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6⭐︎愛が重い旦那をもつと大変です。

※急に始まるちょいラブ回です。

 人混みをかき分けかき分け、パーティー会場を抜けて、やっと人気(ひとけ)のないところまで亜弥を連れ出した奏。ここに来るまでに、黄色い歓声を浴び続け、シャッター音は鳴り続け、気分はさながらスキャンダルの渦中にいる芸能人。間違いなくいい気分ではないが。


 亜弥を壁ドンして、何から言おうかと頭をフル稼働。下を向いたまま息を整えていると、上から奏を見下ろしていた亜弥は恍惚の表情を浮かべ、奏の顔に両手を触れて上を向かせた。


 「奏ごめん、我慢できない。」


 そう言うや否や、亜弥は奏に口付けをした。憤りを隠せない奏は、逃れようともがくが、力で勝てたことはない。とりあえず亜弥のキスに応える。


 「…………長いっっ!!」


 やっとのことで唇をはなした。


 「お前さぁ……なんちゅー格好でこんなパーティーに出てんだよ!」

 「いや、これは柚月が……って、あんた今日イベントだって言ってたよね!?」

 「抜け出すに決まってんだろ!?ゆっちゃんから連絡きて、いてもたってもいられなくなったわ!!」

 

 Oh…マイフレンド…なぜこの男に連絡をしてしまったんだ…。


 招待状には、亜弥の名前もあった。柚月は、奏に一目惚れした人がいると聞きつけ、わざわざ我が家まで見に来て、なぜか亜弥と意気投合(奏大好き同盟)。ゴールインするまで応援していた。"ゆっちゃん"に"あやちゃん"と呼び合うくらい二人は仲が良く、親友の旦那で、しかも仲良しの男友達なのだからと、パーティーにも当然のように招待した。でも、推しアイドルのT//Sに会えるという絶好の機会に、こいつがいたら間違いなく台無しにされると思ったから、『あたしは一人で行く、亜弥には絶対連絡しないで!!』と…あんだけしつこくお願いしていたのに……。


 「最近、こそこそソワソワしてて様子おかしいなーとは思ってたんだよ。そもそも、なんで俺はここに呼ばれてないの?」

 「自分の胸に手を当てて考えてみれば?」


 素っ気ない態度の奏に、亜弥はムッとして顔を近づけた。


 「浮気??」

 「違うっ!!あんた、あたしと結婚する時にした、"絶対に破ってはいけない約束"、忘れたとは言わせないよ!?」

 「"推し活の邪魔はしない"?」

 「そう!今回の件も、推し活のようなもの!!あんたが今ここにいるってことは、約束は破られた!!離婚だ離婚っ!!」

 「やだやだやだっ、絶対にやだっ!!!!ごめん奏、奏が誰かに取られるんじゃないかって思ったら、体が勝手に…本当にごめんって!!!!」


 もう何度目の土下座だろうか。大きな男(身長189センチ)が縮こまるの図。それを見た奏は、湧き上がってくる怒りが段々とおさまっていくのを感じ、はぁぁぁぁっと、長くて大きなため息をついた。


 ここで少し、亜弥のことについて話をしておこう。


 亜弥は、奏の兄・(そう)の、高校の時にできた友達の一人。蒼に誘われ、有馬(ありま)家(奏の実家)に初めて上がったその日、十五歳の奏を見て、一目惚れ。猛烈アタックが始まった。亜弥は、小さい頃から女顔の美形で、小学校まではチヤホヤされて生きてきた。中学になると、見た目をいじられるようになり、その場のノリでオネェを演じると、ゲイだのなんだのと言われるように。初めのうちは否定していたが、そのうち面倒になり、オネェキャラを演じ続けた中学時代。高校に入ると急に身長が伸びはじめ、周りが(いだ)いていた"女顔で可愛いオネェの亜弥くん"というイメージは、"妖艶さを纏う美しい男性の亜弥さん"に変わっていった。からかってくる輩はいなくなり、遠巻きに崇められるようになっていった。オネェキャラは板についてしまって、大人になった今でも、表向きはオネェキャラで通っている。

 亜弥がオネェキャラを演じるようになってすぐ、その虚勢を見抜いたのが、他の誰でもない奏で、奏の前では、自分らしい自分でいられる。実に十年、想いを伝え続け、まんざらじゃなかった奏の方も根負けという形で、二人は結婚した。その時に交わした大事な約束事が、"推し活の邪魔はしない"。亜弥が、コスプレイヤーになるほどにアニメや漫画が好きで、それを邪魔されたくないのと一緒だ。


 「もういいよ、顔上げて。」

 「奏ぇ…。」

 「情けない声出すんじゃないっ!」


 こんなんでも愛おしいと思ってしまうのだから、あたしもなかなか亜弥にゾッコンなのだ。


 「とりあえず、イベントスタッフさんに迷惑かかるから、一旦戻りな?」

 「やだよ!!奏と一緒じゃなきゃ帰んない!!」

 「もー……。」


 しゃがんで、亜弥の額にキスを落とす。亜弥は潤んだ目を見開いて驚き、キスされた場所を手で押さえて赤面した。なんだそのウブな反応は…さっきはあんな濃ゆいキス交わしといて。


 「T//Sにはもう会ったし、浮気する気もさらさらない。お開きの時間になったらすぐ帰るよ。ね?」

 「うぅ……。」

 「帰ったら一緒にお風呂入ろ?」

 「へっ!?いっ、いいの!?」

 「今日は特別。」

 「よっしゃぁ!!」


 こんなんで気を持ち直す旦那…大型犬のそれのように、尻尾がブンブン振られている幻覚まで見える…。


 そこで二人は、はた、と辺りを見渡す。


 ここは、どこだ??


 無我夢中で突き進んできたもんだから、現在位置不明。どうやってパーティー会場に戻れば…?亜弥もどうやって外に出れば…?


 顔を見合わせて、途方に暮れる二人なのであった。


 一方その頃。


 「ねー、かなちゃん達、どこまで行っちゃったのかなぁ?」

 「さぁな。」

 「でも、荷物置いたまんまだし、戻ってくるはずだよ。」

 「早く戻って来ないかなー。つまんないのー。」


 置いていかれたT//Sの三人は、奏が陣取っていた場所を拝借して、食事をしていた。食事をしながら、彗人と柚月の招待客ウォッチング。音楽家や芸能人の有名人がわんさか。改めて、すごいとこの二人が結婚することになったんだ、と、思う。


 「僕らなんか、かすんじゃうね。」

 「んむ?」

 「いや、なんでもない。」


 やんちゃに食べ物をむさぼる流星を見て、まだまだ頑張らなきゃな、と思う光里であった。


 余興なのか、音楽家達のセッションが始まり、ムーディーな雰囲気が流れ始めた。そこに、彗人はバイオリン、柚月はピアノで加わり、大盛り上がり。踊る人は踊り、それに合わせて曲調も変わり、即興なのにもかかわらず、よくこんな息のあった演奏ができるな、と、会場にいる人達全員が感嘆した。


 パーティーは、徐々にお開きモードに。ちらほら帰る人もいて、人で溢れかえっていた会場から、賑やかさがフェードアウトしていく。奏は一向に戻ってこず、T//S三人衆が心配していると、スタッフがやってきて奏の荷物を預かっていった。こちらの状況を見ていた柚月からの指示だそうだ。流星がとても残念そうにしているが、スケジュール的に帰った方がいい時間になってしまい、文句たれる流星を引きずるような形で、会場を後にした。


 そんなことを知らない奏はというと。


 現在地が分からず途方に暮れた後、こうしちゃいられない!と素早く切り替えた二人。闇雲に走り回り、なんとかロビーに辿り着いて、スタッフにタクシーの手配をお願いした。タクシーが来るまで、周囲のことはおかまいなしに亜弥が甘えてくるもんだから、恥ずかしさで顔面が爆発しそうになりながらも、どーにかこーにかやり過ごし、最後は嫌がる亜弥をタクシーに無理やり押し込んで、任務完了。ロビーのソファに腰を下ろすと、どっと疲れが襲ってきた。荷物は置いてきてしまったし、柚月や彗人くんには直接挨拶もしていない。戻らなきゃいけない状況だが、自分の体とソファが磁石でくっついてしまったかのよう、動くに動けない。靴擦れもしていて、動く気にもなれない。


 (柚月……なぜあいつに連絡したのか問いたださねば……。)


 そう思いながら、急に襲ってきた睡魔を受け入れて、奏はそのまま深い眠りに落ちていった。


 ぞわり、と背筋に冷たいものが走って、柚月は身震いした。


 (ごめんね、かなちゃん。あたし、あやちゃんの気持ちも分かるから…今朝まで連絡しなかったあたしを褒めて。)


 近くにいるスタッフに、奏の荷物をロビーで預かってもらうことと、奏がどこにいるのか分かったら教えて欲しいと伝えた。奏のことだから、あやちゃんを相手にしたら絶対疲れてどっかで休むだろう、と先を読んでいた柚月は、そのままここのホテルに泊まれるように、部屋を取っていたのだ。


 柚月の読み通り、ロビーで寝た状態で見つかった奏。気づかないうちに靴擦れの処置までしてもらい、部屋に担ぎ込まれて夢の中。


 (あ、あやちゃんにこのこと伝えてないな。……まいっか。)



/



 イベントに戻り、自分のやるべきことを終わらせて爆速で家に帰ると、奏はまだ帰宅していなかった。奏が帰ってくるまでに、まずは顔と髪をOFFって、一緒にお風呂に入れるからシャワー浴びたいけど我慢我慢。ご飯食べて一通りの家事を済ませて、ウキウキで待っている亜弥。しかし、いくら待っても奏は帰って来ない。連絡はしてるが、返事がない。なんなんだこれはっ…放置プレイですか!?


 半泣きで奏の帰りを待つも、そのうち睡魔に負ける亜弥なのであった。

 ★穂坂 亜弥 一人称:あたし(オネェ時)、俺(素)

   28歳。身長189cm。

   インテリアデザイナー。

   O型に見られがちなA型。

   アニメや漫画好きなコスプレイヤー。

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