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25話 ドラゴニュートの姫騎士VS吸血鬼

 コンクリートに刻まれた無数の傷。その中心で、イオアンナは静かに剣を構えていた。


 刃先は微塵も揺れず、金属の冷気だけが彼女の覚悟を映している。


 一方、対峙するカミラは余裕綽々だった。

 

 腰に手を当て、口元には獲物を前にした捕食者の笑み。

 

 背後で夜風が彼女の髪を揺らす。


「じゃあ――行くぜ!!」


 イオアンナが踏み込もうとした、その“前”だった。


 カミラの姿が弾けるように跳躍する。


 地面を蹴り砕き、一直線に――イオアンナへ。



 ――その刹那。


 甲高い金属音が夜に走った。


 イオアンナの剣が、カミラの鉤爪を正確に受け止める。


 だが、それで終わりではない。


 受け止めたまま、イオアンナは一瞬で身を翻し――


 背を向けた次の瞬間、しなやかな尾が唸りを上げて振るわれた。


「――ッ!」


 カミラは即座に後方へ跳躍し、それを紙一重で躱す。


 だが着地の隙を、イオアンナは逃さない。


「はあっ!!」


 剣閃。


 空気を裂く鋭い斬撃が、一直線にカミラへ迫る。



 ――ガキィン!!


 再び刃と爪が激突した。


「ふふっ、やるじゃん」


「抜かせ!!このまま斬り伏せてやる!」


 イオアンナは力任せではない。


 剣を受け流し、体勢を崩すための精密な剣技。


 その瞬間、カミラの笑みが深くなる。


「じゃあ――吸血鬼の本領発揮だぜ!!」


 彼女の足元、影が“蠢いた”。


 影の中から噴き出すように現れたのは――


 ドス黒い闇の眷属。


 無数の蝙蝠が、悲鳴のような羽音を立ててイオアンナへ襲いかかる。



「くそっ!」


 イオアンナは剣を振るい、次々と蝙蝠を斬り落とす。


 だが、その視界の端で――


 カミラの姿が、霧のように溶けた。


 黒い闇へと変化し、気配すら消える。



「……っ!?」


 次の瞬間。


「取ったーーーー!!」


 背後から闇が実体化する。


 鋭い殺意と共に、カミラが襲いかかる――



 だが。


 ――ギュッ。


「!?」


 イオアンナの尾が、正確にカミラの足へ巻き付いていた。


「くっ……!」


 焦りが、初めてカミラの表情に浮かぶ。


 次の瞬間、重力が反転したかのように――


 カミラの体が、叩きつけられる。


 ――ドガァン!!


 コンクリートが悲鳴を上げ、亀裂が走る。


「ぐはっ!!」


「ふっ。この程度――予測済みだ」


 イオアンナは剣を構え直す。


 しかし、倒れたはずのカミラは、ゆらりと立ち上がった。


「そうかよ……じゃあ、これはどうだ?」


 瞬間。


 カミラの全身が――真紅の闇に包まれる。


 闇は血のように脈動し、背中から禍々しい巨大な翼が広がった。


 夜空を覆い尽くすかのような圧倒的存在感。


「ふふ……楽しい。ほんっとに楽しいぜ」


 赤く、煌々と光るその瞳。


 口角を吊り上げ、宣告する。


「じゃあ――第2ラウンドだな」


「ご託はいいから、かかってこい!」


 イオアンナは一歩も退かない。


 遠くで、勇人は息を呑んでその光景を見つめていた。



 言葉を失い、ただ、二人の怪物の激突を――。


 次の瞬間。


 カミラが消えた。


「――なっ!?」


 視界から完全に消失。


 次いで、背中に走る衝撃。


「がっ――!!」


 カミラの一撃。


 イオアンナの体が宙を舞い、コンクリートへ叩きつけられる。


 破片が宙を舞い、粉塵が夜を染める。


「うぐっ……!」


 血を吐くイオアンナ。


 間髪入れず、踏み潰そうとするカミラ。


 だがイオアンナは転がるように回避する。



 ――ズガン!!


 避けきれなかった一撃が、彼女を壁へと叩き込む。


「ぐはっ!!」


「これでトドメだ!!」


 勝利を確信した、カミラの声。


 だが――


 イオアンナの目が、金色に輝いた。


「……ぐおおおおおおおおお!!」


 咆哮と共に立ち上がり、剣を構える。


 全身から溢れ出す、覚醒の気配。


 一閃。


 命を賭した斬撃が、カミラへ――


「ぐっ!!」


 カミラは両腕でそれを受け止め、後退する。


 火花が散り、二人の視線が真正面からぶつかる。



 ――まだ、終わらない。


 この戦いは、ここからだ。


 夜はまだ深く、空気は戦闘の余熱で震えていた。


 剣戟と衝撃、紅と金の閃光が交錯するその只中から、少し離れた場所で――勇人は呆然と立ち尽くしていた。



「……いや、これほんとに人間が見てていいやつじゃないよな……」


 カミラの翼が夜空を切り裂き、イオアンナの剣が地面を抉る。


 一撃ごとにコンクリートが砕け、空気が悲鳴を上げる。


 逃げるべきだと、頭では分かっている。


 けれど、視線が離せなかった。



 ――そのとき。


「これは、なかなかいい勝負ね。朝までに決着つくかしら」


 背後から、聞き慣れた声がした。


「……え?」


 勇人はびくりと肩を跳ねさせ、振り返る。


 そこにいたのは、翠だった。


 戦場を前にしても、まるで夜更かしのテレビでも眺めているかのような、落ち着いた表情。


「み、翠……いつからそこに?」


「さっきから。結構派手だよね」


 軽くそう言って、彼女は再び戦いに視線を向ける。


 紅闇と金光が激突し、夜空に火花が散った。


「……でさ」


 次の瞬間、翠は何の前触れもなく勇人の腕を掴んだ。


「とりあえず、帰ろっか」


「は?」


 理解する間もなく――



「え、えーーーーーー!!」


 勇人はずるずると引きずられながら、思わず声を上げる。


 必死に振り返り、戦場を指差す。


「ちょ、ちょっと待って! いいのこのままで!!」


「いいわよ」


 即答だった。


「いやいやいや! あれ見てよ!? どう考えても朝まで――」


「どうせ朝まででしょ」


 ずるずると引きずられる勇人に、翠はちらりと視線を向ける。


 そして――



「それよりさ」


 歩きながら、顔を近づける。


 月明かりに照らされたその表情は、どこか楽しそうで――


 ニヤリ。


「自分の心配、したら?」


「……え?」


「このあと、お仕置きだから」


「――――っ!?」


 勇人の背筋に、冷たいものが走った。


「ちょ、ちょっと待って!? 俺なんかした!?」


「心当たりないの?」


「ない! たぶん!」


「“たぶん”ねぇ……」


「た、たすけて~!!」



 勇人は必死に声を張り上げる。


 だが――


「はあああっ!!」


「っは! もっと来いよ!!」


 戦場の中心では、イオアンナとカミラが互いしか見えていなかった。


 剣と爪がぶつかり合い、二人の世界は完全に閉じている。


「ねぇ! 誰か! こっち見てってば!!」

 

 その叫びも、轟音にかき消された。


 勇人は力なく項垂れながら、なおも引きずられていく。


 

 夜がゆっくりと白み始めるまで――



 カミラとイオアンナの戦いは、終わることなく続いていた。



☆ここまで、読んでくださり、ありがとうございました。


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