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5⭐︎警報!奏溺愛モンスターが襲来します。

 むせながら、今起こったことを必死で理解しようと、脳内の奏達が忙しなく動き回る。


 え?今あたしを呼んだのは、誰?あれは?誰?りゅーちゃん?りゅーちゃんが、あたしをあだ名で呼んだの!?彗人くんに引き続きりゅーちゃんも!?しかも、手を振りながらこちらに近づいてくる!!あのキラースマイルで!!!!


 興奮を悟られまいと平静を保とうとする奏に、次なる刺客が近づく。


 「大丈夫ですか?」


 ハンカチを差し出されて顔を上げると、光里のドアップに石化する奏。おぅふ…まつげ長ぁ…。


 「光里、そいつ固まってんぞ。」


 光里の背後から、ひょっこりと顔を出す煌。


 「かなちゃん?おーい、大丈夫??」

 「だ、だいじょーぶれす…ははは……。」


 いや大丈夫なわけあるかぁぁぁぁ!!!!(脳内ズシャァァァァ)


 完全に油断し切った奏の前に、T//Sの三人組が現れた!見た目では凛としたパーカーフェイスだが、音が外に漏れてるんじゃね!?と思うほど心臓はどっくどっく鳴っており、脳内奏達はパニック状態。ショート気味。


 そんな奏を、上から下まで舐めるように見る、流星。


 (座ってるから身長はどのくらいか分からないけど、顔良し、スタイル良し。え、めっちゃいいじゃん、かなちゃん。)


 ニタリ、と、悪戯な笑みを浮かべた。それを見た煌は、奏が流星にロックオンされたことを気の毒に思い、ため息をついた。光里は、差し出したハンカチを受け取ってもらえないまま、固まって動かない奏をただただ心配していた。


 「柚月ちゃんのお友達の、かなちゃん、だよね?」


 "柚月"というワードで、やっと我に帰った奏。


 「あっ、は、はいっ。穂坂奏と言いますっ。」

 「奏ちゃん…。かなちゃんの方が呼びやすいから、そう呼んでもいいかな?」

 「ぅえっ!?」

 「とりあえず、ひかにぃのハンカチ受け取ってあげてくれない?」

 「ひぇぇぇっ、あたしには恐れ多くて受け取れません…!!」


 慌てて、自分のバッグからハンカチを取り出して口元を覆った。


 「ひかにぃフラれてやんのー。」

 「うるさい。」


 光里が立ち上がると、三人並んでジャケ写のような立ち姿。そこだけスポットライトが照らされているかのように、神々しいオーラを纏っている。


 えっ…すごい…あたし今日塵になって飛んでちゃうのかな?ちょっと自分の形保てないかも…。


 また動かなくなった奏を見て、流星は畳み掛けるように距離を詰めようとする。


 「僕達のファンなんだよね?嬉しいなぁ、こんな美人なファンに会えて。」

 「めめめ滅相もない!!」

 「これからも応援してね。」

 「それはもちろんっ!全力で!!」

 「あはは。かなちゃん、いいね。」

 「ふぇ?」

 「連絡先教えてよ。かなちゃんのこと、知りたいなぁ。」


 そそそそのエロい顔は、演技スイッチ入ってます!?"男"の色気を放つ流星のイケボに、声も出せず狼狽える、昇天寸前の奏。


 一部始終を遠くからちら見していた柚月は、挨拶の列が途切れたタイミングで、ついに堪え切れずに笑い出した。


 「お、おい…急にどうした?」

 「ふくく…かなちゃんが…かなちゃんは期待を裏切らないなぁって…!」

 「こっから見えるのか?」

 「うん、あたし視力いいから!三人とかなちゃんは無事会えたみたい。」

 「そうか…。」


 表情が曇る伊月を、柚月は見逃さなかった。


 「どうしたの?」

 「ん…流星が、ちょっと。」

 「え?」

 「あいつ、割と本気でかなちゃんのこと狙ってるみたいだったから。」

 「えっ、そうなの!?それは…なかなかマズイかも…。」

 「マズイって?」

 「呼んじゃってるんだよね、あやちゃん。」

 「その"あやちゃん"って?そろそろ教えてよ。」

 「んー…別に勿体ぶることもないんだけど、あたしから言うことではないかなぁと思ってて。」

 「教えて。」

 「うぅん…実はかなちゃんね………。」

 

 衝撃の事実を耳打ちされ、驚く伊月。


 さてここで、昇天寸前の奏に戻る。


 推しアイドルとプライベートで連絡先を交換するなんてっ…他のファンを差し置いてそんなことできるか!?しちゃってもいいのか!?いやでもこんなチャンス滅多にないし…そもそも一般ピーポーとアイドルが繋がるなんて奇跡に近い…でも…ぐっ……ああああたしはどうしたらいいんだぁぁぁぁぁ!!


 「ひかにぃ、リーダー。」

 「うん?」

 「かなちゃん、ホントに面白いね。」

 「彗人が言ってた通り。」

 「見た感じは、キリッと美人なんやけどな。」

 「まーた固まってるし。」


 奏の目の前で、手をひらひらする流星。こりゃ一旦引くしかないか、と思った瞬間、背中に悪寒が走って後ろを振り返った。光里と煌は、流星に釣られて同じ方向を見る。なんだろう?何か良くないものが近づいてくるような胸騒ぎ。視線の先では、どよめきが起こっている…?


 人混みをかき分けながら、周りの人達より頭一つか二つ分くらい大きな人物が、じりじりとこちらに近づいてくる。眼帯をしているが、していない方の目があり得ないほどに光っていて、目からビームでも出てきそうな程の目力だ。


 「あれ?あの格好って…。」

 「グロ執事のジャックやなぁ。」


 説明しよう(※注:煌)!グロ執事とは、ジャックと言う名の殺し屋執事が主人公の、今大人気のアニメである!多分あの人は、ジャックのコスプレをしているようだ。写真を撮る音や、黄色い歓声がすごい。その道では有名な人なのかも?


 「明らかにこっちに向かってきてるよな?」

 「なんで?」

 「分からん。」


 三人は混乱し始めた。奏は未だ動かず、向こうからはジャック(の姿の知らない人)。すると、ジャックが大きな声で叫んだ。


 「かーなーでーーーー!!!!」


 その声で、ジャックを取り巻いていた人だかりがさっと引いた。T//Sの三人が一斉に奏を見ると、今までなんとか保っていたパーカーフェイスが、一気にぐにゃりと歪んだ。


 「亜弥(あや)…!?なんでここに!?」

 「ゆっちゃん(柚月のこと)に連絡もらって、イベント会場から飛んできたよ!!何よその格好!!かわ…いや綺麗…いや美しすぎるっ!!」


 柚月…この一ヶ月くらい、こいつにバレないように根回ししてきたあたしの努力を…なぜ踏み躙ったぁ……。


 「えぇーっと、かなちゃん?この方は?」

 「あ、旦那です。」

 「「「旦那ぁ!?」」」


 見事に三人の声が揃った。


 「何あんた、今あたしの奏ことを、かなちゃんだなんて馴れ馴れしく呼んだの?」


 流星は、目を疑った。亜弥の周りに、"ズゴゴゴゴゴ"という文字が浮かび上がり、灼熱の炎が見えたからだ。割と肝が座っている方の流星だが、ジャックのコスプレ姿も相まって、子犬のように怯えている。


 「亜弥、ちょっと向こう行こう。」


 奏は、笑いながらも亜弥にしか分からないように圧をかけ、半ば強引に人気(ひとけ)のないところへと突き進んでいった。


 取り残された三人は、奏と亜弥の後ろ姿を見ながら、しばらく茫然と立ち尽くしていた。


 「え、何が起こったの?」

 「うーん…ちょっとよくわかんない。」

 「かなちゃんて、結婚してたんだね。」

 「そうみたいやなぁ。コスプレ長身おねぇと。」

 「意外過ぎる!!でもめちゃくちゃお似合いじゃなかった!?」

 「それな。」


 煌は、流星の肩にぽん、と手を置き、一言。


 「どんまい。」

 「うわうざっっ!!」


 人妻でもワンチャンあるかもじゃん、と、心の中でこっそりほくそ笑む流星であった。

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