1⭐︎箱推しのアイドルがいます。
Tears of Stardust。略してT//S。十周年を迎えた四人組の男性アイドルグループだ。デビュー当時から、揃うダンスや安定した歌声に定評があり、男女問わず幅広い年齢層のファンがついている。メンバーとおおまかなプロフィールは、以下の通り。
⭐︎熱血リーダー、橋屋 煌。
30歳。身長174cm。
O型。熱血だがどこか抜けてる。
運動神経抜群。ズバ抜けたダンススキルを持つ。
メンバーカラーは黄色。
⭐︎おおらか最年長、永川 光里。
33歳。身長180cm。
AB型。裏の顔がありそう!?
ファッションや流行に敏感。モデルもしている。
メンバーカラーは紫。
⭐︎生真面目王子、伊月 彗人。
28歳。身長176cm。
A型。"ド"がつく几帳面。
歌唱力がとにかくすごい。
メンバーカラーは水色。
⭐︎自由奔放末っ子、吉良 流星。
26歳。身長172cm。
B型。あざとい。
ドラマや映画に引っ張りだこの元子役。
メンバーカラーはピンク。
もともと、幼馴染であり親友の柚月がハマっていたアイドルで、高校時代にその魅力を熱弁される毎日を送っていたら、なぜか自分も沼ハマしていた。昔から、"一番"を決められない優柔不断なあたしは、もちろん箱推し。個人仕事もそれぞれの特技を活かしてやっているが、みんなそろってわちゃわちゃしてるのを見ているのが好きだ。
さて、箱推しのアイドルがいるあたしこと穂坂奏と、親友の加賀 柚月のプロフィールも、一応以下にまとめておく。
★穂坂 奏。
26歳。身長160cm。
社会人6年目の中堅保育士。
典型的なO型。大雑把。
中高バレーボール部。体力オバケ。
★加賀 柚月。
26歳。153cm。
社会人6年目のOL。
O型に間違われるA型。
音楽一家の一人娘で、大体の楽器を演奏できる。
柚月は、お父さんがバイオリニスト、お母さんがピアニスト、おじいさんは作曲家、おばあさんは声楽家という、音楽一家の一人娘。赤ちゃんの頃から、それこそ、お母さんのお腹の中にいる頃から、超一流の音楽に触れていて、物心ついた時から、どんな楽器を与えても、なんでも弾きこなせるスーパーキッズだったそう。かたやあたしは、フツーの家庭に産まれた、フツーの子ども。兄がいるからか、ヤンチャが過ぎるのを憂いた両親は、有名ピアニスト(柚月のお母さん)がたまたま近所でピアノ教室を開くというので、そこに通わせた。家族ぐるみで仲良くしていて、かれこれ二十二年の付き合いになる。ただ、両親の願いむなしく、あたしはお淑やかに育っていく子じゃなかったようで、ピアノはニ年くらいで辞めて(親にはよく二年も続いたなと言われた)、半分諦めたように、そこらへんで駆け回って泥だらけになるあたしを見守ることにしたようだ。柚月は、あたしとは真逆というか、いいとこ育ちのお嬢さんという感じだったが、顔の泥を笑って拭ってくれる柚月は、気づくと傍にいて、行動を共にする親友になっていた。
あたし達のことはこれくらいにしておいて、T//Sの話に戻そう。デビューから十年経った今も、高い人気を誇るのは、なぜか。彼らは、完璧であるように見えて、ほんの少しの綻びがあるからだと、あたしは思っている。
例えば。リーダーの煌くんは、ダンスに対する思い入れがすごくて、ほかのメンバーにも熱血指導している。でも、歌番組で歌詞間違えをするおっちょこちょいさん、バラエティではアホなところが垣間見える。光里さんは、スラっとした長身を活かして、モデル活動にも力を入れている。どこか余裕があり、おおらかで、にこやかな笑顔が彼のデフォだが、時折、冷徹な眼差しと短めのキラーワードで、その場の空気を凍らせてしまう。彗人くんは、ピアノが上手で歌唱力が高く、音楽センスの塊。でも、真面目すぎるが故に、バラエティでの失敗が目立つ(それをメンバーにいじられて盛り上がるので結果オーライだが)。あと、潔癖症すぎて周りが引く瞬間が多々ある。りゅーちゃん(吉良流星の愛称)は、百面相と言われるくらい、演技力が半端ない。でも、"可愛い僕"は何をしても許されると思っているのか、破天荒ぶりがエグい。
まぁ、誰にだって、"世間一般のイメージとは違う自分"って、いるよね。いわゆる"ギャップ"。T//Sのギャップは、人間味があって、見ていて飽きない。加えて、ダンスと歌の精度も良い。
彼らのデビュー曲、『星屑の涙』は、推し曲の一つだ。部活での過酷な練習内容に加えて、レギュラー争いでヒリつく人間関係…心身ともにズタボロで、部活を辞めようかと思っていた時、柚月が聴かせてくれた曲。初めて聴く曲なのに、前から知っていたような、懐かしいような旋律。耳に馴染む優しい歌声。何より、力の宿った歌詞に、涙が止まらなくなった。その時の柚月の慌てように、笑いも溢れた。泣き笑いしながら曲を聴き終わった後、「良い曲でしょ?」と言われて、「良い曲だね。」と返したその日から、柚月のT//S布教が始まった。
あれから十年。月日というものは、あっという間に過ぎ去っていくものだ。バレーボール熱は、高校時代で鎮火。やるよりも観戦派に。大学は、勉強と実習とバイトで目まぐるしく過ごし。今や社会人六年目、保育士としても六年目。推し活のために仕事を頑張っている、つらくても愛おしい、あたしの日常。
そんな日常に、刺激強め…というか衝撃的…というか、とにかくとんでもない出来事が、起こる。
ある日の金曜日。仕事終わり。柚月から、珍しくドレスコードのある高級ホテルに呼び出された。途方に暮れたあたしはすぐさま美容院に駆け込んで、その後近くのドレスショップに寄り、どちらでも秘技「まともに見えるようにしてください!」を繰り出した。ドレスショップから飛び出て、指定の場所まで走っていると、周りの人の視線が刺さる刺さる。「この格好、変?」と心が折れそうになったが、時間に余裕がなくてひたすらに走った。なんとか約束の時間に間に合って、指定された高級ホテルの玄関に立ち、その全貌を見上げて、生唾を飲んだ。こんな場所にわざわざ呼び出したのは、何故か。…今あれこれ考えても仕方がないか。これからそれが分かるんだから。
挙動不審になりかけながらも、ホテルマンに案内されて、ある部屋の前まで来た。呼吸を整えてから扉をノック。少しすると、ひょっこりと柚月が顔を出した。
「いらっしゃい、かなちゃん。」
柚月は小さな声でそう言いながら、申し訳なさそうに笑うので、変に緊張してガチガチになっていた肩の力が抜けた。
「すぐに入って。ロックしたいから。」
そういうや否や、柚月はあたしを強引に扉の内側に引っ張り入れ、廊下に顔だけを出して周囲を確認後、扉を閉めた。あたしの方を振り返って、目をぱちくりとさせながら、柚月は言う。
「かなちゃん今日どうしたの?めちゃくちゃ綺麗…てゆーか、かっこよすぎ…。」
「お世辞はいいよ。柚月はめちゃくちゃ可愛い。ふわふわ。」
「えっ、そっ、そんなことないって!!」
「もー、照れちゃって〜。」
「からかわないでよぅ!今日はちょっと真面目な話になるから…いつもの調子だとちょっと……。」
「え?」
柚月の表情は、なんとも言えない表情。これからこの部屋で、どんな重大発表がされるというのか。
「とりあえず、ここじゃアレだから…奥に進んで、見てもらった方が、早い…かも…。」
「見る?」
「見るというかなんというか…うぅ…。」
「柚月?」
色々問いただそうと思ったが、やめた。柚月のこの感じ。これは、本当に大真面目な話だ。腹を括るしか、選択肢はないようだ。
ゆっくりと、部屋の中心部へと歩みを進めていく。柚月はなぜか、私の後ろをついてくる。
進行方向の右側にある大きな鏡に、まだ壁のせいで目視できない左側部分が映っている。ソファーに座ってじっとしている人物が、いる。
その人物が誰かわかると、足がすくんで動けなくなった。
「かなちゃん?」
立ち止まったあたしに、柚月は心配そうに声をかけた。
「ちょっと待って柚月。あそこにいるのってまさか…え??」
混乱、混乱、混乱。何?ドッキリ?
「かなちゃん…その…まさかなの。」
「まさか…まさか……え?いや、え?ほんとに?本物?」
「正真正銘の本物です…。」
二人でこそこそしているのが気になったのか、部屋にいる人物がこちらの様子に気づいて近づいてくる。あたしはそれに気づけなかった。
「柚月?」
一声で、その人物が誰なのか、理解した。
「い、伊月彗人くん…。」
「あ、はい。そうです。」
ピシャーン(文字通りの稲光)
箱推しアイドルグループのメンバー、その一人が目の前に突然出現。稲妻に打たれた衝撃と、オーラの破壊力に圧倒されてしばらく固まっていたが、はっと我に帰る。親友を…あたしの親友をっ、呼び捨てにしていた!?あのT//Sの伊月彗人が!?なななななぜっ!?
思考がオーバーヒート中のあたしに、柚月は追い打ちをかける。
「実は…あたし、結婚することになったの。」
ピシャーンッッ(二度目)
「けっ、けけけけ結婚っ!?」
「うん…。」
「結婚って…誰と誰が…!?」
「あたしと、伊月くん。」
なぜに!?なぜ一般ピーポー(なかなかのセレブだが)の柚月と、大人気アイドルが!?結婚!?
「何がどうしてそうなったーーーーーっ!?」
頭を抱えて叫んだ声は、ホテルの一室内でエコーがかかったように反響した。




