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3⭐︎ウェディングパーティーに招待されました。

 最近のメディアのざわつきは、すごい。T//Sの事務所が、伊月彗人と一般女性との結婚を発表したからだ。祝福の声が上がると同時に、熱烈なファンの心無い誹謗中傷も飛び交い、ファンマナーがどうとか、アイドルの在り方だとか、あちこちで論争が起こっている。あたしは、自分が無関係だったら、「またなんかやってんなー」ぐらいで済ませる話だが、箱推しのアイドル、さらにはお相手が自分の親友…おさまらない怒りが、フツフツと込み上げてくる……!!


 「せんせー?どうしたの?」

 「うんっ!?」

 「おかおがこわいよ?」

 「えっ、そんなことないよっっ!!」


 仕事に集中できないほどの怒り。でも、アイドルとの結婚なんて、やっぱりそういうふうになるものなのかなぁ…。


 「せんせー?」

 「うんっ!?」

 「だいじょうぶ?」

 「だーいじょうぶっ!!ほらっ、こんなに元気だよー!?」


 得意のアクロバットを決めて、周囲の子ども達の視線をばっちり奪ってみせた。あたしみたいなやつでも、保育園の中でなら人気の先生(アイドル)やってるわ。


 あのホテルでの出来事があってから、何かが狂い出しそうな予感にビクつく日常にも慣れてきた頃、柚月からなんとも受け取りがたい招待状を突きつけられている。金曜夜八時の馴染みのバー。招待状は、エフェクトがかけられたように眩く輝いている。


 「柚月…まさかそれって……。」

 「ウェディングパーティーの招待状だよ。」

 「だよねぇぇぇぇ…!!!!」


 ズシャァァァァ(カウンターに崩れ落ちた音)


 「結婚式は身内だけって言ってたけど、パーティーは盛大にやるのね…?」

 「そうなっちゃった⭐︎」

 「いやその語尾の"⭐︎"があざといぃぃぃぃ!!」


 再びズシャァァァァ


 「そのパーティーってさ…柚月とか彗人くんの知り合い…つまり音楽のプロ達がいっぱいくる感じでしょ!?あたしみたいな一般ピーポーは…煌びやかさに蒸発しちゃうよぉぉぉぉっ……!!」

 「かなちゃんならそう言うと思って、遠回しに断ろうと思ったんだよね。でも、伊月くんの話だと、T//Sメンバーがかなちゃんに会いたがってるみたいなの。」

 「ふぇ?いやいやいや…なんで??」

 「わかんない…。でも、すごいことじゃない?推しが自分に会いたがってるんだよ??」

 「確かにそれは…すごい話だ…。」


 彗人くんが、あたしのことをどういうふうに伝えたのかは疑問だが、イベントでもライブでもなく、箱推しアイドルに会える…これはなかなかラッキーなことではないか!?


 柚月は、脳内お花畑に没入してだらしない顔になっている奏をパシャリ。


 (ほんと、かなちゃんて普段はクールビューティーなのに、あたしといる時にそれが崩れるとこ、好き♡)


 写真フォルダ内には、奏の百面相がずらり。一緒に写ってる写真もたくさんある。どんなにつらいことがあっても、奏の写真をながめていれば、立ち直れる柚月であった。


 「でも待って、こんなうまい話には罠が…あたしを蒸発死させる気だな!?」

 「あははっ、何それぇ。」

 「丁重にお断りしたい…。」

 「えぇ…でもさぁ、向こうから会いたいって言われてるって、なかなかないよ?パパッと会って、T//Sへの愛語っちゃえば?」

 「そんな…簡単に言うけどさぁ!!」

 「ごめん、ちょっと意地悪しすぎた。」


 ケラケラ笑っていた柚月の顔が、少しだけ曇る。


 「柚月?」

 「まぁ、無理強いはしないよ。でも…でもね、あたし、めちゃくちゃ緊張してて。だって、伊月くんちの家族も、親戚も、知り合いも、みんな有名な人達で、芸能人とかもいっぱいくるんだよ!?うちの家族とかもそこそこ有名だから、音楽のプロとか芸能人の知り合いとかもいるけど、その人達と会うのですら若干緊張するのに、挨拶とかもしなきゃいけないと思うと…ゲロ吐きそうだし!!かなちゃんなら、招待しても断るんだろうなぁって思ってて、それでも、かなちゃんが来てくれたらいいのになぁって!!思ってるんだよ…。」


 柚月がこうやって、顔を真っ赤にして早口になるのは、本音を語ってる証拠。そうだよね、柚月もアイドルと結婚することが決まってから、心の中は忙しないよね。あたしなんかがパーティーに参加して、会場の片隅にいるってだけで、柚月の力になれるかは謎だけど……もうなるようになれ、だ。


 「分かったよ。それちょうだい。」

 「え?」

 「招待状。」

 「かなちゃん…!!」


 柚月の、クリックリの大きな瞳が、うるうると輝いた。まんまと乗せられた感も否めないが、T//Sメンバーにも会えて、美味しいご飯とお酒が楽しめるなら、幸せな時間を過ごせるに違いない!うん!もうそう言い聞かせるしかないわ!!


 「ありがとうかなちゃん!大好きっ!」

 「もー、調子いいよなぁぁぁぁ!!」


 抱きついてきた柚月を、当たり前のように抱きしめた。



/



 同刻。歌番組の収録後の楽屋。


 「つーかーりーたー。」


 ソファーにだらーんと体を預ける、末っ子・吉良流星。


 「まだまだやな流星!鍛え方が足りねぇのよ!」


 ダンベルを片手に声を張る、リーダー・橋屋煌。


 「うわでたよ、リーダーはほんっと暑苦しいっ!!」

 「そんなひょろっこい体じゃ、アリーナツアーもたないぞー。」

 「えー!?ひかにぃまでー!!」


 末っ子の隣に座り笑顔で圧をかける、最年長・永川光里。


 「流星は細いっていうか、薄い?平べったい?よな。」

 「ねーえっ!いっくんにまでそんなこと言われたくないんだけど!!」

 「いや、その体型キープしてんのすごいよ。」

 「えっ!?え、ありがとう…。」


 生真面目王子・伊月彗人にしれっと褒められ、ガチ照れする流星。それを見て笑う光里。


 T//Sは、ビジネス仲良しではない。下積み時代からメンバー同士で意見を出し合い、時にはぶつかり合いながら、切磋琢磨してデビューを勝ち取った。一時期はシェアハウスで共同生活を送り、家族よりも濃密な時間を共に過ごしてきた四人。辛い時期も、四人で支え合って乗り越えてきた。それぞれの性格や癖などが分かりきっているからこそ、阿吽の呼吸でパフォーマンスが出来るのだ。


 「あ。」


 彗人が一声発して、その表情をみれば、他三人は誰からの連絡なのか一瞬にして理解する。


 「愛しの柚月ちゃんですかー?」

 「うん。"かなちゃん"、パーティー来てくれるって。」

 「え、まじで!?やったー!」

 「噂の、"おもしろ美人"ちゃん?」

 「俺そんなふうに言ってたか?」

 「要約したらそんな感じじゃん。」

 「柚月ちゃんの"かなちゃん"愛がすごすぎて、いっくん嫉妬しちゃうんだよねぇ。」

 「そこまでは…いやでも、あながち間違いではないか…。」

 「わー!!いっくんにそんな顔させる子、早く会ってみたい!!」


 三人の会話を聞きながら、煌は鏡の前でダンベルを上げ下ろししている。


 (まさか、彗人が結婚するとはなぁ…。俺を差し置いて。)


 ダンベルを握る手に、より一層力が入る。でも、結婚に年功序列は関係ない。メンバーの幸せを一緒に祝えるのは、最高に気分が上がる。光里の時のように。


 「そういや、ウェディングパーティーって、いつやっけ?」

 「来月頭の土曜日。」

 「あんま時間ないのな。招待とか準備とか、大丈夫なん?」

 「そこは、柚月が頑張ってくれてて。」

 「おーおー、ファンの子がそんな顔見たら、みーんな爆発しそうやなぁ。」

 「煌くん、あんまりからかわないでもらっても?」

 「こっわ。」


 光里は、コーヒーを淹れながら、じゃれているメンバーをそっと見守る。煌には、長年付き合っている彼女がいるが、アイドルを辞める時に籍を入れると決めているらしい。もう五年も一緒に住んでいて、後何年アイドル続けるかも分からないのに、それを承諾している彼女はすごいと思うし、馬鹿げているとも思う。


 (僕なんか、早く結婚したくて待てなかったもんなぁ。)


 光里は、デビュー前に結婚した既婚者アイドルである。


 対して流星は、結婚願望はなく、来るもの拒まずで遊びまくっている。ちやほやされたい、愛情に飢えたやつなのだ。それでも、光里や彗人が結婚したり、煌にも一生添い遂げる約束をしている相手がいることは、多少は羨ましくて、自分にもそんな相手が現れるのだろうかと、淡い期待を抱いている。


 ("かなちゃん"、味見できたりしないかな。)


 果たして奏は、ウェディングパーティーを乗り切れるのか!?

【メンバーの呼び方】


⭐︎橋屋煌 一人称:俺

 永川光里→光里

 伊月彗人→彗人

 吉良流星→流星

   ※下の名前呼び捨て!


⭐︎永川光里 一人称:僕

 橋屋煌 →煌

 伊月彗人→彗人くん

 吉良流星→流星

   ※彗人だけくん付け!


⭐︎伊月彗人 一人称:俺

 橋屋煌 →煌くん

 永川光里→光里さん

 吉良流星→流星

   ※煌はくん付け、光里はさん付け!


⭐︎吉良流星 一人称:僕

 橋屋煌 →リーダー

 永川光里→ひかにぃ

 伊月彗人→いっくん

   ※末っ子らしい呼び方!

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