憂鬱な体育
体育はどうにも憂鬱だ。
屋外から体育館に切り替わったとはいえ、やっぱり寒い。
今やっているのはバスケで、選択科目AとBに分かれている関係で、同じバスケを選んだ女子とも合同になる。ちなみにもう一方はフットサルだ。
俺がバスケを選んだ理由は単純で、あまり走らされないからだ。
役割も基本はディフェンス担当で、攻めはバスケ部や運動神経のいい連中が率先してやってくれる。
本来なら第4クオーターまである試合時間も、授業では第2クオーターまでに短縮されている。
今は後半の7分あたり。俺のチームにはバスケ部が二人いるおかげで、ディフェンスがほとんど動かなくていい。
つまり俺からすれば、ほぼ休憩時間みたいなものだ。
ボールの行方だけは目で追いながら、半分ぼんやりしているのがまさに今だった。
隣のコートでは女子たちが同じく試合中で、男子ほどガツガツしておらず、どこか緩くて楽しそうに見える。
よく見ると、その輪の中に花宮の姿もある。
いまはディフェンスに回っているようで、ボールを持つ相手と向かい合っていた。
普段とは違い、今日は髪を高く束ねていて、そのポニーテールが尻尾みたいにゆらゆら揺れている。
いつも髪を下ろしているからこそ、その変化が強く目に映る。
白い体操服が、色素の薄い髪とスラリとした体つきをいっそう引き立てていた。
ブレザー越しではわかりづらいが、意外と胸もあるんだな──そんなことを、誰にも悟られないように胸の内で呟く。
そんな取り留めのないことを考えていると、ボールが俺の足元へポン、と跳ねながら転がってきた。
向こうのゴール下に人だかりができているところを見るに、リバウンドが大きく跳ねた結果だろう。
ここで鮮やかに突破して鮮やかなシュートを――なんて、そんな芸当ができるはずもなく、俺はとりあえず軽くドリブルして数歩進んだだけで、すぐ両手でボールを抱え込んでしまう。
このまま動けば普通にトラベリングで反則だ。
だが前線にいるバスケ部の連中は敵にきっちりマークされていてパスは無理、しかも目の前にはゴリラみたいな体格のやつがボールを狙って迫ってくる。
……俺はこういう場面での正解を知らない。
半ばパニックのまま、ボールを持つ腕をぶんと振り上げ、そのまま思い切ってゴールへ投げ放った。
ボールは一応きれいな放物線を描いてゴールまで飛んで行ったものの、リングには届かず手前で失速し、床に落下する。あと三メートルほど足りなかった。
幸いにも、落下したボールを味方がすぐ拾い上げてくれたおかげで、そのままシュートが決まり2点追加された。
「幸村! さっきのスロー、めちゃくちゃよかったじゃん! もしその気あんならバスケ部入らね?」
歩み寄ってきたバスケ部のやつが、俺の肩をポンと叩きながらそんな勧誘じみたことを言ってくる。
だが俺はわかっている。
これで気を良くして本当に入部したところで、きっと空気や腫物のような扱いを受けて、「なんで入ったの?」と陰で言われるのがオチだ。要するにこれは社交辞令。本気にするものじゃない。
「はは、考えとくよ……」
それがこの場の最適解。
その後まもなく試合は終わり、俺たちのチームの勝利で締めくくられた。
そりゃそうだ。バスケ部が2人もいれば、勝ち筋なんて最初から決まっている。
得点ボードとバスケットボールを体育倉庫にしまった俺は、倉庫の扉を閉め、鍵をかける。
日直の仕事だ。日誌や体育の後片付けが特に面倒くさい。
体育館のざわめきが少しずつ遠のいて、代わりに次の授業の重さが肩にのしかかってくる。
次の授業は数学だ。
ほとんど動いていないとはいえ、筋肉を酷使した直後に数字の羅列。どう考えても相性が悪い。
黒板の前で淡々と公式を並べられたところで、頭はまだ跳ね回るボールの軌道を追っているに決まっている。
「中間テスト対策プリント、また増えるんだろうな……」
体育館を出ながら思わずため息が漏れる。
最近は休み時間のたびに誰かが「次の数学ヤバくね?」だとか「数学マジだるい」などと言っているし、先生もやたらと小テストをぶっ込んでくる。たぶんクラス全体の平均がよろしくないんだろう。
着替え終わり、予冷ギリギリで教室の前まで来ると、すでに何人かは席に着いてプリントを広げていた。
みんな疲れているはずなのに、やっぱりテスト前になると空気がちょっとだけ張り詰める。
俺も自分の席に腰を下ろし、机に肘をつきながらプリントを眺める。
席に着いただけで眠気の波が体を飲み込みそうだが、なんとか頬を叩いて気を引き締める。
この授業が終わればもう放課後だ。日誌を提出しないといけないが、それはどうとでもなる。
さて、頑張ろうか。
インフルが流行っているのに感染症だかで撃沈してた、よ。。(名前忘れた)




