傾き
俺たちはぎこちない雰囲気の中、ついに最終コースである4コース目へと突入した。
花宮が「可愛い!」と即決していたエリアで、ステージ全体がお菓子で彩られたファンシーな仕様となっている。
このステージはシンプルながらも難易度は少し高い。スピードが一気に跳ね上がるギミックや長距離の滑空区間、コースの構造がシンプルなトラックのような構造なのでそれに伴う急なU字カーブ。
可愛いだけで決めてしまうには少い初心者には厳しいような気もする。
そして最終レースがスタート。
俺はしっかりスタートダッシュを決め、CPUのカートにぶつかりつつ最初に現れる滑空区間に飛び込んだ。
順調な滑り出しだ。
隣では花宮も滑空し始めている。横目で見るといつになく真剣に眉を寄せている。
そうこうしているうちに急カーブだ。
最高速度をなんとか維持しつつ関門を突破。後続を引き離し単独1位。
出だしはかなり好調だ。
3レースでようやく取り戻した勘も冴え始めていた。
――が、その瞬間だ。
視界の端に、色素の薄い長髪がチラつく。
画面左、花宮のカートは、さっき俺が抜けたばかりのカーブを丁度曲がっている最中だった。
今までも何度かチラチラ見えていたが、急カーブに引っ張られるように体まで大きく傾いているがゆえのチラつきだった。
サラサラの髪が俺の腕にふわりと触れ、意識が自然とそちらに引き寄せられそうになる。
ほのかに甘いにおいもする。
現在位置は直線。数度のジャンプアクションと共に左右へ動かされるとはいえここで落ちる心配はない。
今はレース中だ。
こころなしか熱くなっている俺は花宮には悪いが総合順位で1位を目指したい。
腕にムズがゆさを感じつつ、意識をなんとか画面に戻す。
そして最終ラップに差し掛かった。
俺は被弾することもなく独走を続け、1位を死守していた。
一方で花宮はというと、いつになく真剣に言葉も漏らさずコントローラーを握っている。今まで何度かコース外に落下しているが、その時に短い悲鳴が聞こえるくらいだ。
そして、相変わらずカーブの度に髪が触れるという場外戦術はなおも行われいる。
あと半周。2度のカーブと直線だけだ。
後続との距離は被弾一回分なら受けても順位変動はなさそう。
所持するアイテムは2つとも防御が可能。
無理に交換する必要もないくらいには潤沢だ。あとはミスしないことが最優先。
1つ目のカーブを乗り越え、直線。攻撃アイテムが一つ飛んでくるが、後方を画面切り替えで確認しつつ防御。
勝った!
そう確信したのもつかの間。
「あっ!」
大クラッシュした。俺はコース外の奈落へと真っ逆さまに落ちる。
何があったかというと、真下には花宮の頭があるのだ。
当の彼女もキョトンとした表情で固まっている。
つまり、大きく傾き過ぎて隣に座る俺の膝に倒れ込んだ、と。
「ご、ゴメンね!」
慌てて花宮は俺の膝から頭を起こす。
ただ……そこからは転落だ。
落下と共につい指を離してしまって防御アイテムを喪失。復帰早々もう一度被弾し、コース端へと追いやられる。そして後続のカートに体当たりされて再び奈落へ。
ゴールする頃にはすっかり9位へと落ち込んでいた。一瞬の出来事過ぎて俺もよくわからない。
ドキドキ半分、衝撃半分といったところ。
俺の操作していたキャラクターはリザルト画面で大きくうなだれている。
結果、総合順位は3位だった。
「ごめん~」
花宮は恥ずかしそうに両手を合わせて謝ってくる。
その普段見せない弱弱しい態度につい吹き出してしまう。
「ふ、はは。別に、怒ってたりしないですよ」
「そ、そう。ならよかったんだけど……」
しおらしい花宮も新鮮だな。
俺は時計を見る。時刻は11時前だ。白熱しすぎていたのか、すっかり忘れてしまっていた。
まだ花宮は元気そうだ。きっとゲームでアドレナリンが沢山出ているからだろう。
「じゃあそろそろお開きにしましょうか」
「うん、そうしよっ」
「遅いですし送ります」
「ありがとっ!」
楽しい時間もつかの間、薄手のコートを部屋から取り出し、短い秋から冬の到来を肌で感じつつ家を出た。
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