第21話 女医とラブホテルと
ニーブが冷静に続ける。
「専門家を呼んでいます」
「……嫌な予感しかしない」
そのとき。
コンコン。
ドアが鳴った。
「来たわね」
エリンが開ける。
――誰もいない。
「?」
三人が首を傾げた瞬間。
「ふんふん……これはこれは」
背後から、楽しげな声。
「『精霊王のオーブ』だね。いいね、いいねえ! 頭を切り落としたら、また生えてくるかな?」
キラリと光る、医療用メス。
「ひゃははははは! これは是非とも解剖して……標本にしなくてはぁ!」
「ぎゃああああああ!!」
勇人の悲鳴が、ホテルに響いた。
振り向くと、白衣の人物。
青い長髪、そして――ペストマスク。
「ちょっと! 待ちなさいよ、あんた誰なの!?」
エリンの鋭い制止に、その人物は芝居がかった動作で向き直った。
「私の名はペスティア・アルミケラ。……『医術の悪魔』だ。そして、こいつを解剖する者だぁぁぁ!」
両手を斜めに構え、仮面ライダーのようなポーズを決めるペスティア。
「ふふふ……ははははは! 素晴らしい! 是非とも解剖して、臓器の一つひとつをホルマリン漬けの標本にしてあげよう!」
部屋中に狂気の笑い声が響き渡る。
「…………」 あまりの変質者ぶりに、三人は完全にドン引きしていた。
「いや、私たちが頼んだのは診察とオーブの摘出なんですけど」
ニーブが冷徹に、かつ困惑気味にツッコミを入れる。
「いやだね、解剖したい」
「解剖してもいいけど、オーブを無傷で出せるの?」
エリンの、勇人の人権を完全に無視した発言。
「うーん、じゃあ診てみるか」
ペスティアは両手を合わせ、勇人の胸元へ――
幻影のように上半身を滑り込ませる。
「うわっ!? 何が起きてる!?」
(今、僕の体の中で何が……)
体内から、こもった声。
「うわぁ、これ凄い! 神経経路と各器官に癒着してる! 脳幹とも、魂とも完全同化! 素晴らしい! 解剖したい! 標本にしたい! というか、する!!」
「褒められても嬉しくない!」
やがて、ペスティアの上半身が勇人の胸から出てくる。
「結論」
三人が身を乗り出す。
「摘出不可」
「即答!?」
「完全同化。本人の一部。
無理に切り離せば、オーブも宿主も壊れる」
「じゃあどうなるの?」
「近いうちに、オーブは補助人格として覚醒する」
「補助……人格?」
「力が大きすぎるからね。制御補助が必要なんだ」
キーラが青ざめる。
「それって……」
「精霊王が顕現したのと同義」
――沈黙。
「どうすんのよーーーーーー!! オーラーーー!!」
エリンの絶叫が、ホテルに木霊した。
一方、勇人は。
天井を見つめ、白目を剥き。
「……もう何が何だか……」
魂が半分くらい抜けた顔で、ゆっくりと意識を遠ざけていた。
勇人は、心身ともに限界だった。
エルフ三人に囲まれ、
意味のわからない診断をされ、
医術の悪魔に魂レベルで観察され、
挙げ句の果てに「精霊王顕現一歩手前」とかいう
人生で一度も聞きたくない評価をもらった帰り道。
まるで、幽霊のような足取りで家の前に立っていた。
「……ただいま……」
鍵を開け、玄関の扉を押す。
――その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……!!
空気が、震えた。
玄関の中央に立つ影。
髪は逆立ち、まるでサイヤ人。
腕を組み、仁王立ち。
翠である。
「……おかえり?」
その声は、穏やかだった。
だが勇人は知っている。
この声は、嵐の前の無風地帯だということを。
「えっと……た、ただいま……?」
翠は無言で、一歩前に出た。
そして――
スマホを突き出す。
「……あんたさ」
画面には、はっきりとした写真。
ラブホテルの外観。日時付き。
「これ。どう見ても、ラブホでしょ」
ピシッ、と空気が凍る。
「何してたのよ?」
「……」
勇人の脳内で、警報が鳴り響く。
(ここは慎重に……慎重に……)
「い、いや、その……」
必死に言葉を選ぶ。
「知らない女子高生三人に拉致されて……」
翠のこめかみに、ピキッと音がした気がした。
「……ほう?」
(まずい)
「そ、そのあと、女医さんも来て……」
――次の瞬間。
「この浮気者がーーーーーーーー!!!!!」
ドォン!!!
翠の絶叫が、戸川家の玄関を中心に炸裂した。
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