夜道
11月中旬ともなれば、夜の11時はそれなりに寒い。
俺と花宮は二人そろって薄いコートを着ている。ちなみに花宮には俺の持つコートを貸しており、サイズは若干大きいがフードがあるため顔を隠すには丁度いい。
いくら夜遅いとはいえ、クラスメイトや花宮のこと知っている相手に遭遇するのは面倒くさい。
花宮もそのことには承知してくれたため、コートを貸すことになった。そんな流れだ。
さっきまでゲームで盛り上がっていた雰囲気はすっかり鳴りを潜め、物静かだ。
大きなトラックが赤い尾を引きながら駆け抜けていく。
こうも静かだとやっぱり気まずい。
隣を歩く花宮は、家を出た時ほど元気な雰囲気が嘘だったかのように無言で――心なしか俯いているようにも見える。表情もフードを目深にかぶっているせいでよくわからない。
歩速もゆったりだ。
そういえば、花宮に彼女の家の正確な位置を聞いていなかったな。
俺の家と似たようなマンションに住んでいると、テスト勉強をしていた時に話してくれてはいたがそれまでだ。
わざわざ深堀するような話でもないとその時は思ったから、その時はスルーした。
……聞くだけ聞いておけば良かったな。
今は花宮の進む道を一緒に歩いているのだが、本当に辿り着くのか不安になってきた。
その理由はとても単純。
「幸村く~ん、ぎゅぅぅっ!」
これだ。
そう、家を出るまでは元気な花宮だったのに、今では幼児退行した甘えん坊の花宮に豹変していた。
腕に抱き着いてくるというあまりにも毒すぎる行動に、俺は唇を噛んで黙って耐えるしかない。
……フード付きを選んでやっぱり正解だったな。
「……家、こっちであってます?」
遠慮気味に質問するも答えは返ってこない。代わりに道の先をもう片方の腕を伸ばして示すのみ。
わからないから、指し示す通りに歩くしかない。
やがて閑静な住宅街へと入る。
花宮は以前マンションに住んでいると言っていたため、ここから見える3棟のうちのどれかだろう。
ここまで20分ほどかかった。花宮に合わせてゆっくり歩いていたため、距離にしても精々1キロくらいだろう。
案外近いんだな。
そんなこんなでさらに5分ほど。到着したのは高級そうな黒い外装のマンションだ。外から見るエントランスは、暖かい光を帯びており、俺たちを歓迎しているように見える。
花宮の足がここに向いたのだから多分このマンションであっているのだろう。
「カギ、ありますか?」
「あるぅ~」
ガサゴソと小さなポーチの中からカギを取り出す花宮。
たどたどしい手つきでエントランスのロックを外そうとするので見るに堪えない。
「俺やりますっ!」
花宮の手からカギをもらい受け、ロックを外す。
ようやくエントランスに入ることが出来た。
中は広いが、2台のエレベーターがあるのみ。
中までついて行くつもりはなかったのだが……当の花宮がこんな感じではマンションの中とはいえ不安すぎる。
エレベーターが開き一緒に乗り込む。
「階、どこですか?」
「ん~……じゅ~にかぁ~い?」
「……わかりました」
なんで疑問形なんだ。
ともかく、言われた階のボタンを押す。
目的の12階を待つ間、ユラユラと揺れる花宮の姿を横目で見る。
フードから覗く顔は綻んでいて、細められた瞳はすごく眠たそうに見える。
……高校に入学して半年以上すごしてきたが未だに友達と呼べる人はいない。
いや、語弊があるな。花宮とは……そう、友達だ。
ただ、男友達が居ない俺が、そう簡単に女子の部屋に上がってもいいのだろうか。
元々ここまで付いてくるつもりはなかったし、彼女が目覚めたときに嫌な気持ちになったりしないだろうか。
そんなことを考えてるうちに、目的の12階へ到着する。
廊下はシンと静まり返っており、蛍光灯の灯りがぼんやりと光っているだけ。
「花宮さん、着きましたよ」
「ん? はぁ~い」
目を擦る花宮は、ようやく俺の腕から離れてくれた。
「えと、ちゃんと部屋に戻れますか?」
「だいじょ~ぶだよぉ?」
……なんで疑問形なのかはわからないが、大丈夫だということなので信じよう。
「ありがと~」
そう言って、花宮は自分の部屋と思しき扉の中に消えていった。
後に取り残された俺は、廊下に佇むのみ。
心なしか残念な気持ちが芽生えていることを自覚しながら、ため息を吐き俺はその場から離れるのだった。




