍神が低く言った。
「……いきなり三凶死とは。
少々、ハードルが高すぎませんか、理事長」
すると麗香は、愉快そうに笑った。
「竜王請願賽だからな」
一拍置き、
「しかも――先生本人からの申し出だ」
そして、にやり。
「生徒愛が、強いのだ」
地獄丸が、棍を地面に突き立てる。
ズン!!
「……来い、小僧」
低く、重い声。
「“漢”の道を――
骨の髄まで、叩き込んでやる」
地獄丸は、棍を肩に担いだまま、じっと勇人を見下ろしていた。
その口元が、ゆっくりと吊り上がる。
「……よくぞ、うちのクラスから出てきた」
低く、しかしどこか誇らしげな声。
「お前のことは覚えておこう。
死を恐れぬ“漢”が、確かにここにいたとな」
勇人の背筋を、冷たいものが走る。
「……もし、生きていたらだが」
地獄丸は、なぜかやけに爽やかな目で続けた。
「お前を……演劇部に入れてやるぞ」
一拍。
「……生きていられたらな」
「ふふっ」
(えっ……?)
勇人の内心は完全に混乱していた。
(な、なんで笑ってるの……?
ていうか先生だよね!?
これ……完全に殺る気じゃない!?
見逃すとか……教育的配慮とか……ないの!?)
その瞬間――
『――選手交代だ』
脳内に響く、オーブの声。
次の瞬間、勇人の雰囲気が一変した。
立ち姿が変わる。
呼吸が静まり、視線が澄み切る。
「…………」
もはや、先ほどまでの一般高校生の気配はない。
地獄丸は、その変化を敏感に感じ取った。
「……ほう」
棍を軽く回しながら、口角を上げる。
「死ぬ前に、なにか言い残すことはあるか?」
その問いに、勇人――いや、“中の何か”は、落ち着いた目で応じた。
「ああ。そうだな」
一瞬、間を置き。
「あんた……オーガなのか?」
「……なに?」
次の瞬間、地獄丸はフンと鼻を鳴らし、自分の耳を指さした。
「よく見ろ。この耳を!!」
――ズン!!
照明が強調する。
長い耳。明らかに人間ではない。
「……信じられねえな」
勇人は淡々と言った。
「エルフなのか!!」
「ふん!」
地獄丸は胸を張る。
「私の国では、みんなこうだ!!」
――ドォォォン!!
なぜか背後に雷撃エフェクト。
だが次の瞬間――
観客席の一角、エルフの集団が一斉に立ち上がった。
「んなわけないでしょ!!」
「どこの国よそれ!!」
「エルフを何だと思ってるの!?」
ブーイングの嵐。
地獄丸は、それを一瞥すると、肩をすくめた。
「……まあ、あいつらはな」
鼻で笑う。
「坊っちゃん、嬢ちゃんだからな」
そして、棍を構え直す。
「戯言はいい」
足を踏み出し、地を踏み鳴らす。
「――始めようか」
次の瞬間。
ゴォォォン!!
運動場全体に、殺気が叩きつけられた。
こうして――
勇人 VS 地獄丸。
竜王学園地下運動場にて、
教育者という名の“修羅”と、人間という名の“異物”の――
血と漢の戦いが、今、幕を開けた。
☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。
評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。




