ご飯
時刻は八時半。
およそ一時間かけて、どうにか晩ごはんを完成させた。
とは言っても、ほとんど俺が調理しており、花宮はというと、キッチンの隅で尻尾でも振っていそうな勢いで、それを眺めていただけだった。
別に決定的に幻滅したというわけではない。
ただ、俺の中にあった花宮詩乃という人物像が、音を立てて崩れていく感覚があった。
完璧で、隙がなく、何でもそつなくこなすクラスどころか学校の中心人物。アイドルのような人気を持ち、文武両道、品行方正……まあそんな四字熟語を並べ連ねたような少女。
しかし、やはりどこか壁があったと思う。
誰にだって分け隔てなく優しいが、クラスメイト以上の関係に一歩踏み込まさない。そんな漠然とした空気があった。もちろん、彼女と仲の良い3人の女子たちとの間にはそのような壁は見受けられないが。
それが、元々あった彼女への印象だ。
そんなイメージが、見るも無残に霧散してしまったくらいには彼女の印象は180度変わってしまった。
でも、不思議なことに今の方がずっと親しみやすい。
それが今、俺に対してもその壁を取り払った素顔というか、素を晒してくれているような気さえする。
なんで俺に? という疑問はどうしても浮かんでくる。
先週、彼女の秘密を知ったから? それとも以前から俺のことを好きだったから?
……いやいや、前者はまだしも後者はないだろう。
そもそも男として見られていない可能性も――それはそれで傷付くものがあるな。
そんなことを頭の中で悶々と考えていると、
「はい、お待たせ!」
花宮の声で意識が現実に引き戻される。
彼女の両手にはご飯茶碗。ひとつは俺の前へ、もうひとつは彼女自身の前へ置かれる。既に置かれている味噌汁と、ご飯は彼女がやりたいと言ったので任せることにした。
「……多くないですか?」
「え、そう?」
思わず口に出た。
明らかに、山だ。これではあまりに丘陵地帯然としている。
食べ盛りの高校生とはいえ、これは――さすがに盛りすぎだろ。
今日は念たため三合炊いていたが、完全に計算を誤った。
かくいう花宮も、別に少なくはないが、俺の量とは明らかに違うのだ。
まあ多分大丈夫だろう。
俺はため息混じりに苦笑しながら、手を合わせる。
それにならって花宮も手を合わせた。
「じゃあ食べましょうか」
「うん! いただきます」
花宮は、早速ハンバーグに箸をつける。いわく、まずは素材の味を楽しむのだそうだ。
「ん~~、おいしぃ~」
頬に手を添え、目を細めて、全身で喜びを表現する。
少し大げさなくらいの反応なのに、わざとらしさはなくて、ただ素直だ。
「…………」
気が付くと、顔が綻んでいた。他人から見ればほとんど変わらないように見えると思うが、どこか――安心したというか、まあそんなところだ。多分。
「すごいね、ふわふわだし、ちゃんと肉の味もする」
「麩を使ってるんですよ」
「へぇ~! なにそれ、プロっぽい!」
父親が料理好きなのと、以前テレビでパン粉よ麩の方がいいと言っていたからな。
ちょっとした受け売りだ。
無邪気に感心する声を聞きながら――
――ああ、悪くないな。こういう金曜日も。
ハッピーメリー『後』!!




