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第3話 結末

 ――もう、あと一回。


 それだけで、胃のあたりがきりきりと痛んだ。


 黒髪。


 竜王学園。


 同い年か、せいぜい一つ下くらいに見える。

(小学校と中学校が同じとは限らない……)


 必死に記憶を洗い出す。



 通ってた塾。


 スイミングスクール。


 公園。ショッピングモール。



 どこかで一緒に遊んだ覚えは――


(ない……)


 将来を誓い合った?


 そんな大それた約束、いつ、どこで?



 恐る恐る顔を上げると――



 彼女は腕を組み、無言でこちらを見下ろしていた。


 不満そうに。


 疑うように。


 逃げ道を塞ぐ捕食者の目で。

(……怖っ)



 部屋の隅に設置されたデジタル時計が、無情にカウントを刻む。


 残り時間、5分。



 回答回数、あと1回。


「……ヒントとか、くれない?」


 勇人が弱気に頼むと、



「ヒントね」

 彼女は指を顎に当て、少し考える。


「そうね……いつも君、泣いてたね。保育園でさ」



「……え?」

 その瞬間、勇人の視線がふと、彼女の髪に向いた。


 ――銀色の葉っぱの髪留め。



(……まさか)



 いや、ありえない。


 そんなはず、ない。


 鼓動が早くなる。


「あのさ……一人だけ、思い当たる人がいるんだ」

 喉がひりつく。



「……そんなわけないんだけど」


「へえ〜」

 背後から、冷えた声。


「続けて?」


「……ほんとに、好きだった。当時ね」


 勇人は視線を落としたまま、言葉を絞り出す。



「僕のすべて、って言っていいくらい……」


「へえ〜?」

 圧が強い。


「でも……年齢が合わないんだ。もう三十は超えてるはずだから」

 彼女は無言。


 腕を組んだまま、じっと聞いている。


「……お母さんが死んでさ」

 勇人は、ぽつりと続けた。




「多分、母性を求めてたんだと思う。それでも、素敵な女性だった」


 自然と、懐かしさが胸に広がる。


「明るくて、優しくて……

 君みたいな黒髪でさ。

 それに――同じような、銀の髪留めをしてた」


 彼女の指が、ぴくりと動く。


「ある時ね、その髪留めが落ちてて」

 勇人は、遠い日の光景を思い出す。



「拾って、その人に告白したんだ。

 『大きくなったら、僕のお嫁さんになって』って」



 沈黙。


 

「そしたら、その人――」


 勇人は、はっきりと言った。


「『いい男になれよ。そしたら迎えに来てやる』って」


 顔を上げる。


「名前は――森羅しんら みどり先生」




 ――その瞬間。



「はいっ! 大正解!!」


 部屋の空気が一変した。


「おめでとうございま〜す!」


 さっきまでの重苦しさが嘘みたいに、彼女の顔がぱっと明るくなる。


「正解者にはもれなく、この私がついてきます!

 良かったね〜憧れの先生をものに出来て!」


「……え?」


「覚えてたんじゃん!いや〜正直、不安になったよ」


 彼女――翠は、嬉々として続ける。


「しかもプロポーズまでしてたし。

 髪留めを持って求婚するのが、私たちの正式な求婚だからね」


「え、え?」


「あれ、一族の象徴なんだよ?うんうん、さすが私の旦那様」

 胸の前で手を組み、うっとり。


「途中まで、ほんと不安だった。遊ばれたんじゃないかって」



「……でも」


 勇人は我に返る。


「君、僕と見た目変わらないじゃない」


「うん」

 翠はあっさり頷く。


「私、エルフだからね」

 そう言って、髪をかき上げる。



 そこには――


 尖った耳。


「えっ!?じゃあ年いくつ!? 高校生じゃないの!?」



「そういうとこだぞ!!」

 ビシッと指を突きつける。


「女性に年齢聞くなんて!ちなみに年齢は秘密です。ふふっ」


 にこり、と微笑み、


「じゃあ、旦那様」

 ぺこりと丁寧に頭を下げる。


「不束者ですが、よろしくお願いしますね」



「……いや」

 勇人は叫んだ。


「それより先に!結束バンド外してよ〜!!」



 暗い部屋に、

 勇人の悲鳴混じりの声が、いつまでも響いていた。



☆ここまで、読んでくださり、感謝いたします。

今回は短編ですが、伏線回収で長編にするかもしれません。

評価ポイント、ブックマーク登録 していただければ、励みになります。


今後もよろしくお願いします!



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