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びしょ濡れの来訪者



「適当に……くつろいでてください。タオル取ってきます」

「は~い、お邪魔しま~す」


 ――女子を、家に入れてしまった。

 しかも、よりにもよって人気者の花宮詩乃を。


 二人そろって大雨でびしょ濡れになった俺たち。

 あの雨の中、花宮を送り返すわけにもいかず、結局、最も近い俺の家へ緊急避難させる形になった。

 俺は湿った靴を適当に脱ぎ、急いでタオルを取りに行った。もしかしたら入るかもしれないと、ついでに、風呂の湯も張っておこうと給湯スイッチを押しておく。


「はい、これ」


 リビングへ戻ると、花宮は既にリビングへ上がっていた。

 しかしソファに腰を下ろすでもなく、扉のそばで立ち尽くしている。

 何をしているのかと思えば、物珍しいものを見るかのように、俺の家の隅々を見回していた。

 普段から家事はこなしているから、部屋が散らかっているわけでもない。

 それでも、生活の痕跡を覗かれるようで、どこか居心地が悪く、ムズ痒かった。


「座ってていいのに」


 改めて明るい部屋の中で見る花宮は、やはり美人だ。

 少しあどけなさの残る童顔には、濡れた水滴が光を宿っている。そのせいか、不用意にドキドキさせられる。


「一応、風呂沸かしてるんだけど、入ります?」


 おっかなびっくりといった感じで、俺は彼女に声を掛けた。


「え! やった~、入る~!」


 言葉尻に音符でもついていそうなほどルンルンな口調に、思わず面食らってしまう。


「しばらくすると、沸くと思うので少し待っていてください」

「は~い」


 警戒心もなく、呑気に返事する花宮。

 よく、というとあれだが、よく男子たちをフッている子が、男の家でこんな能天気に寛いでいるのはどうかと思う。

 ソワソワと着替えの服を用意したり、スマホを触ったりして、俺にとって落ち着かない時間を過ごしつつ、ようやくピーッという風呂が沸いた音がした。


「沸いた~!」


 ……なんでそんなに楽しそうなんだよ。

 よくわからないまま、風呂へ案内する。


「あ……服は、きれいなものを用意しておいたので、脱いだやつはこの袋の中に入れておいてください」


 エコバックを彼女に手渡す。ビニール袋だとどうしても透けてしまうし、これが最善だ。

 

「わぁ、ありがと~」


 お礼をする花宮を横目に、脱衣所から去ろうとする俺。

 すると、服の袖を不意に指先で摘ままれた。


「……なんですか?」


 身長差ゆえに意図せず発生する上目遣いが目に毒だ。


「……洗ってくれないの?」


 一瞬、何を言われたのか全く理解できなかった。

 つまり、俺に体を洗えと?

 いや、爆弾発言だろ!

 年頃の一般男子にする冗談にしては心臓に悪すぎる。というか冗談なのか? これ。

 しかし、その瞳はどこか本気のように潤んで見えた。

 ……俺だって男だ。彼女にはまるでそう捉えられていないのかもしれないが、今度こそまともな理性を保てる自信なんてないぞ。

 だから、丁重に――それでも必死に、その甘美な誘いを断った。


「……ちぇっ」


 せっかくの機会がもったいない。そう思わなくもないが、やはり今日の花宮は様子がおかしい。

 普段の学校で目にする彼女は、清楚でおとなしい、おしとやかなイメージしか持っていなかった。

 それなのに、年頃の男子高校生の家に、いくら不可抗力のなし崩し的にそうなったとはいえ、こうも簡単に平然と上がりこむようなタイプだったのか?

 今のようなワンパクな雰囲気は彼女の秘めたる心のうちなのか? まるで幼い女児ではないか。


「じゃ、じゃあ俺は出てくんで」


 逃げるように脱衣所から出て、一息つく。

 このまま流されてしまえば、彼女を傷付ける行為に発展するのは目に見えてわかるだろう。

 それだけは絶対にダメだし、違うのだってわかる。

 気付けば心臓がやけにうるさい。そりゃそうだ……。


「……童貞すぎるだろ、俺」


 今はそれで助かったといえばそううだが、やはり女性耐性のなさすぎる自分に、心底うんざりするのだった。




 俺は濡れた服を自室に戻って着替えておく。

 いつもと同じようにTシャツと、ベルトを使わないゴム紐タイプのパンツスタイルなのだが、やはり人目があるせいで気になってしまう。

 髪を拭いたタオルは花宮が浴室から出てくるまで一旦放置。

 下手に脱衣所の方に入って風呂上がりの花宮に遭遇してしまったら事だ。

 俺はラブコメ主人公じゃないし、ラッキースケベをするつもりもない。


 しばらくすると花宮は上がってきた。

 魔が差した俺が風呂場に闖入することもなかった。

 さっきまでと同じように髪は湿っているものの、湯気がわずかに立ち上っている。

 着ているものは、俺が用意したTシャツと半ズボン。

 俺よりも背丈の低い彼女には丁度いいと思ったのだが、それでもTシャツはダボダボだし、半ズボンは脛辺りまである。

 ……さすがに下着までは用意できなかった。

 ヤバ!

 よく見ると……いや、よく見るのはまずいのだが、胸元が危ういことに気が付いた。

 当然、下着を付けていないからだろう。

 え、デカくね?

 制服じゃ抑えられてわからなかったし、いや、そんなことより……!

 俺はそそくさと自室へ行き、またそそくさとリビングへと戻ってきた。

 キョトンとする表情をする花宮にパーカーを差し出す。

 さすがにパーカーはデカすぎた。萌え袖どころじゃなさそうだな。

 これでようやく一安心だ。


「乾かして~」


 気が付かなかったが、彼女の手にはドライヤーが握られていた。

 脱衣所から普通に持ってきていたのだろう。

 甘えるように、萌え袖越しに手に持ったドライヤーを俺へ差し出してきた。

 ごくりと生唾を飲み込みながら、おずおずとそれを受け取る。

 嬉しそうにドカッとソファへ座り込む花宮。その拍子にソファがわずかに軋む。

 ソファの横にある延長コードのコンセントにプラグを挿し込み、風を出す。


「失礼しますよ……」

「は~い!」


 花宮の髪を微風で優しく乾かしていく。

 本来の手入れの仕方がわからないし、強風でなにかやらかしてしまっても困るからだ。

 

「気持ちぃ~」


 花宮は溶けるような声を漏らしている。

 なんだか介護をしているような……いや、娘を持った気分だ。世話が焼けるといったそんなイメージ。

 そう考えると、無駄に肩肘張っていた緊張が少し和らぐのを感じた。

 髪が長いと、手入れの時間は比例して長くなるんだろうな。

 詳しくは知らないが、長い人だとどれくらい有するのだろう。

 そんなことを考えつつ、10分ほどむらができないように当て続けているとようやく全体を乾かすことが出来た。

 仕上がった髪はサラサラで、普段の俺と同じシャンプーとリンスを使っているはずなのに、どうしてこうも差が出るのだろうか。

 それに、どことなく甘い香りがする気もする。


「えへへ、ありがと~」


 屈託のない柔らかな微笑みをたたえる花宮の瞳は、半分閉じかけていて、どこか眠たげだ。

 色々とはばかられるが、窓の先では相変わらずの大雨。


「……これは不可抗力、不可抗力」


 自分自身へ暗示でもかけるかのように小声で呟く。


「あの、寝るのなら俺の部屋を使ってください。リビングを出て左です」

「うん……」


 猫のような手で目を擦る花宮。トロンとしたその視線はおぼつかず、あまりにも甘い。


「一緒に寝てくれないの……?」


 俺の服の裾をひき、上目遣いという最強のコンボ。

 それを一身に受け、俺は誘惑に呑まれて――いや、それは無理だ!

 心の中で騒ぎ立てながら、どうにかなけなしの理性を総動員して丁重に断りを入れる。


「……ケチ」


 わざとらしく口を尖らせ、不満げな顔をしながらも、花宮は俺の言葉を聞き入れて、そのままリビングから寝室へと消えていった。


「……はぁ」


 盛大なため息がこぼれる。

 どうしてこうなったのだろう。

 天のいたずらか? 確かに天気はいたずらのように崩れたが、まさか心まで掻き乱されるとは思わなかった。

 普段の教室では決して見せない、家出の完全オフな花宮の姿。

 彼女はきっと、甘え上戸なのだろう。

 そのギャップは、もしかしたら俺だけが知る秘密なのかもしれない。

 クラス、ひいては学校中の男子が羨むであろう、貴重な一面。

 ……とはいえ、明日になれば「バイバイ」で終わるのだろう。

 そう思うと、少し残念に思う自分がいることがなぜだか無性に憎たらしかった。


「……あ、晩ごはん」


 すっかり忘れていた夕飯の存在に、またしても盛大なため息が零れ落ちる。


「……まあいいか」


 そう独り言ちりながら、ソファから腰を浮かせる。


「俺ももう一度風呂入ろ」


 他意はない。ただ、風邪をひきたくないだけだ。

 そう誰かに言い訳しつつ、俺は暖房ですっかり温まった体を風呂場に向けるのだった。


エピソードタイトル力が無いせいでchatGPTくんに考えてもらった

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