コントローラー
初戦の結果は惜しくも2位。
久しぶりの操作で何度か攻撃を受けてしまい、その隙にCPUに前へ出られてしまった。
花宮の方はというと、最下位こそ免れたものの結果はギリギリ11位。
まだ1レース目だ。
画面の順位表が消えるのを見ながら、俺は小さなリモコンを握りなおす。
……CPUに負けたのが地味に悔しい。
次こそは――と、自然と気持ちが前のめりになる。
2レース目は、雪と氷に包まれたコースだ。
落下や障害物が少ない代わりに、よく滑る。ハンドル操作が遅れると、車体が流れてコース外に乗り上げてしまう。
ここではいかにドリフトを使ってカートを操作するかが肝なのだが、花宮はというと――
「あわっ! すご、滑る!」
車体が流された結果、見事にコース外の雪原へ乗り上げていた。そこでは滑ることはないが、明らかに速度が落ちてしまう。
さっきまで楽しそうにゆらゆら揺れていた花宮だったが、この時ばかりは少しパニックになっているようで、ポニーテールが左右にブンブンと振り乱されていた。
結果は残念ながら5位と、少し沈んでしまった。
このコースは滑りやすさに加えてカーブも地味に多い。この2つの要因で難易度が上がっていたといえる。
とはいえ、まだまだ2レース目だ。ここから1位で逆転することだって可能なのだ。
隣を見ると、ゴールしたばかりの花宮が息を整えつつ、またゆらゆらと揺れていた。さっきまでの半パニックは鳴りを潜め、今ではすっかり楽しそうにしている。
続いて3レース目。
このコースはカーブこそ少ないが、道中のギミックとしてトランポリンが設置してある。その真下はもちろん奈落ということもあって、跳ねた瞬間の操作を誤ってしまうと着地が乱れ、そのまま落下――一気にタイムを落としてしまうのが特徴的だ。
「わわっ! すごい跳ねる! おもしろ~い!」
花宮はトランポリンに目を輝かせながら、着地のタイミングでしきりにコントローラーを上へ振っている。
このゲームにジャンプアクションというスキルはあるが、振る必要のあるスキルは無いし、このコントローラーでは振っても何も起こらない!
そして今回、俺は落下や被弾をすることもなく、最後まで安定した走りで先頭を維持し、ついに1位を取ることが出来た。
「おぉ~、すごい! 1位だ~」
花宮は自分のことのように喜んでくれている。一方、彼女の結果は最下位だった。やはりトランポリン地帯で何度か大きく後れを取ったらしい。
「ねねね! なにかコツとかあるの? その……どりふと? ってやつ教えてほしい!」
グイグイと前のめりになって顔を近付けてくるせいで、俺は無意識のうちに身を引く。
「わ、わかったので! ちょっと下がって……」
「あ! ゴメンね。ちょっと熱くなっちゃてた」
照れくさそうに顔を綻ばせ身を引く。
俺の方も取り乱しかけた意識を正し、自分の持つリモコンを見る。
これじゃあ小さすぎて見辛いよな。
取り外しのこのリモコンではボタンが指で隠れてしまい、教えることに関しては明らかに向いていない。
「ちょっと借りますよ。えと、まずドリフトするタイミングは――で、この裏のボタンを適切なタイミングで押して、左のスティックでいつも通り曲がれば、ドリフトできます。わかりました?」
俺はわかりやすく説明できていただろうか。そう思いつつ、コントローラーを見ていた視線を花宮の方に向ける。
静かに聞いていた――そう思っていたが、よく見ると心ここにあらずな感じで、俺の言葉が届いていないようだった。
しかし、視線はコントローラーに注がれている。いや、違うな?
「す、すみません!」
瞬間的にコントローラーから手を離す。……正確には花宮の手から手を離す。
俺は説明に夢中になるあまり、花宮の手の上からコントローラーを握っていたようだった。
やらかした。それは花宮の黙り込んだ表情からみても察することが出来る。責められても仕方がない。
沈黙が痛すぎる。何かしゃべってくれないか……?
「…………あ、はは。いいのいいの。私の方こそ教えてくれてたのにちゃんと聞いてなくてゴメンね」
いつも通りの声音で笑う花宮だが、その笑顔は見るからに無理して作っているものだ。いかに人間関係に乏しい俺だって、それくらいはわかる。
再び流れる二人の沈黙が、再び痛い。
テレビ画面には軽快なBGMと共に3レース目のリザルトが映っている。
なにか話さないといけないと思いつつも、やっぱり何も思い浮かばない。そもそもこういう時にかけるべき声を俺は知らないのだ。
「……えっと、次やろっか?」
「あ、はい。そうですね」
俺たちはさっきまでとはまた別の、独特な空気間で最終レースを迎えるのだった。
タイトルが思い付かない定期




