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ファミレスとイジワル

 一旦場所を移し、俺と志崎――もといYuuはファミレスに入っていた。

 どうやら彼女も、合流前にどこかで昼食を取ろうとしていたらしい。

 そのタイミングで、たまたま俺を見つけた、と。

 ……それにしても、いつ、俺とムー太郎が同一人物だと気づいたのか。

 それを聞きたいのに、こっちは全然落ち着けない。

 対照的に、志崎は鼻歌でも歌い出しそうな調子でメニューを眺めている。


「何食べるか決めた?」

「あ、えっと……じゃあ、このピザと、タラコパスタでお願いします」

「OK。じゃああたしはド定番のドリアと小エビのサラダ……あと辛味チキンにしよっかな」


 言うが早いか、店員を呼んで注文を済ませてしまう。

 ……完全にペースを握られている。

 本当なら、いつも通りに接するつもりだったのにそんな余裕は、最初からなかった。

 まさか、Yuuの正体が篠崎だなんて。

 通話越しの声は確かに中性的だった。

 でも一人称は「ボク」だったし、てっきりそんな個性の男子だとばかり思っていたのに。


「びっくりした?」

「すごく……」


 短く答えると、志崎はくすっと笑う。


「ふふ。今、なんで分かったのか気になってる顔してる」


 図星すぎて、無言で頷くしかなかった。


「最初は全然分かんなかったよ? だって君、クラスでほとんど喋らないし。先生に当てられても、ぼそぼそだし」


 ……地味に刺さる。


「でもさ。中間テストの時、放課後、シノと勉強してたでしょ? あれ、たまたま見ちゃって」


 そこで一拍置いて。


「あ、この声は! って、確信した」

「……だから、あの時?」


 志崎はにやりと笑う。

 だからあの時、花宮にもお礼を言ってあげてと?

 結局聞けず仕舞いだった先月のナゾがようやく解明された。


「で。君とシノって、どんな関係?」


 志崎は身を乗り出して聞いてくるが、果たしてどんな関係かと言われてもな。

 ……友達だ。

 それ以上でも、それ以下でもないはずだ。

 しかし、志崎の細められた瞳は、俺の中のまるで何かを見透かされているようで、落ち着かない。


「……ただの友達、ですね」

「ふーん……シノって、可愛いじゃん?」


 唐突な話題転換。

 けれど、それは事実だ。


「はい、そう思います、ね?」

「なんで疑問形? まあでも……へぇ。ずいぶん素直に認めるんだね」

「だって事実ですし。そこで嘘つく意味もないので」


 思っていることを否定する必要はない。

 変に濁すほうが、よほど不自然だ。


「シノってさ、モテるんだよ?」

「知ってますけど……」


 だから何だ、と続けかけて、飲み込む。

 志崎の意図が、まるで読めない。


「付き合いたい、とか思わないの?」

「ないですね」


 即答だった。

 我ながら、迷いはなかった。

 花宮は確かに非の打ちどころのない美人だ。

 誰が見てもそう思うくらいには、整っているし、努力もしている。

 文武両道で、性格もいい。

 だからといって、付き合いたいとなるのは違う気がする。

 見た目がいいから。スペックが高いから。

 そんな理由で向ける感情なんて、軽すぎるのではないか、と。

 むしろ失礼だとさえ思う。

 花宮は、俺に「友達になりたい」と言ってくれた。

 だから俺にとっても、花宮は友達だ。それも、初めてできた、大事な友達。

 男女の友情が成立するかどうか――という話はあるが、少なくとも俺は、成立すると思っている。


「ごめんごめん。シノが仲良くしてる男の子だし、どんなふうに思ってるのか気になっちゃって」


 思春期男子に恋バナは少し心臓に悪い。


「まあ、君のことは一緒にゲームしてるんだから、知らないわけないんだけどね」


 さらっと言ってのけるあたり、本当にタチが悪い。


「あとさ、敬語じゃなくてよくない? なんか窮屈じゃない?」

「いや……その、まさかYuuが志崎さんだとは思ってなかったので。ちょっと緊張してるだけです」


 苦笑ともいえない曖昧な表情で言葉を濁す。

 今までは顔も知らない相手だったから、変に気を遣う必要もなくて、気楽に話せていた。

 だが、こうして実際に顔を合わせてしまうと、見知った顔だからかどうしても意識してしまう。

 同じ相手のはずなのに、まるで別人みたいだ。


「お待たせいたしました。ご注文の――」


 店員の女性の介入によって一度話が中断される。

 詮索され過ぎていて正直助かった。

 少なくとも篠崎が思っている関係ではないのだ。


「美味しそ~。じゃあ、食べよっか」

「はい」


 そして二人揃うようにして手を合わせ、いただきますをする。


「ん~、美味しい」


 嬉しそうに頬を緩める篠崎。

 早速彼女が口にしているのはドリア。定番であり、人気ナンバーワンの一品だ。

 ……そんなことをぼんやり考えながら、気づけば視線がそっちに向いていた。


「……なに? 食べたい?」


 胡乱げな目で見返されて、はっとする。


「あ、いや、そういうわけじゃ――」

「ふ~ん……?」


 じっと、試すような目だ。

 なんとなくだが、からかわれそうな気配を感じる。

 というか嫌な予感がする。


「はい。あーん」


 差し出されたスプーン。

 とろりとチーズの伸びたドリアが、目の前で揺れる。


「…………」


 やっぱりだ。


「ほら、あーん。それともイヤ?」

「いや……その……イヤっていうか……」


 距離が近い。

 スプーン越しに、ほのかにドリアの熱が伝わってくる気がする。

 こういうシチュエーションに慣れていない男にはハードルが高い。

 間接キスとか、女子はどうなんだ?

 普通イヤとか思わないのか?

 変にキョドっても余計からかわれるだけだ。

 腹を括るしかないのか……。

 こころなしか、スプーンとの距離が近くなっている気がする。

 口を開いて少しでも身を乗り出せばパクリといける。

 俺の視線はスプーンに釘付けで、頭の中は余計なことでグルグルと目まぐるしく回っている。


 ……ああ、もう!

 諦めて腹を括る。

 生唾を飲み込み、目をぎゅっと閉じて身を乗り出す。


 ――パクリ。


 …………。


 味がしない。

 というより、そもそも口には何も入っていない。

 そう、目の前にあったはずのスプーンは、すでに志崎の口の中に収まっていた。

 ゆっくりと顔を上げると、篠崎が肩を揺らして笑っていた。


「あはは、ごめんごめん。反応、可愛すぎ」


 ……男に対して可愛い、は違うだろ。

 じわじわと顔が熱くなるのを感じながら、睨みつける。

 けれどそんなの意にも介さず、志崎は楽しそうに笑い続けている。

 半年以上ゲームを介して一緒にいた相手なのだが、リアルで会うとこうも印象が変わるものなのか。


「……はあ」

「ごめんって! はいこれ、あげるから」


 志崎は慌てたようにドリアを掬い、俺に差し出してくる。

 今度は間髪入れずにかぶりつき、引っ込める隙を与えない。


「お、おお。今度は大胆」


 なめられて弄られ役になるのはごめんだからな。

 美味い。

 結局飲み込んだ後でようやく気が付いてしまった。

 ……これ、間接キスじゃないか。

 しばらく俺じゃあYuuには勝てそうになさそうだ。

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