第33話 魁!! 竜王学園(2)
生徒会室――
凍りついた空気を、さらに凍結させるかのように。
バァァァン!!
扉が、常識ごと吹き飛ばす勢いで開いた。
そこに立っていたのは――
金髪・縦巻きロール。
純白のロリータドレス。
身長はどう見ても小学生。
しかし――
その存在感は、竜王学園そのものを背負っていた。
「――私が!!
竜王学園・理事長!!
竜崎 麗香だ!!」
ドォォォォン!!
雷鳴と共に、背後に謎の筆文字エフェクトが浮かび上がる。
『理・事・長』
「り、理事長ぉぉぉぉ!?」
生徒会役員一同、全員が直立不動。
もはや敬礼の角度が軍隊レベルである。
(え? 小学生?
いや違う……威圧感が完全に理事長どころじゃない!!)
勇人は、思考停止した。
「話はすべて聞かせてもらった」
麗香は、ドレスの裾を翻し、重々しく玉座――ではなく会議用椅子に腰掛ける。
「確かに、皆の言い分はもっともだ
信任なき副会長など――
統治なき王と同じ」
「み、みんなの信任なくしては、運営が……」
書記がうなずく。
「では!!」
葵が一歩前に出る。
「どうすればよいのですか!?」
その瞬間。
麗香の瞳が、ギラリと光った。
「――竜王請願賽で決める!!」
ズガァァァン!!
生徒会室に、なぜか銅鑼の音が鳴り響いた。
「なっ……!!」
「請願賽……!?」
ざわ……ざわ……。
「もう……10年以上、行われていないはず……」
「伝説の……あの幻の……!!」
「い、いいんですか!?
あれは……死ぬかもしれないって……」
誰かが、恐る恐る言う。
すると――
「ふん」
麗香は鼻で笑った。
「漢なら死ねい!!」
全員「!?」
「漢なら、死んでしまうなどと思うな!!」
ドン!!
なぜか背後に巨大な漢字。
『覚悟』
(勇人)
(……え?ここ……男塾??
いや、江田島平八ポジじゃない!?この人!!)
だが、勇人の意思と人権は、この世界ではすでに概念扱いだった。
「ふっ……仕方ありませんね」
そう言って、葵は不敵に笑う。
「私の伴侶ならば、
むしろ――武者震いしているでしょう」
(勇人)
(えーーーーーーーーーーー!!
君もそっち側!? いや……知ってたけど!!)
「請願賽なら……まあ、仕方ないですね」
「生きていたら、認めましょう」
「過去80年、これを達成した者はいないはず……」
「聞いてます…… 挑んだ者は全員、死んだと」
(勇人)
(前提がひどすぎる!!誰も生存を期待してない!!)
「それなら、副会長としては納得ですな」
「うん、公平です」
――全員、
勇人が死ぬ前提で話を進めている。
その時。
「……いや」
麗香が、ゆっくりと立ち上がった。
「――たった一人だけ これを達成した者がいる」
「!!」
「初代生徒会長だ」
ざわ……。
「ええ……伝説ですね……」
葵は、遠い目をする。
「血に染まった校庭を、
ただ一人で歩き抜けたと……」
(勇人)
(なにそれ!! 学園じゃない!!修羅場!!)
「――しかしだ」
麗香は、ニヤリと笑った。
ズン!!
「この試練、必ずや――乗り越えると信じておる」
そう言って。
ぽん。
葵が、勇人の肩に手を置く。
「……な?」
と、満面の信頼スマイル。
(勇人)
(えーーーーーーーーーーーーーーー!!
なんで!!どうして!!僕なの!!)
こうして――
竜王学園史上最狂の儀式、
竜王請願賽が、 今、復活しようとしていた。
理事長室――重厚な扉の向こうは、学園の権威を象徴するはずの空間……なのだが。
ふかふかのソファに腰掛け、優雅に紅茶を嗜んでいるのは、竜崎麗香。
もっとも、その名から連想されるお蝶夫人の面影は一切ない。
同姓同名の別人で、 外見はどう見ても小学生背丈。
金髪の縦巻きロールを揺らし、フリルたっぷりのロリータドレスに身を包んだ理事長だった。
その正面に立つのは、竜王学園の制服に身を包んだ翠。
彼女は腕を組み、眉をひそめていた。
「……なんで、勇人を竜王請願賽に出すんじゃ」
言葉遣いは、かつて“酋長”と呼ばれていた頃のものに戻っている。
「まあ、成り行きさ」
麗香はカップを置き、くすりと笑った。
「でもね、彼には期待してるんだ。もしかしたら――この学園を変えられるかもしれない」
竜王学園・高等部。
人外の名家の子女が“人間として”学ぶための特別な学園。
人間が入学した例は、これまでほんの数えるほどしかない。
あまりに高すぎる運動能力ゆえ、悪目立ちを防ぐため運動部は存在せず。
生徒の男女比は女子が七割。
そして現在、学園内には三つの勢力が存在していた。
生徒会を中心とした、ドラニュートのグループ――四十名。
文化部・帰宅部を拠点とする、武闘派エルフのグループ――五十名。
文化部を中心とした最大派閥、獣人・妖狐のグループ――百十名。
学園の“テッペン”を取るため、彼女たちは水面下で静かな争いを続けている。
「人間の彼なら、変えられるかもしれない。しかも――精霊王の加護持ちだぞ?」
「私と勇人は、どのグループにも属さん」
翠はきっぱりと言い切った。
「もちろん、エルフにもじゃ!」
「もう、生徒会に取り込まれかけてるじゃないか」
理事長は肩をすくめる。
「だから、やめさせてほしいんじゃ。これ以上、争いはしたくない」
その言葉に、麗香は目を細めた。
「お前……ずいぶん日和ったじゃないか。
“キル・ゼム・オール”、皆殺しのオーラと恐れられたお前は、どこに行った?」
「……もう、昔の話じゃよ」
翠はそう呟き、遠くを見るような瞳をした。
かつての血と炎の日々を、もう振り返るつもりはない――そんな静かな決意を宿して。
――その頃。
生徒会室には、葵と勇人の二人きり。
放課後の静寂が、やけに気まずい沈黙を作り出していた。
「いいか、勇人」
葵は腕を組み、いつになく真剣な表情で切り出す。
普段のクールな生徒会会長の顔だ。
「竜王請願賽には、三つの試練がある。まあ、平たく言えば――全部、戦って勝てばいい」
さらっと物騒なことを言い切る。
「お前ならできる。むしろ、問題ない」
「そ、そうなんだ……」
勇人は曖昧にうなずく。
(いや、問題しか聞こえないんだけど……)
「で、だ」
葵は急に視線を泳がせた。
「請願する“内容”なんだが……」
一拍。
二拍。
「……生徒副会長にする、ってのも……いいが……」
声が目に見えて小さくなる。
「わ、私と……ほら、その……」
葵は拳を握りしめ、意を決したように顔を真っ赤にする。
「い、一緒に暮らす……とか……に、しようかと……」
「…………え?」
「ほ、ほら!」
勢いで机を叩く。
「もう生徒会のみんなには……将来を誓い合った、とか……言っちゃったし……」
(勇人:いや待って。
僕の意思、どこ?
議事録にも載ってないよね?)
「う、うん……どうだろうな……」
勇人が言葉を選んでいると、葵のテンションが一気に下がる。
「……やっぱり、副会長って言い切っちゃったし……」
視線は床。
「い、今から変えるなら……請願自体……やめたほうが……」
その目は完全に「やめたい」と訴えていた。
「だ、だよな!」
勇人がフォローに入ろうとすると、なぜか葵は別方向に解釈する。
「私たち、高校卒業したら……一緒に住むんだもんな……」
うんうんと一人で納得し始める。
「今は……この関係を楽しむほうが、いいよな……」
(勇人:あ、あれ?
なんで未来が確定してるの……?)
「そ、それでさ」
話題を強引に戻す勇人。
「その、竜王請願賽って……いつなの?」
「うん」
葵は何でもないことのように言った。
「明日。もう会場は押さえてあるから」
「――――――――――――えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
勇人の絶叫が、生徒会室いっぱいに木霊した。
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