第15話 恐怖の学校
勇人は、もう抵抗する気力すら失っていた。
逃げ道を探す思考も、言葉を選ぶ余裕もない。
「……そ、そのさ……」
喉が張りつく。
それでも、口を開いた。
「……彼女が……出来たこと……かな?」
声は、情けないほどに小さかった。
――次の瞬間。
距離が、消えた。
法子の顔が、鼻息がかかるほど近くにある。
視線が、真っ暗だ。光がない。感情の底が見えない。
「……そうだよ」
囁くような声。
それなのに、逃げ場のない圧がある。
「正解」
くすり、と笑ったその直後――
喉元に、冷たい感触が押し当てられた。
包丁だ。
「ふふっ……」
刃先が、わずかに食い込む。
「そうだよ。あのクソエルフがさ……」
声が低く、歪む。
「嫁面して、私の家に土足で上がり込んできたんだよ」
笑っているのに、怒りが滲み出ている。
「しかも……あんたも、それを認めてる」
視線が、刺すように突き刺さる。
「それってさ……裏切りだよね?」
「……っ」
「ご、ごめんなさい……!
ほんとに、ごめんなさい……!」
勇人の視界が、にじむ。
(――今日、もう……死ぬかもしれない)
本気で、そう思った。
その時。
ガチャリ――と、乾いた音が響いた。
重さが消える。
「……え?」
足元を見ると、
鎖が外れ、床に落ちていた。
「うん」
法子が、さっきまでとは別人のように、優しく微笑む。
「正解したからね……」
その笑顔に、救われたと思った瞬間――
「……でもさ」
声が、急に冷える。
「許したわけじゃないよ?」
首を傾げ、楽しそうに続ける。
「ここからは……お仕置きタイムです」
包丁の刃を、ゆっくり舐める。
ぞくり、と勇人の背筋が震えた。
「ね、簡単なゲームにしよっか」
次の瞬間、もう一本の包丁が現れる。
「鬼ごっこです」
にこやかに、残酷な宣告。
「私が鬼ね。
もし捕まったら――」
包丁が、鈍く光る。
「この包丁で……
ナマスにします」
言葉の軽さと内容の重さが、あまりにも釣り合わない。
「ルールは簡単だよ」
指を立てて説明する法子。
「朝まで逃げ続けること」
「もし私に捕まったら……こいつで、滅多刺し」
さらり、と言い切る。
「でも安心して」
急に、優しい声。
「死なない程度にするから」
にっこり。
「死んでも、蘇生するし。
傷も残らないように回復魔法もかけるよ」
慈愛すら感じる口調で、続ける。
「……まあ、めちゃくちゃ痛いけど」
当然のように付け足す。
「でも仕方ないよね?」
首を傾げる。
「だって……私を裏切ったんだから」
その一言が、胸に突き刺さる。
「じゃあ――」
法子は三本の指を立てた。
「3分待つよ」
優しい、恋人のような笑顔で。
「スタート」
こうして――
逃げ場のない、死の鬼ごっこが始まった。
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