表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

至近距離とポニーテール

「お邪魔しま~す」


 19時半ごろ、花宮が家にやってきた。

 家のインターホンを合図に扉を開けると、夜の空気を連れて彼女が立っていた。

 水色のハイウエストパンツに、白いトップス。その上からベージュの薄手のカーディガンを羽織っている。

 全体的に落ち着いた色合いもさることながら、どこか柔らかで目を引く。

 正直なところ、俺自身ファッションに疎い。専門的なことなんて何もわからないし、そもそも語れるような知識がないのだ。

 それでも、だ。

 スタイルのいい花宮がその恰好をしていると、清楚さと共に親しみやすさというか、美をしらない俺ですら美しさを感じる。妙にしっくりくるのだ。

 飾りすぎておらず、それでいて自身をしっかり惹き立てている。……きちんと可愛い。

 多分、ただ美人だから何でも似合うというわけではなく、これも彼女のセンスの賜物なんだろう。

 しゃがみ込み、靴を整える彼女の髪から甘くフローラルな香りが微かに感じられる。

 変な煩悩が生まれそうだ。間違っても間違うことはない……はずだ。

 そんなことを考えているうちに、花宮は立ち上がりながらこちらを見上げてきた。

 あざとい要素もあるようだ。

 どうにかなる前に、俺は先にリビングへと向かう。


「ハンバーグ~、楽しみだな~♪」


 心なしか、いや、明らかにすごく上機嫌だ。

 玄関を上がるなりそんなことを言うものだから、こちらまで少し気が抜ける。

 思えば2日前の放課後くらいから、花宮はやたらとハンバーグの話題を口にしていた。

 例えば、本人はデミグラス一強で、それ以外は受け付けないらしい。

 俺も普段デミグラスソースを使っているが、もし俺が別派閥だったら絶交だったそうだ。もちろん冗談だと笑っていたが、なんなのだろうその対立意識は。普通に怖いが?

 まあ、そんなこんなで本気で楽しみにしているようだった。

 そういえば、花宮の好きな料理なんて、あまり知らないな。

 少なくとも、ハンバーグがそぬちのひとつなのは確かだろう。


「先に手洗ってくるね」


 そう言って、花宮はごく自然な動きで脱衣所へと入っていった。

 ……まだ2回目なのだが。いや、別に一軒家でもあるまいしたかがマンションだ。そこまで広くもないため、普通に覚えていたのだろう。

 先にキッチンへと入り、並んだ食材に目を向ける。

 静かな室内には、これから始まる夕食の気配だけが漂っていた。

 背後から聞こえる水音を耳にしながら、花宮を待つことにした。




「お待たせ! 何から手伝えばいいかな?」


 キッチンに入ってきた花宮は、少しだけ身を乗り出すように俺の隣にやってくる。

 ……距離感がバグってるな。

 思わず一歩分、無意識的に後ずさる。


「それじゃあ、野菜を切ってもらってもいいで――」


 そこで、言葉が途切れた。

 女性なら当然かもしれないが、こうも近くで見ると新鮮な気持ちが催してくる。

 服装はさっき見た通り変わっていない。もちろん雰囲気や声もいつも通り。

 決定的に違うのはその髪型だった。

 ポニーテール。

 最近で言うと、体育のバスケの時間にポニテをしていたと思う。

 ただ、その時はグリーンネット越しの遠目だったし、深く意識することはなかった。

 それが今はすぐ隣だ。

 ハーフアップにまとめられた髪のせいで、首筋がすっきりと露になっている。

 照明を受けたうなじがやけに白く、見入てしまうところだ。


「……髪、結んだんですね」

「ん? あー、邪魔かと思って。料理する時はこっちのほうがいいでしょ?」


 言われてみれば確かにそうだった。

 女性は神が長い人も多いし、そのまま作業をすれば下手をすると事故につながりかねない。

 油やお湯、包丁といった危険なものを扱うのだから、気を回して当然だろう。ちょっと失念していた。


「確かにそうですね。あ、それと……これ、使ってください」


 俺は用意していたエプロンを差し出す。

 二着もあるわけじゃないし、普段通りの俺よりも、きちんとオシャレしてきている花宮に着てもらった方がいいだろう。


「ありがとっ!」


 花宮は素直に受け取り、首に紐をかける。

 くるりと背を向け、後ろ手に腰回りの紐を結んでいく。

 特別な柄があるわけでもない、ごく普通の無地のエプロン。それなのに、花宮が着るだけで妙に様になるのだから不思議だ。


「どう? 似合ってる?」


 自慢げにこちらを振り返り、明らかに欲しい言葉を待っている顔を向けてくる。


「はい、似合ってます。それこそ、普段から料理とかしてそうに見えます」


 そう答えると、花宮は満足そうに目を細める。


「ふふふっ」


 やっぱり今日はテンションが高いな。

 まあ、好きなものを食べられるのだし当然か。

 やっぱり花宮って犬みたいだよな。楽しいこと、嬉しいことには直球で喜ぶし、自慢やドヤ顔もわかりやすい。

 いつか、見えない尻尾が見えるようになればいいのに。

 俺は内心でそう呟くのだった。


 ……この後の恐怖体験も知らずに。

毎回タイトルって悩むよね。とりとめのない会話や描写のつもりだし、これ!!っていう要素が見つからないことが多いの。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ