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第29話 プレデターズ(4)

 数分後。


 勇人は、突然立ち止まった。


「……?」


 眼前には、何もない。


 木々、闇、空気――ただそれだけ。


 だが。


『止まれ』

 疑似人格の声が、低く警告する。


『そこに“いる”』


「……ああ、やっぱりか」


 勇人は、見えない何かに向かって声を投げた。


「おい。そこだろ。出てこいよ」


 沈黙。


 次の瞬間。


 ――ジジジジジ……。


 耳障りな電子音のような音とともに、

 “空間”が歪んだ。


 気配が、こちらへ迫る。


 勇人は即座に、手から光の刃を展開する。


 ――キィン!


 見えない刃と、光の刃がぶつかり合う。


 火花。


 そして、徐々に――透明が、形を持ち始める。


 白銀の鎧。


 凛とした立ち姿。


「……やっぱり」


 現れたのは、葵だった。


 鍔迫り合いのまま、彼女は楽しそうに微笑む。


「驚いたな! 初めてだぞ。

 これを、見破ったのは」


「わかりやすいんだよ」


 勇人の口調は、もう完全に“戦場のそれ”だった。


「ミノタウルスの血の匂いがする。

 それに――それ、光学迷彩だろ」


「ふふふ」


 葵は、満足そうに目を細める。


「さすが我が夫だ。

 ……だが、試練はここからだぞ」


 次の瞬間。


 彼女の姿は、再び闇に溶けた。


「……ふん」

 勇人は短く息を吐き、再び走り出す。




 数十メートル進んだところで、再び停止。


「……地面が、不自然だ」

 勇人は、わずかに進路を変えた。


 踏み固められているはずの地面が、妙に柔らかい。


 近くの石を拾い、

 不自然な箇所へ放る。


 ――ストン。


 軽い音。


 次の瞬間、見えた。


 穴の底一面に、先端を尖らせた木の杭。


「……まあ、これくらいはするよな」


 そう呟きながら、勇人はふと、木の上を見上げる。


 じっと、凝視する。


 そして――



 微笑んだ。


 まるで、そこに“誰か”がいると知っているかのように。


 そのまま、何事もなかったかのように駆け出す。




 木の上。


 光学迷彩を纏った葵が、その様子を見下ろしていた。


「……いいじゃないか」


 小さく、楽しそうに。


「これは……期待できそうだ」



 

 勇人は走る。


 空気が変わる。


 森の奥、開けた気配。



 ――ゴールは近い。


 だが。


 急停止。


『待ち伏せだ。しかも複数』


 勇人は即座に木々の影へ溶け込む。


『あいつら、自分が見えないと思ってる。

 ……そこが狙い目だ』


 森の中で、微かな音。


 次の瞬間。


 透明な影が、次々と実体化する。



 ――三体。


 完全武装の、男のドラゴニュート。


 互いにハンドサインを送り、散開する。


「……遅い」

 勇人は、すでに背後にいた。


 一体目。


 首を絞める。


 抵抗する暇もなく、意識を失う。


 短刀を奪い――消える。



 二体目。


 木の上から落ちる影。


「ぐはっ……!」

 鈍い音とともに、昏倒。



 残るは――一体。


 背後に、気配。


「動くな。喋るな」


 喉元に、刃。


 震えながら、ドラゴニュートは頷く。

「……わ、わかった」



 勇人はそのまま、ゆっくりと歩き出す。



 ――ゲートは、目の前だった。


 石造りの門。


 淡く光を放ち、異界への出口を示している。


 その前で。


 葵は、椅子に腰掛けていた。


 背を丸め、肘を腿に置き、

 不敵な笑みを浮かべて。


「よく来たな」


 ゆっくりと立ち上がる。


「――最後の関門だ」


 剣を構え、まっすぐ勇人を見る。


「この私を倒していけ」


 双月が、二人を照らす。


 試練は、

 ここで――最終局面を迎える。



 ゲート前に張り詰めた空気は、もはや森そのものを沈黙させていた。


 風は止み、双月の光だけが、二人を照らしている。



 勇人は、静かに――あまりにも静かに、葵を見据えた。


「……やめておけ」

 低く、感情を削ぎ落とした声。


「お前じゃ、俺には勝てない」


 その言葉に、葵の表情がぴくりと歪む。


 侮辱ではない。


 慢心でもない。


 ただの――冷静な判断。


「……ふん」


 葵は、鼻で笑った。


「どうかな」


 剣を抜く。


 白銀の刃が、月光を反射した瞬間――彼女の中で何かが決定的に切り替わる。



「…………死ぬぞ」


 勇人は一歩も動かず、淡々と言い放った。


 それは脅しではない。


 “そうなる未来が見えている”がゆえの忠告だった。


 だが――


「今日ここで死ねるなら、本望だ」


 葵は口角を上げる。


 その笑みは、戦士としての誇りに満ちていた。


「強者と相まみえることこそ、ドラゴニュートの誉……!」


 震える指先。


 高鳴る心臓。


 恐怖はある――だが、それ以上に、歓喜が勝っていた。





☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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