花宮先生のミニテスト
明けましておめでとうございます!!!
食べ終わった俺たちは、並んで流しに立ち、黙々と皿洗いをしていた。
料理はほぼ壊滅的だったにも関わらず、洗い物に関してはやけに手際がいい。
人には得手不得手がある。
それを体現するような背中を横目に見ながら、皿を受け取り、すすぎ、カゴに立てる。
水音と食洗剤の匂いが、食後の空気をゆるやかに満たしていった。
「ね、あれやってみたい!」
不意に、濡れた指が宙を切る。
その先にあったのはテレビ……ではなく、その下に置いてあるゲーム機だった。
今年買ったばかりの家庭用ゲーム機。コントローラーは一台だけだが、取り外し式の小型リモコンなら二人でも遊べる。
「いいですよ。洗い物が終わり次第、準備します」
そう答えた瞬間、花宮の表情がぱっと明るくなる。
……が、すぐに何か思いついたのか、口角が少しだけ上がった。
「でも、その前に君の勉強を見させてもらってもいいかな? 私が教えたところ、ちゃんとできてるのか気になって」
なるほど。
休み明けはすぐテストだし、自分が教えた手前、成果が出ていないと落ち着かないのだろう。
だが、それはきっと杞憂だ。
この一週間、空き時間のほとんどは机に向かっていた。
ゲームフレンドの二人にも事情を話して、しばらく一緒に遊ぶのは控えている。
元々、やると決めたらやる性格だし、そこに花宮の授業が加わったのだから、なおさらだ。
「わかりました。このあとテキスト持ってきます」
そう言うと、花宮は満足そうに頷いた。
食後の満腹感がほどよく抜けた頃、俺と花宮はリビングのローテーブルを挟み、向かい合って腰を下ろしていた。
「じゃ、まず数学から見よっか」
俺もその声に合わせて、数学のテキストとノートを机の上に広げる。
数学は他の教科と違って、暗記する単語や知識はそれほど多くない。だがその分、問題ごとに数字も条件も変わり、使う数式も絶妙に異なる。理解したつもりでは通用せず、手を動かして何度も解き直すしかない科目だ。
それに、数学に限った話ではないが、高校に入ってから科目の中身が一気に細分化される。数学ひとつ取っても、今まで一括りにされていたものが数学Ⅰ、数学Aとわけられ、国語にも現代文だけでなく、古典なんかも顔を出す。
同じ教科という看板を掲げつつ、求められる思考やアプローチもまるで別物なのだ。
今回、特に力を入れたのは数学Ⅰの方だった。
数学Aではパズルのような問題が多く、手順さえ覚えてしまえば案外すんなり解ける――少なくとも、理屈が腑に落ちた後ならの話だ。
しかし、花宮に教わり、最初の段階で「なぜそうなるのか」をきちんと理解できたおかげで、解き方が一本の線として頭の中に残すことができた。
そして気づけば、数学Aは100点満点レベルとは言わずとも、ほぼ完璧と言っていいところまで仕上がっていたと思う。
それまでの段階では、どうしても頭の中がごちゃごちゃしてしまい、何をしているのか分からなくなる。それが、今まで俺がつまずいてきた理由だった。
問題は数学Ⅰだ。
こちらは何度も解いて体に染み込ませるしかないタイプの分野であるため、小手先ではどうにもならない。
必要なのはとにかく反復すること。この一週間で嫌というほど実感した。
「どこか分からないところがあったら教えるから、まずは一通り――ここからここまで解いてみて」
花宮はそう言いながら、人差し指でテキストの範囲をなぞった。
ここの問題はもう何度も解いているせいで、正直言って頭に染みついてしまっている。
だが、重要なのは結果ではなくそれまでの過程――途中式の方だ。
俺が何度もテキストで問題を解いていることを知ったうえで、解く様子を見たいのだろう。
俺は黙って頷き、ペンをとる。
しばらく、紙の上を走るシャーペンの音だけが、リビングに規則正しく響いた。
途中で詰まることもなく、計算の流れも滞ることはなかった。
最後の問題を書き終え、ペン先を離す。
答案を覗き込んだ花宮は、小さく頷きながら目を動かす。
「うんうん、バッチリだね。じゃあ国語――って、現代文の方は得意なんだっけ? じゃあ古典の方だけ見させてもらおうかな」
古典も同様に理解がいる。
漢字とひらがなで構成されている分、英語より楽だと思っていたが、結局は一筋縄ではいかない。
数学ほどスラスラといかないまでも、赤点回避は余裕だろう。
俺は改めてペンを握り直した。
本年も頑張っていきたいと思います!!!




