第30話 決着
「……そうか」
勇人は、わずかに目を伏せる。
「なら――こちらも、それに応えよう」
その瞬間。
勇人の体が、赤く――妖しく発光した。
――魔法防御殻、起動。
無機質な音声とともに、
勇人の周囲に、真紅の装甲が展開されていく。
それは――
昆虫の外骨格を思わせる異形。
人の眼を模した複眼が並び、
口はなく、
背には――六本の昆虫型触手。
“人”を捨てた防御形態。
「……こういうのが、いいんだろ」
その姿を見た瞬間。
葵の胸が、ぞくりと震えた。
「ああ……最高だね……」
顔が、恍惚と歪む。
恐怖と快楽が混ざり合い、理性が溶けていく。
「――行くぞッ!!」
葵は地を蹴った。
剣閃。
――ガキンッ!!
鈍い衝撃音が、森を裂く。
しかし。
勇人の外骨格には――傷一つ、ない。
「……そんなものか」
淡々とした一言。
「くっ……!」
葵の歯が軋む。
「ぐおおおおおおおお!!」
その目が、金色に輝いた。
――バーサーカーモード。
理性を焼き切り、力だけを解放する最終形態。
雷鳴が轟く。
大地が、悲鳴を上げる。
渾身の一撃。
衝撃波で、周囲の木々が吹き飛び、
破片が空に舞う。
「――取ったぁぁぁ!!」
確かな手応え。
確信。
だが。
立ち込める煙の中。
剣先に触れていたものは――
無傷の、外骨格。
「……それで、終わりなのか」
勇人は、両手を静かに掲げる。
葵に向けて。
――キャノン形態。
光が、集束する。
圧倒的な“死”の気配。
(……ああ)
葵は、理解した。
(終わりだ……)
逃げることも、抗うことも、できない。
光弾が放たれる。
白に包まれ、
葵の意識は――闇へと沈んだ。
「……っ」
葵が目を覚ました時。
「……私、生きてる……?」
視界に映ったのは――
外骨格を解除し、元の姿に戻った勇人だった。
「なんで……」
呆然と呟く葵に、勇人は背を向けたまま言う。
「勘違いするな」
冷たい声。
「俺はな……お前に止めをさすつもりだった」
ぴくりと、葵の肩が揺れる。
「それを――“本体”が止めた」
振り返らず、続ける。
「敵対するなら、また出てくる。
……その時は、次はない」
そう言った瞬間。
勇人の雰囲気が、ふっと変わった。
張り詰めた殺気が消え、
代わりに、いつもの――“彼”が戻ってくる。
「……もう、いい?」
振り返り、困ったように笑う。
「さすがにさ。葵ちゃんを殺せないよ」
手を差し出す。
「一緒に……帰ろう?」
「……っ」
次の瞬間。
「う、う、わーーーーーーん!!」
葵は泣き崩れ、勇人の胸に抱きついた。
「わ、わたし……騎士で……ドラゴニュートで……
それで……それしか、生き方知らなくて……!」
嗚咽。
押し殺してきた感情が、溢れ出す。
「……うぐっ……うぐっ……」
勇人は、何も言わず――
ただ、優しく抱きしめた。
「うん……うん」
背中を撫でながら。
「……ずっと、気を張って大変だったね」
静かに、温かく。
「自分を押し殺して……生きてきたんだよね」
双月の下。
戦士は、初めて――
“弱さ”を許された。
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