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第18話 精霊王のオーブ

「どのみち……怪我するなら……!」


 勇気を振り絞り――


 飛び降りた。


 ――バサッ。


 何か柔らかいものに当たる感触。


 そして。


 視界が、暗転した。


 勇人の意識は、

 闇の中へと、静かに沈んでいった。



 ――落下。


 勇人の身体は、生け垣へと叩き込まれた。


 バサァッ!


 葉と枝が衝撃を吸収するが、反動で身体は弾き返され、夜露に濡れた芝生の上を転がる。


「……っ」

 痛みは、ない。


 骨が折れた感覚も、血の味もない。



 ――幸運だった。



 だが。


 次の瞬間。


 勇人の胸元が、淡く発光した。


 白とも翠ともつかぬ光が、鼓動に合わせて脈動する。



 ――ジジジジジジ……。


 無機質な電子音が、脳裏に直接流れ込む。



 ――アーティファクト《精霊王のオーブ》緊急起動。


 ――対人近接戦闘 プロトコル、連携ダウンロード開始。


 ――対魔法戦闘 プロトコル、連携ダウンロード開始。


 ――魔法防御殻、起動準備。


 ――思考連動変形エネルギーウェポン、起動準備。




 勇人の意識は、まだ闇の底にある。


 だが、身体だけが“命令”を受け取っていた。



 その時。



 ――ドサッ。


 屋上から、もう一つの影が降り立つ。


 法子だった。


 軽やかに着地し、芝生の上の勇人へと、ゆっくり歩み寄る。


「ふふ……」


 包丁を揺らしながら、楽しそうに。



「もう……動けないのかしら?」



 その瞬間。


 ――勇人の指が、ぴくりと動いた。



「……?」

 法子が目を細める。


 勇人は、ゆっくりと起き上がる。



 だが。



 ――目は、閉じたまま。


「……え?」


「なに……? 気絶したまま……?」


 勇人は無言で、両足を開き、重心を落とす。


 右足を後ろへ。


 両拳を顎の前へ。


 ――キックボクサーの構え。


「……は?」


 法子が、一瞬だけ言葉を失う。



「なにそれ……冗談でしょ……?」


 次の瞬間、彼女は嗤った。


「やるっての? いいわね!!」


 両手の包丁が、銀光を描く。


 ザッ、ザザッ!


 小刻みに距離を詰め、連続で斬り込む。



 だが――


 勇人の身体は、反応した。


 奥手の右手が、刃の軌道を叩き落とす。


 同時に、左拳が――腹部へ。


「――ぐはっ!!」


 法子の身体が、くの字に折れる。



 思わず後退る彼女の顔が、歪む。


「あんた……!」


「なんで……そんな動き……できるのよ!!」


 返答はない。


 勇人は、さらに踏み込む。


 ローキック。


 下からえぐるように放たれた一撃を、法子は跳んで躱す。



 ――その瞬間。


 右拳。


 一直線のストレートが、顎を撃ち抜いた。



 クリーンヒット。


「――っ!!」


 衝撃音とともに、法子の身体が宙を舞い、数メートル先へ吹き飛ばされる。



 芝生に転がる法子。


 勇人は、目を閉じたまま、再び構える。


 しかし――正確に、法子を捉えている。


「……っ」


 法子は、歯を食いしばりながら立ち上がる。


「……勇人のくせに……」


 怒りと嫉妬が、声を歪める。


「生意気なのよ!!」


 足元に、魔法陣が展開される。


 赤く、禍々しい光。



「燃えてしまいなさい!!」


 ――業火。


 渦巻く炎が、咆哮を上げながら勇人を包み込む。



 その瞬間。


 ――魔法防御殻、起動。


 音声と同時に、勇人の周囲に真紅の装甲が形成された。



 それは――


 昆虫の外骨格を思わせる異形。


 人の眼を模した複眼。


 口はなく、

 背中には――六本の昆虫型触手。


 業火が、装甲を舐め尽くす。



 だが。


 ――焦げ跡一つ、残らない。


 炎が消え去った後、そこに立っていたのは、無傷の勇人。


「……」


 法子の瞳が、見開かれる。


「……ウソ……」


 声が、震える。


「……ウソでしょ……」


 月明かりの下、

 赤い防御殻に包まれた勇人が、無言で一歩、踏み出した。



 ――思考連動変形エネルギーウェポン 起動。


 ――ブレイド形態。


 乾いた起動音とともに、赤い昆虫型パワードスーツの右腕が発光した。


 光が凝縮され、一本の刀となって現れる。


 金属ではない。


 しかし刃は確かにそこにあり、空気そのものを切り裂く圧を放っていた。


「……っ!」


 法子が息を呑む間もなく――


 勇人が踏み込んだ。


 地面を蹴る音すら遅れて聞こえる。


 視界から消えたかと思った瞬間、刃が閃いた。


「――っ!!」

 法子は反射的に包丁で受ける。


 ガキン!!


 衝撃が腕を貫き、痺れが走る。


「な……なに、この速さ……!」


 斬撃は一度では終わらない。



 二撃、三撃――


 まるで最初から“斬り方”を知っているかのような無駄のない連続攻撃。


「くっ……!」


 防ぐので精一杯。


 法子は後退し、距離を取る。


 その瞬間。



 ――キャノン形態。


 刀が、光の粒子となって霧散した。



「――え?」


 勇人は両腕を前へ突き出す。


 掌に、眩い光が集束する。


「ちょ――」


 言葉は、間に合わなかった。


 ドドドドドッ!!


 光弾が、連続で放たれる。


 空気を震わせ、地面を抉り、法子の身体を容赦なく撃ち抜く。



「――っ……!!」

 抵抗する暇すらない。


 吹き飛ばされる法子。


 背中から地面に叩きつけられ、数十メートル転がり――


 そのまま、動かなくなった。



 静寂。


 ――敵 沈黙。


 淡々とした音声が、戦闘の終わりを告げる。



 その直後。


 勇人の身体が、ぐらりと揺れた。



「……っ」

 瞼が、ゆっくりと開く。


 朝焼けが、視界に差し込んだ。


「……あれ……?」


 ぼんやりと周囲を見渡す。


 芝生。


 校舎。


 倒れて動かない法子。


「……え?」

 視線が、自分の身体に落ちる。


 赤い外骨格。


 昆虫の触手。


 2本の外骨格の手。


 異形の装甲。


「……これ……何……?」


 自分の手を見つめる。


 人間の手ではない。


 知らない“何か”だ。


「…………」


 数秒の沈黙。


 そして――


「なんだーーーーーーーーーーーっ!!」


 勇人は頭を抱え、叫んだ。


「なにこれ!? なにこれ!? 夢!? 幻覚!? いや重い!! 触覚ある!!」


 混乱と恐怖が、一気に押し寄せる。



 その頭上から、

 朝日が静かに差し込み、赤い装甲を黄金色に染めていた。


 ――長い夜が、終わったのだと告げるように。





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