4⭐︎壁の花!?になります。
行きたくない憂鬱だ時間よゆっくり進んでくれ…と願えば願うほど、あっという間に過ぎ去ってしまうのはなぜなのか。
(ついにこの日が来たか…。)
パーティー会場の門の前に立ち、その全貌を見上げて、デジャブ感を味わう。前回は、何が起こるか分かっていなかったからこその不安感や恐怖感があったが、今回はまた別の意味のそれらが、心臓を跳ね上げている。ここに、音楽界や芸能界の有名人達がわんさか集まって、アイドルと親友の結婚を祝うというのだから…人生何が起こるか本当に分からない。ちょっと前のあたしなら、自分がこんなところに来るなんて思いもしなかったのに、どこで徳を積んだんだか運がいいんだか、とにかくすごいことが起こっていて動悸が止まらない。もちろん今日も、美容院では「まともに見えるようにしてください!」を繰り出し、パーティードレスは、「かなちゃんに絶対似合うから!!」と、柚月が手配してくれたものを装着。ちょっと背伸びしすぎな格好になった気もするが、今日はそれぐらいがちょうどいいのかもしれない。
会場に入って受付を済ませ、広いホールに案内された。すでにたくさんの人で賑わい、あちこちに有名人がいて、目が回りそう。柚月の家の知り合いとは、少しだけ顔見知りな人達がいて、ポツンと一人になることは免れた。しばらく話していると、会場の照明が暗くなり、会場の至る所にあるスクリーンに、オープニングムービーが流れ出した。しかも、使われている曲がT//Sの神曲『縁』。
(さすが柚月。曲もあいまって、うっ…涙が…メイク落ちるから我慢しなきゃ…!)
目力ギンギンの奏。照明が暗くて周りにはバレずに済んだ。
ムービーが終わると、アナウンスが流れ、大きな扉から柚月と彗人くんが登場した。柚月も彗人くんも、上品な水色のドレスとタキシードに身を包み、文字通りの"お似合いな二人"。彗人くんのメンカラってとこも熱い。照れくさそうに、それでも目一杯幸せそうに微笑み合う二人を見て、我慢しきれずに涙があふれた。いや、どう頑張っても我慢できるわけがないんですよ…。
かしこまった挨拶や乾杯などが終わり、食事&歓談の時間が訪れた。食事はビュッフェ方式で、座れる場所もあるが立食パーティーのように、立ち話をしながら飲んだり食べたりするスタイルのようだ。柚月達のところまで挨拶に行こうと思ったが、この人混みの中、あんな遠くにいる二人のところまで移動するのに、なかなかの勇気がいる。たどり着ける気がしない、よし、挨拶はまた改めて!と開き直り、食べたい物をささっと皿に盛り、右手に皿、左手にシャンパンを持ちながら居場所探し。すぐ近くの壁側に、小さなテーブルが置いてある場所を見つけてそこに陣取り、遠くに見える柚月達を眺めながら、食事とシャンパンを楽しむことにした。
(遠くから見ても綺麗だよ、柚月。)
また目頭が熱くなってくるので、パクパクと食べ物を口に運ぶ。
(え、何これ、美味しい!美味しすぎる!!)
食べ物が美味しいだけで、人は感動が出来るのだから、すごい。ただ、高級な場での食事の味に慣れていないのと、柚月の準備してくれたドレスがなかなかタイトなので、沢山は食べられない。シャンパンも、炭酸が入っているのですぐお腹がいっぱいになってしまう…うぅ…飲み食い以外にやることがないのに…!
ありがたいことに、バックミュージックがT//Sのインストルメンタルなので、脳内フェスを開催。最初は、周りの目が気になって目線が泳ぎまくっていたが、慣れたら案外平気になってくる。視線がちくちく刺さりはするが、話しかけてくる人はおらず、一人時間を堪能する余裕が出てきた。
一方その頃。
煌、光里、流星の三人は、彗人と柚月の元に来ていた。
「いっくん、おめでとー!」
「ありがとう、流星。」
「なんか、いつもより盛れてるね?」
「そうか?実は、衣装もヘアセットも柚月プロデュース。」
「えっ!?柚月ちゃん天才すぎない!?」
「そんなことないですよっ!!でもほら、伊月くんはずっと推しだったので、あーしたいこーしたいが止まらなくて…。」
箱推しの奏と違って、柚月はT//Sにハマってからずっと伊月彗人推しだった。まさか、その人が何度か会ったことのある人で、まさか、結婚することになるとは…柚月は、人生でこんな幸運なことはない、幸せの絶頂はここなのか!?と、内心では今後の生活が怖くもあった。
「彗人の潔癖はなかなかだけど、柚月ちゃんそこらへんは大丈夫?」
「ご心配ありがとうございます、光里さん。あたし、これでも音楽一家の一人娘なんで、花嫁修行は一通りクリアしてます!」
「ほー。そりゃどえらい自信。」
「煌はそうやってすぐおちょくらないの。」
「光里はすーぐそうやっていい人振ろうとするー。」
「リーダーやめときなっ、後で痛い目見るんだからっ!」
四人が和気藹々と話すのを見て、柚月は、相変わらず仲良しだなぁ、と、思う。初めてガチプライベートで会った時も、この空気感だった。長い間、時間を共にしてきた彼らだからこそ、醸し出すことのできるこの空気感。
(やっぱり、好きだなぁ。これからも推しますよ、T//S!ま、最推しは伊月くんだけどね。)
この先のことを思うと不安は拭えないが、間違いなく、今一番幸せなのは自分。伊月の横顔を見て、絡ませていた腕にぎゅっと力を込めた。
「柚月?」
「あ、ごめん、痛かった?」
「いや。そういえば、かなちゃんは来てるのか?」
「うん、来てるよ!まだちゃんと挨拶できてないけど、あたしの準備したドレス着て、あっちの端っこの方でご飯食べてた。」
「すごいな、あんな遠いのに。」
「遠くからでもわかっちゃうんだなぁ〜。」
「なんだその言い方。嫉妬させたいのか?」
「えへへ。」
二人のやりとりを見ながら、煌と光里は顔を見合わせた。こんなに柔らかい表情の彗人を、今までに見たことがあっただろうか。柚月という女性が、彗人にとってかけがえのない存在なのだと、言葉を交わさずに二人は理解した。その様子を見て、ムスッと口を尖らせる流星。
「ねぇねぇ、早くかなちゃんに会いに行こうよー。」
「お前…主役よりもそっちが目的なんか。」
「お祝いならもうたくさんしたじゃん!後ろもつかえてるみたいだし。」
見ると、大して時間は経っていないのに、挨拶待ちの列が出来ていた。
「一人で暇してると思うんで、会いに行ってあげてください。泣いて喜ぶと思いますよ。」
「リーダー、ひかにぃ、行こっ!」
「分かった分かった。二人とも、改めて、おめでとう。」
「うちの彗人をよろしくな、柚月ちゃん。」
「はい!」
遠目からの大体の居場所と、おおまかな外見を教えてもらい、T//S三人で"かなちゃん"探しを始めた。
さて、そんなことを知らない奏はというと。
(何この神セトリ…絶対柚月が考えたな…。)
脳内フェスを堪能していた。もちろん、ポーカーフェイスのまま。T//Sメンバーがあたしに会いたいと言っていたようだが、接触してくるような気配もなく、変に身構えていても疲れてしまうし、この時間を楽しむことにした。美味しそうな料理やスイーツの誘惑に負けて、二回くらいこの場所を離れたが、戻ってきても誰かがいるわけでもなく、お開きの時間までこの場所にお世話になろうと思う。そんなわけで、彼女は油断し切っていた。
「"かなちゃん"?」
ふいに呼ばれて、声のする方を見た瞬間、飲んでいたシャンパンが変なところに入り、むせてしまった。




